(基礎情報整理:スタートアップ)なぜブラジルでフィンテックが盛んなのか?

2023年10月20日
全体に公開

前回、アマゾン川で感じたフィンテックと称して、ブラジルの地方にも浸透しているキャッシュレス決済の現場をお伝えしました。今回はその続きとして、ブラジルのスタートアップの現在位置と「なぜブラジルでフィンテックが盛んなのか?」という点について基礎的なポイントを整理します。

中南米のスタートアップの6割を占めるブラジル

まず中南米地域におけるスタートアップの年間の創業数(累計)ですが、Distrito社他による資料「LANDSCAPE TECH LATIN AMERICA 2023」によると2023年6月30日時点で2万2,750社に達しています。ブラジルは、そのうちの約6割(62.9% 1万3,365社)を占めています。2023年上半期の資金調達額もラウンド数も全体の約6割となっています。

ユニコーンの数では域内全体45社中24社はブラジルです。ブラジルの約1万3,000社のスタートアップの内訳をみると、ビジネスモデル別ではSaaSが約半分(49.7%)、セクター別ではフィンテックが最も多く(12.2%)なっています。

「金融の民主化」目指す

 セクター別で最多のフィンテックについて、英Findexableによる世界のフィンテックランキングでブラジルは14位、サンパウロが都市別で4位(2021年時点)となっています。ブラジルでのフィンテック興隆は、政府・中銀が「金融の民主化」を掲げて着実に規制緩和を進めてきたことが一つの要因かと思います。なぜ政府・中銀が規制緩和を進めてきたのか?そのきっかけは1990年代に遡ります。一言で言うと、高インフレ時代が終わり、経済が正常化し、外資開放を進めても競争環境を作ることができず、金融包摂も進まなかったことが背景にあります。

つまり、1990年代前半の高インフレが収束し、銀行業界は本業回帰(それまではインフレ益でもって多くの余剰人員も抱えていた)を求められ、さらに政府から再編と効率化が求められるようになりました。政府は金融部門の再編を奨励し、公的銀行の民営化も進めるなどの施策を打ちました。外資開放も進め、欧米系銀行による大型のM&Aなどもありましたが、その後なかなか競争環境が生まれず、口座を持てない国民も多いままとなっていました。

そのため、中央銀行が主導し、5つの柱に沿って金融の民主化を進めました。その柱というのが1.金融包摂、2.競争、3.透明性、4.教育、5.持続可能性ということです。これに基づいて行われてきた制度改定の細かい経緯については拙稿に2年前にまとめています。2010年代から現在に至るまで様々な規制改革が矢継ぎ早に実施され、これが様々なサービスを有するフィンテック誕生のきっかけになりました。ご存じの方も多いNubankはNewsPicksでも何回かピックされていますね。

出所:イベロアメリカ研究所(筆者原稿より)、ITU、筆者撮影写真

中銀による制度改定以外の要素としては通信インフラがある程度進んでいたことや国民が積極的にICTを活用していたことが挙げられます。私がジェトロにいた頃の4年前に中南米のスタートアップ特集を組みましたが、その中の一つのレポートで通信インフラの整備が進んでいたことと、SNSやシェアリングサービスを積極的に利用していることを示すデータを示しました。ちなみに国際電気通信連合(ITU)のダッシュボードから最新データ(2022年)を拾ってみると例えば個人のインターネット利用率は80.5%(世界平均66.3%)、アクティブなモバイルブロードバンド契約数は2億37万9,000に達しています。

なお、カーブカット効果(特定の人のためのサービスがより幅広い人達に恩恵をもたらすこと)に関して、治安の問題も大きいと思います。現金を持たずにタクシーに乗れたり、自宅にいながらにして各種支払いをしたり買い物をしたりすることができるというのは、外出時に犯罪に遭う可能性を低くします。多額の現金を持って町歩きをする際のストレスは治安の良い日本に居ては分からないことかと思います。(その2に続く)

冒頭画像:サンパウロ市内(筆者撮影)

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