ゼロからわかる ウクライナ侵攻2年の現在地「世界の防衛費は過去最高」に

2024年2月28日
全体に公開

ロシアが隣国ウクライナへの全面的な侵攻を始めて2年が過ぎました。プーチン大統領は占領地から撤退するそぶりをまったく見せません。

ウクライナ、ロシア、世界の現在地について、最新ニュースを交えて「侵攻から2年」を見ていきましょう。

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ウクライナの今

ゼレンスキー大統領は2月25日に会見を開き、侵攻からの2年間でウクライナ兵の死者が3万1千人に上る、と初めて公表しました。ロシア兵の死者数を、ウクライナ兵のおよそ6倍の「18万人だ」と強調しましたが、戦況は芳しくはありません。

昨年6月にはウクライナ東部や南部で領土奪還を目指す反転攻勢に出て、ロシアによる占領地を分断、撤退させる交渉に持ち込もうと考えました。ただ、成果は乏しいまま、失敗に終わったとされます。

逆に、昨年10月からはロシア軍が猛攻を再び見せて、最近は東部ドネツク州の要衝アウジーイウカから、ウクライナ軍が撤退を迫られました。

首都キーウでは、避難していた住民が戻りつつもあります。ただ、空襲警報が鳴り止ず、再び大規模に攻撃される恐れもあります。

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今後の見通しについて、ゼレンスキー大統領は「我々と、我々の兵器の製造能力と、パートナー次第」と語りました。つまり自力だけではとても乗り切れない。最大の頼りはアメリカです。

アメリカでは、約9兆円のウクライナ支援を含む予算案が、トランプ前大統領に近い共和党下院議員らの反対で、成立の見通しが経っていません。

ウクライナは1ヶ月以内の支援決定に期待していますが、停戦に向けた交渉と共に先行きは不透明。各国の支援疲れが指摘されています。

ロシアの今

2022年2月24日、ロシアが一方的に始めた戦争。終わらせられるのは、ロシア、つまりプーチン大統領だけなのですが、気配はまったくありません。

プーチン大統領の言動で最近、特に注目されたのが2月6日、アメリカの保守系テレビ局FOXニュースの元司会者、タッカー・カールソン氏によるプーチン大統領との一対一のインタビューです。西側メディアによる単独インタビューはなんと2019年以来でした。

2時間に及ぶインタビュー、プーチン大統領自身は「鋭い質問がなく驚いた」と余裕しゃくしゃく。一時の焦りはなりをひそめ、侵攻当初の強気に戻ったと、もっぱらです。

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主な発言は次の通りです。

・「ウクライナ人は一つのロシア民族の一部だ」と侵攻を正当化したほか

・攻撃の対象を、NATO=北大西洋条約機構の加盟国にまで拡大するつもりはない

・アメリカは、ウクライナへの軍事支援を即停止すべきだ

ロシア国内の状況として、軍事と経済だけPickUpしてみます。

国防費は、ウクライナ侵攻前の2021年と比べておよそ3倍の16兆円。軍需品を24時間態勢で増産して、生産能力は4倍に拡大したといいます。

侵攻直後の2022年は経済制裁によってGDPはマイナス成長になりましたが、23年は前年から3.6%増のプラス成長でした。これは、原油価格が高騰する中、制裁に加わらない中国やインド、トルコなどに積極的にエネルギー輸出したためです。

軍事、経済力ともに、着々とまた力を蓄えており、外国からの支援頼みのウクライナとの差は浮き彫りに。インフレや労働力不足というロシア国内の課題を除けば、長引けば長引くほどロシアには都合が良い情勢といえます。

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中立国🇸🇪やめる、国防費🇩🇪増やす

スウェーデンが26日、NATO加盟を決定的にしました。最後の壁だったハンガリー議会が加盟を承認したためです。

スウェーデンは、200年近く「中立」や「非同盟」を掲げてきましたが、ウクライナ侵攻を受けて、NATO加盟を申請しました。フィンランドと共にこの北欧2カ国が中立政策をやめたことは、歴史的な転換と国際的に受け止められています。

