スノーピークはなぜ失速したか〜印象戦略の落とし穴〜
こんにちは。ファッションスタイリストの神崎裕介です。先週は阪神梅田本店イベントのため出張していました。大阪は元気になれる街。大好きです。
昨日からアパレル業界のみならず、大きな話題となっているのがアウトドアブランド「スノーピーク」を巡る報道です。
純利益99.9%ダウン、という数字は非常に衝撃的でした。そして上記の報道が出たあと、ベインキャピタルと組んでのMBOが発表され、株式は非公開化されることになります。
ちなみにベインキャピタルですが、アパレル関連では「スナイデル」「ミラオーウェン」などを展開する日本のマッシュグループ、ダウンジャケットが人気の「カナダグース」に出資していることでも知られています。
今回苦戦の原因は、新規をあてにしたプロパーが予想以上にはけずセールでも売れなかったことと推測されますが、人気低下→利益減→イメージ低下→株式非公開化、という流れはおかしなものではなく、流れの一環なのかなと感じます。
が、「なぜそうなったのか」という部分について、アパレル視点からブランディング的な目線で考えてみることで新たな視点や何らかのヒントがあるのではないか、と考えました。
1:キャンプブーム失速、は本当か
まず第一に「キャンプブームが失速した」と言われていますが、本当でしょうか。データを追ってみました。まずオートキャンプ(キャンプ場まで車で行く、車中泊キャンプをする人)人口のデータから。
確かにコロナで一旦減って急回復したあと、また下がっているのが分かります。外出制限がなくなり、元々他のレジャーがメインだった人が回帰したからというのはひとつの理由と言えそうです。
そしてスノーピークの業績。
こちらも右肩上がりで売れていますが、2023年はすでに経常利益が下がってきていることが分かります。予兆はすでに見えていたということでしょう。
さらにキャンプ用品の購入アンケートについて見てみます。
2023年からは新商品の購入よりも、コレクションの補完や消耗品の入れ替えにニーズがシフトしたことがはっきりと見えてきます。コロナ禍でキャンプを始めた、再開した人がひと揃い購入してしまい、エントリー層の購入が鈍ったことは確かでしょう。
これらのデータを見ると「キャンプブーム失速」は様々な要因から実際に起こっている、と考えられます。
だとしてもなぜ、スノーピークはこれほどまでのダメージを受けてしまったのでしょうか?
2:ここまでのスノーピーク
スノーピークは、元々は金物問屋として創業し、オリジナルの登山用品や釣り具を開発したことをきっかけにアウトドアメーカーとして発展したブランドです。
近年はアパレル事業を拡大してきましたが、その立役者となったのが、2020年社長に就任した創業家出身の山井梨沙氏でした。
2014年にアパレル部門を立ち上げると、5年で17億円規模にまで成長させた実績を引っ提げ社長に就任。その路線をさらに打ち出していきます。また”若き女性トップ”ということで様々なメディアにも登場し、一躍時の人に。
2022年には、二子玉川ライズにアパレルやオリジナル家具を揃えたショップもオープン。より「日常生活へ」を打ち出しライフスタイルブランドへの転身を進めていきました。
同年度の業績では、アパレル部門は約14億円の売上高を上げています。
全体では11%ほどの数字ですが、2番目の成績となっています。
ところが2022年9月、週刊誌報道によって明らかになった個人的な問題により社長辞任となり、先代であり父である太氏が社長を兼任することに。
青天の霹靂だったでしょうから、ここにキャンプブーム失速のタイミングも重なり、難しい舵取りになっていったことは想像に難くありません。
この頃から今にかけて、スノーピークの戦略は「都会的」で「お洒落さ」を徹底的に打ち出したものです。
ファッションブランドさながらにスタッフコーデを掲載したり
コレクションのイメージも、都会での着用を期待してのものが増えていきます。
方向性としては、同じアウトドア系でありながらデイリーユースも人気のヘリーハンセンやパタゴニア的な方向性を目指したのだと思います。結局アウトドア向けオンリーだとパイが狭いので、もっとカテゴリーを広げたいというのはおかしいことではありません。
ジャンルは違いますが、「無印良品」を展開する良品計画もメインは雑貨や家具ですが、アパレルは人気のカテゴリーとして新宿に単独店を出店するほどの勢いです。
日常的に身に着けるアパレルは愛着を生み、着て宣伝してくれる効果もあるので、力を入れることは間違っていない。
では、なぜそうなれなかったのか。
それは、ブランド主導のイメージとユーザーの求めるブランド像が乖離していったからだと考えられます。
3:ブランディングの落とし穴
当初アパレルが成功したのは、既存のユーザーが好感したこととキャンプグッズを探している新規ユーザーの目に止まったからでしょう。どうせならお洒落な方がいいし、あくまで「(アウトドアグッズの)バリエーション」という位置付けです。
そこからよりデザイン性や新規性を打ち出していき、前述したような都会的で洗練された印象を強めたわけですが、それに伴って価格も上昇していきます。
他社(他者)と同等レベルの内容、価格ならイメージが良い方を選ぶ、というのはこれまでのトピックでも書いてきた通り。これは絶対的な選択だと思うのですが、値段が上がったとき、その真価が問われることになります。
購入する方も値段が上がると比較検討のハードルが上がるわけで、スノーピーク(特にアパレル)はそこでつまづいてしまったのではないかと推察します。
例えば、ゴアテックスのレインジャケットは6万円ほどの価格です(61,600円)
一方、アウトドアギアとしての高い評価とファッション性で人気のカナダ発「アークテリクス」の同等レベルのゴアテックスアイテムと、1万円の差がありません(68,200円)
