能條桃子さん対談(前編)若者の声を社会に届けるために、“啓発だけでは足りない”ワケ

2023年10月10日
全体に公開

「ルールメイカー」に会いたい━━。

既存の社会規範に対して消極的に追従するのではなく、積極的に向き合い、ときには対話を通して改善を促していく「ルールメイカー」。彼ら彼女らに会い、何を考えているのか、何を感じているのかを知りたい。

ルールメイカーってどんな人なんだろう。

どんな人生を歩んできたんだろう。

何に違和感を覚え、何に情熱を傾けているのだろう。

そんな想いから始まった当企画。わたし、古野香織が「今会いたいルールメイカー」に会い、語らい、その胸の内を知り、感じたことや考えたことを綴っていきます。

今回お話したのは、日本の若年層の政治参加を促進すべく活動している「NO YOUTH NO JAPAN」代表の能條桃子さん。

能條桃子(のうじょう ももこ):1998年生まれ。豊島岡女子学園高等学校、慶應義塾大学経済学部、同大学院経済学研究科修士卒業。日本のU30世代の政治参加を促進する「NO YOUTH NO JAPAN」代表理事。

出会いは2019年。わたしは大学生時代に若者と政治をつなげることを目的とした団体を立ち上げ、活動の中で彼女の存在を知りました。主権者教育を研究テーマとし、政治参加の機運を盛り上げていきたいと思っていた当時のわたしにとって、能條さんはとても心強い存在でした。

当企画を始めるにあたり、手触り感のある身近なルールメイカーのロールモデルとして、真っ先に彼女の話を聞きたい。そんな願いが形になり、今回の対談インタビューが実現しました。

ルールメイキングでつくり変える未来の記念すべき第1回。前編では能條さんの現在の取り組みと、能條さんを形作った学齢期の原体験について話を聞きました。

対若者と対社会の両輪で進める。

古野:お久しぶりです。能條さんの活動はずっと見ていたのですが、なかなかお話しする機会が無く、今回対談が実現して嬉しいです。

能條さん(※以下敬称略):わたしもSNSやネットで古野さんの活動を見ていたのですが、「忙しそうだな」と思ってなかなか声をかけられず、やっと会って話せる言い訳を見つけたというか(笑)。だから今日はとても嬉しいです。

古野さんの根底には民主主義の考え方があり、力や速さ、結果が全てといった合理主義に傾かないところが素敵だなと思っています。また、政治に関する学生中心の団体を見た時に、女性でリーダーシップをとって活動している方ってまだまだ少ない中で古野さんの存在を知ったので、同じ立場の女性としていつも尊敬して見ていました。

古野:そう言ってもらえて光栄です。早速なんですが、能條さんの活動について聞かせてください。

能條:2019年の大学在学中に団体を立ち上げ、現在は以下の2つの活動を行っています。

■「NO YOUTH NO JAPAN

若者世代の積極的な政治参加を目指し、若者への啓発と社会の変革といった両輪で活動

■「FIFTYS PROJECT

政治におけるジェンダー平等の実現を目指し、20代・30代の女性やノンバイナリー、Xジェンダーの地方議員を増やすことを目的に活動

「NO YOUTH NO JAPAN」の取り組み
「NO YOUTH NO JAPAN」の取り組み

古野:若者の政治参加に対する啓発だけでなく受け皿である社会側に対しても働きかけているんですね。

わたしは練馬区民なのですが、直近の統一地方選挙だと20~30代の投票率が3~4%程度上がりました。地方では国政とは違う景色が見え始めているのかもしれないと感じています。

能條:国政選挙だと、若者の投票率が数%上がっても当落に大きな影響は出ないことの方が多いですが、地方だと全体の投票率が3~4%上がるだけで当選する人が2,3人変わるくらいの影響力があるということがよく分かりました。そういった意味では、自分たちの手で代表を出した感覚が持てる地方選挙の方が効力感を持ちやすいですよね。また、テーマも身近で若者が考えやすいこともあって、最近は地方にとても可能性を感じています。

古野:変革を起こしやすい地方が突破口になり、少しずつ成功体験を積んでいくことで、若者たちが「自分たちで社会を変えていける!」と効力感を持つことができますよね。

能條:そうです。今、株式会社日本総合研究所と一緒に「YOUTH THINKTANK」という取り組みをしています。これまで若者の投票率が低いことは何度も叫ばれてきましたが、その背景に何があるのかといった分析に基づいた施策展開というのはなかなかできてこなかったかなと思っています。そこでわたしたちはU30世代5000人にアンケートを行い、そのクラスターを分析しました。

