抗原検査のような検査ストリップでPCR検査の感度を実現?

2024年3月14日
全体に公開

PCR検査が、感染症のような公衆衛生、バイオセキュリティ、環境科学に与えた影響は非常に大きいことは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで実感されたと思います。一方で、抗原検査はPCR検査に比べ感度は劣るものの、その簡便性から有用なものになっています。

PCR検査の感度と抗原検査の簡便性を合わせたような検査技術の開発は世界中で行われていると思います。シドニーにあるニューサウスウェールズ大学のチームが、CRISPR/Cas12a系を利用したポケットサイズの検査ストリップを開発して、3月5日付けのNature Communications誌に報告しています。

Deng, F. et al. (2024) Topological barrier to Cas12a activation by circular DNA nanostructures facilitates autocatalysis and transforms DNA/RNA sensing. Nat Commun 15, 1818 . https://doi.org/10.1038/s41467-024-46001-8

まず、CRISPR/Cas12aの反応について理解する必要があります。Cas9と同様にCas12a(Cpf1)もガイドRNAを使って標的DNAを認識し、そのDNAを選択的に切断します(シス切断活性)。一方、Cas12aには、標的DNAとは異なるDNAを無作為に切断する活性もあります(トランス切断活性)。無作為にトランス切断されるDNAは、一本鎖DNA(ssDNA)です。

https://pubs.rsc.org/en/content/articlehtml/2021/sc/d0sc06973f

これまでの方法は、CRISPR/Cas12aが活性化された場合、ssDNAのレポーターを切断した時、そのシグナルを検出するというものでした(下図A)。今回の方法は、下図Bのような「Cirメディエーター」という環状のDNAナノ構造(〜20 nt)を利用します。これは、ssDNA(黒)と二本鎖DNA配列(dsDNA)を組み合わせたもので、dsDNAには、PAM領域(オレンジ)とCas12a RNPのガイドRNAと相補的なターゲット領域(青)があります。

ガイドRNAにより活性化したCas12aは、Cirメディエーター中のssDNA配列の部分を切断しますが、dsDNAの部分は切断しないので、線状の分子になります。ここで、チームは元の環状Cirメディエーターとそれが切断されて線状になった分子が非常に異なるCas12a活性化の様相を示すことを見出しました。長さを検討することで、線状分子が環状分子よりはるかに強くCas12aを活性化するという状況にすることもできます。

その結果、ひとたび反応が開始すると、環状分子が線状分子になり、それが更にCas12a-RNA複合体(Cas12a-RNP)を活性化するという、下図Cのような自己触媒の連鎖が生じることになります(Autocatalytic Cas12a Circular DNA Amplification Reaction (AutoCAR)。

https://doi.org/10.1038/s41467-024-46001-8

この反応系を用いて、蛍光物質とクエンチャーのペアで修飾されたDNAナノ分子を用いると、室温で15分以内に1aMレベル(1μLあたり、1コピー以下=PCR検査とほぼ同等)のDNA検出ができたということです。それにより、ゲノムDNA(ピロリ菌)、RNA(SARS-CoV-2)を高感度で検出することができました。また、比色の検査ストリップのフォーマットで、がん変異も、〜100aMの感度で検出できることを示しています(ただし、バックグラウンドが高いようです)。

コストも非常に低く、現在は1回の検査につき数ドル以下だとしています。業界からも好意的な反応があるそうです。

合成生物学は新たな産業革命の鍵となるか?」担当:山形方人

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