【AI時代のお作法】AIで人間の創造性を拡張する方法を考える
ChatGPTなどの人工知能(AI)が急速に進化している今日、AIが仕事や日常生活にもたらす影響は日々日々大きくなってくると考えられます。しかし、一般的な議論を見ていると、AIは効率化や自動化の道具として考えられることが多く、ひと対AIという構図になりがちで、人の業務をどう置き換えるのかという視点が中心です。そのような考え方は、AIの潜在能力を大幅に過小評価することになります。実は、AIは人間の創造性を高め、アイデアを形にするプロセスを支援する強力なパートナーにもなり得るのです。
例えば、私は文章を書いたり、アイデアを考えたり、プログラミングしたりするのは得意ですが、絵を描くのが致命的に苦手です。新しい概念をイラストで描けるは羨ましいなあと思っていましたが、画像生成AIがでてきたことで、視覚化の新しいツールを獲得することができました。
今日は、創造性拡張に関する良い記事を見つけたので、内容を紹介しつつ、少し付記したいと思います。
生成AIは人間の創造性をどのように拡張するのか?
人間の創造性というのは、私にとっても非常に重要なテーマです。AIの研究者にとって、AIが創造性を発揮できるのかという問いは大きな問いの一つであり、当然そのためには創造性自体の理解も必要です。
過去、「クリエイティブ発想法」という講義をやったり、新規事業や起業家向けの研修の中でアイデアワークをやったり、直接的に創造性を刺激するAIを開発したりと創造性に向き合ってきました。
アインシュタインが「創造性とはイメージの組み合わせ遊び」と表現したように、人間の創造性とは概ね「組み合わせ」です。しかし、当然組み合わせの妙があるので、組み合わせ方のセンスこそが創造性とも言えるかもしれません。
より創造的な組み合わせを行うためには、「概念的な異なっているものや常識的に組み合わせないもの組み合わせること」が必要です。そのためには、多様なものを自分の中にもつこと、そして、自分の領域から外れる概念に接点を持つことが重要です。ご関心のある方は、拙著第2章「知の相対性理論」により詳細を記載しています。
上記をふまえて、HBRの「生成AIはいかにして人間の創造性を高めるか」を解説します。この論文でも、主に多様性を確保する手段、バイアスから逃れる手段としてのAIが語られています。
1.発散的思考の促進
まずは、発散的思考の重要性を説いています。
ジェネレーティブAIは、離れた概念間の関連付けを行い、そこから引き出されたアイデアを生み出すことで、発散的思考をサポートすることができます。筆者は、画像生成AIのMidjourneyに象と蝶を組み合わせた画像を作成するよう依頼したところ、"ファンタフライ "と名付けたキメラが生成しています。さらに、その"ファンタフライ "にインスパイアされた椅子とチョコレートのデザインなども生成しています。
こうした画像生成は、デザインアイデアの多様化に非常に貢献するものです。
また多様な組み合わせをうながす手法として、trisociationという方法を紹介しています。これは、2つの異なったものを結びつけるbisociationという創造手法を拡張し、3つの異なるものを組み合わる手法です。拙著の中にも三角思考という三つの概念を組み合わせる手法を提案していますが、異なる3つを組み合わせるというところに面白味があります。
ここで、本論文では興味深いプロンプトを提案しています。ぜひ皆さんも利用してみて下さい。
「あなたはアイデア発想者の役割を果たします。10個の一般名詞をランダムに生成します。次に、10個の名詞の中から任意の2個をランダムに選びます。次に3つ目の名詞を私に尋ねます。あなたは、あなたが選んだ2つの名詞と私が選んだ名詞を組み合わせたり、関連付けたりして、ビジネスアイデアを発想します。」
私も挑戦してみました。
このような感じでなかなか面白いビジネスアイデアが登場しました。あたらしい観光のアイデアを考えたいとき、あたらしい医療のアイデアを考えたいとき、3つのワードに自分の関心ワードを入れて、AIと壁打ちすれば予想外の突飛なアイデアに遭遇できるかもしれません。
2.専門家バイアスの除去
創造的なアイデアには、「素人発想」が重要というのはよく言われることです。例えば、まちづくりでも「よそもの、わかもの、ばかもの」が起爆剤になるという話がありますが、素人はアイデアに縛られないという良さがあります。
我々の中には、慣れ親しんだ考えが優先され、別の答えを無視する傾向がどうしてもあります。これはアインシュテルング効果と呼ばれたりもします。
筆者は、「新製品開発の初期段階において、ジェネレーティブAIによって生み出される非定型デザインは、形と機能の両面から、製品に何が可能か、何が望ましいかという先入観を超えた発想をデザイナーに与えることができる」と主張しています。
たしかに、無数のアイデアを生成AIに考えされることで、ベースラインとなる前提が多様化し、アイデアの土壌が広がるでしょう。私自身も、アイデアワークショップなどでは「インプット」を大事にしています。新しいインプットなしに発想をはじめても、新しいアイデアはなかなかでてきません。丁寧なリサーチや刺激的なインプットが重要で、生成AIをインプットツールとして組み込んだワークショップなどは大きな可能性があるでしょう。
(余談ですが、下記のHackCamp社が生成AIを活用した未来ビジョン策定、新規事業アイデア構築の支援をしている現場にインプットの講師としてお邪魔しました。とても興味深かったのでまたご紹介します。)
3.アイデア評価の補助
そしてもう一つアイデア創出の現場において課題になるのが、「評価」の問題です。例えば、クラウドソーシングを使って大量のアイデアを集める、社内のビジネスコンテストで大量のアイデアを集めても、処理に苦慮していると思います。
評価者自体が、ばらばらの基準で評価していて、「独創性」で評価する人、「実現性」で評価する人、「規模感」で評価する人が混在すると、どこかが優れたアイデアよりも、全部70点のアイデアが採用されやすくなってしまいます。一方で大量のアイデアを丁寧に評価することはなかなか大変です。ここに生成AIの活用可能性があります。
例えば、先ほどのアイデアを「新規性、実現可能性、特異性、インパクト、実行可能性」で評価してもらいます。
それぞれのアイデアに対してこうした評価が付随していると、判断はかなりしやすくなるでしょう。
ぜひ皆さんも創造性開発のプロセスにAIを組み込んでみてはいかがでしょうか?
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