調査の結果、政治参加への姿勢は、目標を達成するための能力を自らが持っていると認識する「自己効力因子」と政治的・社会的問題への意識の差「問題解決因子」の2軸があり、それらの高低が影響していることが分かりました。

引用元:https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=104071 

古野:わかりやすい…!「自己効力因子」と「問題解決因子」は「自分たちの行動で社会を変えていける」と考えるルールメイカーの資質ともつながっていますね。

能條:若者たちの自己効力感や問題意識を高めていく必要がある一方で、社会側もそうした若者たちの意欲を削がないように変わっていく必要があると思っています。

これまで多くの政治家と会ってきましたが、若者の将来に対する漠然とした不安感を話しても、「俺たちの時代はもっと大変だった。今の若い人たちは恵まれている」と返されてしまうんですよね。たしかに昔と比べると豊かになったかもしれません。しかし、メンタルヘルスの問題やジェンダーの不均衡など、色んな問題はまだまだ残っているはずです。

これは若者たちが「どうせ自分たちの話なんてわかってくれない」「声を上げても何も変わらない」と思ってしまう原因の一つになるんじゃないかなと思っています。

古野:なるほど。若者への啓発だけでなく、社会への働きかけも同時に行っているんですね。ルールメイキングの活動でも同様に、個人の資質や能力に全てを求めるのではなく、取り巻く環境である一般社会や学校の姿勢も大事だなと感じています。

根底にあるのは、育ててくれた地域社会への恩返し。

古野:日本の既存ルールや法制度に違和感を覚えたとき、海外などの自分に合う環境へ移住する選択肢もあったと思うのですが、なぜ日本に留まって活動を続けているのですか?

能條:わたし自身、とてもパブリックマインドが強いんです。それは、自分が地域社会に育ててもらったという感謝があるから。だからこそ、社会に恩返しをしたいという感情が、活動の基本にあると思います。

また、海外に出る選択をする人もいて、それはそれぞれの判断でいいと思うのですが、仮に自分が今いる環境から出ていけたとしても、家族や友人といった大切な人たちも同じ選択ができるとは限らないじゃないですか。自分が持っている力を何のために使いたいかを考えたとき、わたしは大切な人たちのために使いたいと思うので、それがモチベーションの一つになっていますね。

古野:社会への恩返し、ですか。地域社会に育ててもらった話について、もう少し詳しく教えてください。

能條:わたしは神奈川県の平塚市出身で、小学校の頃から子ども会や市が行っている青少年プログラムに参加していました。野外キャンプをしたり、青少年議会をやったり、姉妹都市の交換留学でホームステイに行ったり……。楽しい思い出がたくさんあります。

それらは市の職員の方々の尽力があってこそのプログラムで、わたしたちと一緒になって考えたり、良きメンターとして関わってくれたりしていました。以来地元への愛着を強く持つようになりましたね。

また、通っていた中学校では自分たちの学校の校則を自分たちで変えていく取り組みがすでにあり、漫画が読めるようになったり、ペットボトルを持ち込めるようになったりと、自分たちの声が日常をつくり変えていく実感を得られる機会が多くありました。

市の方はもちろん、地域の大人たちもわたしたちの活動を本気で応援してくれていて、自分が思っていることを言葉にしたり、やりたい気持ちを引き出してもらえたりする環境で育ったことは、今の自分を形作る上で大きく影響していると思います。

古野:後半の話はまさにルールメイキングですね。自分たちのために本気で頑張ってくれる大人に出会えるかどうかって、とても大事なことだと思います。ルールメイキングもまさにそこを目指していて、子どもたちが学校の中で自己効力感を高められるように取り組んでいます。

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前編では、能條さんの現在の取り組みと、活動に至るまでの原体験についてお伺いしました。

個人をエンパワーメントするだけではなく、彼らの生きる環境や社会構造そのものにもアプローチしていくという視点は、教育NPOで働いている立場としても、深く共感しました。

さらに、ルールメイカーとしてのマインドが育まれた背景には、自分のやりたいことに本気で向き合ってくれる大人の存在があったといいます。「何を言っても、聞いてもらえない」ではなく、「自分の声が大切にされている」と感じられるような体験を、ルールメイキングを通じて届けていきたいと感じました。

後編では、意見の対立が起こったときの乗り越え方や、能條さんからルールメイカーへ届けたいメッセージについてお聞きしました。ぜひ後編もお楽しみください!

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