イギリスの電気自動車(EV)市場が急成長、新規販売数の23.4% シェアと舞台裏

2023年10月6日
全体に公開

イギリス国内の電気自動車(EV)のシェアが自動車市場全体の23.4%となり、前年比で22.4%から上昇したことが、The Society of Motor Manufacturers and Traders (SMMT)による2023年9月を対象にした調べでわかった。その内訳は16.6%がバッテリー式電気自動車(BEV)、6.8%がプラグイン式ハイブリッド車(PHEV)となっている。ちなみに、SMMTは、プラグイン式ではないハイブリッド自動車(HEV)については、EVのカテゴリーには含めておらず、9月の単月集計とはいえ、ハイブリッド自動車のカテゴリーを入れていないEVのシェアが、既に全体の四分の一近くを占めている。つまり、過去一か月の間の自動車購入者のうち、4人に1人がEVを購入したことを示している。

SMMTによる2023年10月5日発表のデータをもとに、Tatsu Orii作成のパイチャート

PHEVとHEVが実際にシェアを増やした一方、ガソリン車のシェアは40.7%から38.7%に減少し、ディーゼル車のシェアは4.6%から3.6%に減少した。

SMMTによる2023年10月5日発表のデータをもとに、Tatsu Orii作成の表

ちなみに、日本におけるEVおよびPHEVの新車販売比率は、ENECHANGEによる集計によると、4.0%前後を推移しており、2023年6月時点の販売比率も3.9%となっている。日本人の感覚では、EVの存在感はまだまだ薄いのが実情であり、その感覚からすると、イギリスのEVの普及率は目覚ましい数字である。

推進力は、脱ガソリン・脱ディーゼル派の企業や民間団体

DALL-EによるAI作成画像。筆者加工。

イギリスのみならず、欧州全体で、既にEVシフトの流れは確立された流れにあり、その流れは、ガソリン車やディーゼル車は勿論、ガソリンを必要とするプラグインタイプではないハイブリッド車にも及んでいる。かくいう筆者も、現在乗ってる車もプラグインタイプではないハイブリッド車であり、次に買い換える車は、確実にEVの購入を余儀なくされるだろうと予感している。

ちなみに、この流れは、イギリス政府主導による補助金云々によるフェーズは既に通過しており、もはや企業や民間団体により加速しているところが強い。いや、筆者はむしろ過剰に加熱(ヒートアップ)気味なのではないか、とさえ感じている。

イギリスは、当初から、国を挙げてEVシフトへの舵取りを行っていた。ガソリン車およびディーゼル車の新車販売禁止の政策も過去に発表しており、これは日本と同様に2030年を時期としていた。ところが、去る2023年9月に、スナク首相がそれを2035年に延期する措置を決定した。背景は、昨今のcost-of-living crisis(生活費危機)に関連した措置ということである。いち消費者の立場からすると、「身近に損得が発生するような話でもないし、別に延期すればいいじゃん」と思っていた。しかし、そんな、のほほんと考えてしまう小市民な私とは裏腹に、この方針転換に対し、イギリスの世論は荒れた。イギリスの大衆車として人気のフォードや、MiniとRolls-Royceの親会社であるBMW、JaguarとLand Roverの親会社であるやTataなど、特にイギリスに重要な投資を行っている企業群が懸念を表明した。さらに、EVチャージャーの製造会社やインフラ系の企業などからの批判も相次ぎ、筆者の元にも、この延期措置に対しての撤回をもとめる署名の依頼が回ってきたほどである。ちなみに私は、政治絡みの依頼は一切断っているので、署名は遠慮させていただいた。

姿を現し始めた、数々のEV系イベント

この流れを象徴するかの如く、今年に入って数々のEV関連の団体やイベントを目にするようになった。それぞれの歴史は、実は今に始まったことではないらしいのだが、恥ずかしながら、筆者はこれらのほとんどは今年に入ってから知った次第である。例えば、9月9日の世界EVデー。筆者は、自身の職業柄、「先日は世界EVデーでしたね」「10年前からありました」などと、平静を装いながら関係各所を回っていたが、本トピックスで薄情しよう。全く知らなかった。むしろ、当日以降のニュースで知ったくらいである。この世界EVデーは、イギリスの一部の関連企業と民間団体が支持しており、今年は気候変動をテーマにした公開パネルディスカッションが行われた。続いてもう一つのイベント例は、私のSNSのリコメンデーション機能が先週表示してきたEVサミット。主催団体による紹介では、「”Eモビリティにおけるダボス会議”として知られている」とあるが、申し訳ない。筆者は初めて知った。しかしながら、このEVサミットはオックスフォード大学のビジネススクールで行われ、協賛している企業やパートナーもしっかりした企業が並んでいることから、それなりに便益のあるイベントに思う。ちなみに、このイベントは10月末に行われる。そして、最後のイベント例は、11月に行われるロンドンEVショーである。ロンドンで行われるトレードショーで、規模の大きいものは、ロンドン東部にあるエクセルロンドンという巨大イベント施設が使用されることが多い。このEVショーも、エクセルロンドンで行われることから、その規模の大きさがわかる。やはり、今年から始まったトレードショーではなく、過去から毎年行われているイベントのようだ。このイベントについては、是非訪れてみようと思っているので、機会があれば、本トピックスでレポートしたいと思う。

EV台頭の裏側に潜む競争と環境への思い

最後になるが、イギリスを含めた欧州では、確かにEVが台頭しつつある。そしてその背景には、もちろん環境問題や持続可能エネルギーなどへの懸念が背景にあることは間違いないだろう。筆者も、それを支持する政府、企業や団体が行動で示す活動には畏敬の念を禁じ得ない。しかし、今年に入ってからのEV関連の議論の激化や普及の加速化には、時折、利益追求のための競争環境が主要な要因として浮かび上がっているようにも思う。この競争の中で、いち消費者でもある筆者は、誰の発言が真に環境を考えているのか、彼らのどの活動が持続可能な未来を実現するために行おうとしているものなのか、に注視していきたいと思う。

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