ロシアの脅威が高まる中、ドイツをはじめ国防費を増やした国は多く、昨年の世界の防衛費は過去最高となりました。

侵攻は、こうして世界の安全保障を大きく緊張関係に変えました。

Hungary Ratifies Swedens Bid To Join NATO, Being The Last Member To Do So/GettyImages

教訓が揺らいでいる

他にも大きな変化があります。

一つは、国際社会が2度の世界大戦を経て作り上げてきた大原則の揺らぎです。

改めて、ロシアのウクライナ侵攻は何が問題か。

国際法の柱である国連憲章で定めた「武力の行使と威嚇の禁止」に違反していることです。例外として自衛権は認められていますが、それは武力攻撃を受けた場合の「反撃」。今回は「自衛」ではなく、侵略以外の何ものでもない、と多くの専門家が指摘しています。

その侵攻も3年目に入りました。昨年12月の調査では、平和や独立のためなら領土の譲歩もやむなし、と答えるウクライナ人が増え、「全面的に認められない」とする国民が初めて8割を切りました。

ロシアの「力による変更」が、時が経つにつれて日常化、当たり前となり、戦争犯罪は許さない、国際法や人権の尊重を訴える声や姿勢が揺さぶられています。

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「関心の低下こそ侵略者が望んでいたもの」

朝日新聞は、侵攻2年の2月24日の朝刊で、1面から7ページにわたって関連ニュースの特集を組んでいました。そのうちの一つは、ウクラナイ当局のSNSを分析して、空襲警報が699日で3万7413回あったとするデータの調査報道でした。

社説に次のように書かれていたのを読んで、私もここで取り上げることにしました。

「国際社会の関心の低下こそ、まさしく侵略者が待ち望んでいたものだ」

今後も折に触れて、ウクライナ侵攻を取り上げていければと思います。

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このコラムでは、海外特派員など新聞記者として長らく経験を積み、現在はウェブメディアの編集長やラジオ・Podcastのパーソナリティとして活動する剣道五段の野上英文が、MBA取得で得たビジネス視点も加えて、世の中をまるっと“二刀両断”で切り込みます。

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▼参考ニュース:

ロシアのウクライナ全面侵攻、2年間を振り返る プーチン氏はさらに安泰なのか(BBC)

https://www.bbc.com/japanese/articles/c4n41gler20o

ウクライナ大統領、東部要衝の失陥重視せず 侵攻2年控え戦果強調(ロイター)

https://jp.reuters.com/world/ukraine/QF57366SOJMJLKV4VCJIMKEJPI-2024-02-22/

ウクライナ大統領、ロシアは5月下旬にも新たな攻勢(CNN)

https://www.cnn.co.jp/world/35215704.html

「米支援なければ死者数百万人に」 ゼレンスキー氏が危機感(CNN)

https://www.cnn.co.jp/world/35215696.html

スウェーデン、軍事的中立からNATO加盟へ 国民や関係者の思いは(BBC)

https://www.bbc.com/japanese/articles/cw4q45q3549o

軍事侵攻2年でゼレンスキー大統領が演説 徹底抗戦の姿勢示す(NHK)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240225/k10014369681000.html

ウクライナ侵攻2年~終わり見えぬ戦いを乗り越えるには(NHK)

https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/492066.html

ウクライナ侵攻、ロシアに対し国際法は「現時点で無力」それでも専門家が考える意義(GLOBE)

https://globe.asahi.com/article/15165445

FOX元看板アンカーのカールソン氏、プーチン氏にインタビューへ(ロイター)

https://jp.reuters.com/world/ukraine/SM2NHFJP55IRVKAR4SDYYSZXPQ-2024-02-07/

(社説)ウクライナ侵攻2年 長期化見すえ持続的支援を(朝日新聞)

https://digital.asahi.com/articles/DA3S15871126.html

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