こうなったとき、どちらを選ぶか。
スノーピークの濃いファンでなければ、正直アークテリクスの方がプレゼンスやブランド力は高いでしょう。デザイン性で圧倒的に凌駕しているとも言えない。僕はアウトドア初心者ですが、もし買うとするならイメージ的に後者を選んでしまうと思う。
さらにもう少し足せば、こちらも人気の「ザノースフェイス」のゴアテックスロングジャケットが買えてしまいます。(71,500円)
ザノースフェイスはセレクトショップのバーニーズニューヨークで販売されていたり、ファッションブランド「HYKE」とコラボするなどそのデザイン性の高さも評価のひとつ。そういったブランドと比べた場合、やはり質や価格の問題は避けられません。
アウトドアグッズに目を向けても、ワークマン女子を代表とする低価格ながらバリエーションがあり機能性も重視、というブランドが台頭。手軽なファッション性や楽しさを求めるライト層に加え、いわゆる”ガチ勢”も取り込んでいます。
近年のブランディング・イメージ戦略では、SNSでの写真や動画効果を軸に「とにかくファッショナブル」に「高級感」を演出し、イメージの良さを背景に強気の価格設定で稼ぐ、というのが主流になっていました。
しかし、この手法は真剣に比較検討されると魔法が解け、何か不祥事やマイナスなニュースが出ると一気に潜在的な不満が噴出し崩壊してしまうあやうさがある。スノーピークの場合も前述の社長辞任のニュースに紐付いて、アパレルに傾倒しすぎて本来のユーザーをないがしろにしている、価格に見合っていない、といったコメントが多く見られました。
今回のMBOのニュースに関してYahoo!ニュースを見ても
といったコメントが散見されます。ブランドとしてお洒落で高級、というイメージを作ることは間違っていないのですが、打ち出したいイメージとユーザーの想いがすれ違ってきてしまった。
そこに気付いていながら付いてきてくれると引き上げようとしたのか、そういう層は捨てようとしたのか。同じような事例として思い浮かぶのは、バルミューダです。
4:「ブランド側の想い」は受け入れられているか
バルミューダも、高級お洒落家電ブランドとしてトースターにポットと次々にヒットを飛ばし、高級家電ブームの旗手として人気を博しました。
ところが、満を持して発売した「バルミューダフォン」が販売スキームやフォローを含めて不評を買い、業績もイメージも低下することになってしまった。
バルミューダもトップの強い想いをカタチにすることで成長してきた企業ですが、やはりその「想い」とユーザーの「願い」に、徐々に齟齬が生まれてきてしまっていた。
既存ユーザーからはフォンへの期待度は高かったようですが、他社と比較してあまりに低いスペックとその価格(10万4,800円)に失望感が高まり、元々バルミューダに懐疑的だった人を巻き込んで、マイナスな話題が席巻してしまったことは記憶に新しいところです。
この構図は、スノーピークと重なります。
イメージや価格はどんどん上がっていく。ではプレゼンスやクオリティは同価格帯と比べてどうなんだ?というジャッジになると、どうしても見合った質が求められる。ユーザーのブランド愛やイメージ戦略だけでは乗り切れないハードルが出てきてしまうのです。
5:さいごに
ブランド側として「こうしたい」「こうなりたい」というビジョンを持つことは正しいと思います。ただ、それはユーザーに受け入れられるもの、望まれるものでなければなりません。
そのあたりファッションブランドは非常に敏感で、常にアンテナを張っています。シャネルやエルメスといったブランドがずっと憧れのブランドであり続けているのは、ユーザーの憧れポジションから外れないようコントロールしているから。
むしろ、ユーザーのために存在していると言っても過言ではないでしょう。ファンが何を望んでいるか、どうすれば将来にわたって夢を与えられるかを考え抜くことが、結果的に業績にも繋がっているわけです。
これはブランドや企業だけでなく個人のブランディングにおいても重要で、いかにマイナスのギャップを生まないかがとても大事。実際会ったときも作り込まれた印象をキープできるでしょうか?
イメージを上げたい、とブランド物に身を包みまるでアー写のようなプロフィール写真を撮ることが果たして本当に必要なのか。自己満足だけで顧客や一般の人の抱くイメージ、望むイメージと乖離していないか。よくよく考える必要があります。僕も撮影に立ち会うことが多いですが、特にその点を意識してスタイリングを行います。
SNSがインフラになった結果イメージ戦略が容易になった反面、ネガティブな声も表面化しやすくなりました。
イメージの良さは大事ですが、現代では「良い話」ばかりでは共感を生めません。発信者主導でコントロールしつつも”押しつけ”にならないよう留意し、無理のない印象と価格設定に見合った品質で共感を獲得することが必要です。
お洒落な企業が増えることは個人的にも嬉しいし、アウトドアや家電をもっとスタイリッシュに、という試みには共感する人も多いはず。だからこそ客観的に見定めてほしいなと思ってしまいます。
発信が容易な社会は、イメージがひとり歩きしやすい社会でもある。
しっかりイメージと”伴走”し、客観的に見ながら修正していく視点が大事だと、今回のニュースを見て改めて感じるところです。
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神崎裕介
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表紙画像:https://www.snowpeak.co.jp/news/category/information/より引用
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