Money20/20 米国金融業界の舞台裏

2023年12月1日
全体に公開

2023年10月23日から26日(米国時間)にかけて行われた「Money 20/20 2023」は、金融業界における最大級のイベントです。このイベントでは、金融業界のトレンドについて数多く語られていました。

1. データ戦略の重要性 金融機関におけるDatabricsの活用

Databricsは、データレイクおよびデータウェアハウスを提供している企業であり、金融業界においては2,000社以上の導入実績があります。最近のデータレイクおよびデータウェアハウスは、簡単にAIとの連携をすることができます。

金融業界でのAIの主な利用用途は、引き受け業務などにおける情報の精査、詐欺対策などです。また、最近では、特定のタスクに特化した小規模なAIが広く使われています。

独自のLLM(Large Language Model)を構築する企業も多く、多くのメリットがあります。情報精度の高さから、AIにありがちな“幻覚”への対処がしやすい点や規制への適用がしやすさが挙げられます。

また、最近では、オープンソースの活用が推奨され始めています。オープンソースは一見リスクがあるように見えますが、実際は、ベンダーに依存することなく迅速に構築ができることから、規制への柔軟な対処ができるといったメリットがあります。

2. さまざまなAIの活用法

各プロセス間のルールに基づいた自動化、未決済の請求書と入金の照合、販売活動への活用、コールセンター業務や開発者の生産性向上にAIは活用されています。

ウェルスマネージメントの領域では、AIチャットボットの活用も進んでいますが、一部では富裕層向けにチャットボットを使用することへの適切性についての議論があります。このケースでは、顧客との会話やメモを分析して意図や行動を検出するためにAIが利用されています。近い将来、即時決済へのAIの適用が注目されています。

一方、基幹業務については、多くの金融機関にとって、規制や既存システムへの適用など、AIを全面的に導入するにはまだまだ障壁が多く、まだ萌芽的な段階にあると言えます。

3. 「個人財務データの権利」に関する規制の制定は来年秋までに最終化

米国で現在最も注目を集める規制は、ドットフランク法1033条であり、「個人財務データの権利」について明言したものです。

現状、利用者が新しい金融サービスを利用しようとしたとき、これまで利用していた金融サービスの過去の取引履歴などの情報を移管することはできません。これが理由となり、新しい金融サービスの利用に躊躇してしまう場合があります。結果、金融サービス間の競争が促進されず、サービスがより良くなっていくための障壁になります。

ドットフランク法1033条では、利用者の同意をもとに、利用者が簡単に自身の取引履歴情報などを取得し、移管できるようにすることを金融機関に義務付けています。

規制への対応として、大手金融機関は、APIの提供に積極的に取り組んでいます。準備はかなり進んでいる状況です。懸念事項はデータの安全性やプライバシー保護などが挙げられています。

4. 即時決済の将来性 だれがどのように利益を得るか?

即時決済は、ギグワーカーが即座に給与を受け取ったり、Eコマースのリアルタイムな決済処理により商品を迅速に受け取るメリットがあり、注目を集めています。

従来、送金はバッチ処理が主流でした。送金処理が実行されるまでに時間があるため、不正検知や情報の整合性確認を行う余裕がありました。即時決済の場合、これらをリアルタイムに対応する必要があります。近年では、こうした課題に対応するフィンテック企業も増え、技術的な対策が可能となってきています。

即時決済のもう一つの課題は、「そもそも即時決済が本当に利用者のメリットになっているのか?」という点です。「支払側と受取側で双方に素晴らしい体験を生み出すことが課題」と言われています。

即時決済のメリットは、従来得ることができなかったデータの取得が可能な点です。データには、決済した時間、決済者の位置情報や決済者の心理状態などが含まれます。金融事業者は、これらのデータを活用して、顧客へのロイヤリティを構築する必要があります。

5.ウェブ3はまだ終わっていない ハイプ・サイクルを繰り返す

Mastercardは、マーケティング戦略において“体験を重視する”戦略を発表しました。従来は広告に注力をしてきましたが、広告はもはや消費者の注力を引くことができないことを言及しています。戦略の一環として、Web3にも積極的に挑戦しており、「Moon Pay」との提携を発表しました。Moon Payは仮想通貨を取引できるオンライン決済サービスを提供しています。この提携による具体的なサービスはこれから発表されていきます。

Web3市場は依然として不透明であり、変動的ですが、Mastercardが提供するクリエーター向けのプログラムへの申込みが増加しています。Web3プラットフォームだからこそできる利用者とのエンゲージメントの機会が増えています。

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