ビジネス界における長寿戦略:2023年の海外更年期資金調達トレンド(FemtechX-7)

2023年8月13日
全体に公開

日本を含む世界各国では、急激に高齢化しており、新しいビジネスチャンスと市場の出現を意味している。「更年期」と呼ばれる40代後半から50代女性の増加で、更年期女性のニーズとライフスタイルに合わせた、新しいサービスや商品が求められる時代を迎えたが、この変動の中心には資金調達の新しいトレンドがある。

2023年更年期分野の資金調達は、テクノロジー、ヘルスケア、ウェルネスといった分野での革新的な取り組みが資金を引き寄せている。この新しい波に乗るために、どんなビジネスモデルが成功を収めているのか、またどのような投資が注目を集めているのかを理解することが不可欠である。

本記事では、2023年の海外更年期資金調達トレンド6選を深掘りする。

UnsplashのMarkus Winklerが撮影した写真   

1.XbyX(ドイツ)

更年期はエネルギーや脂質、骨の代謝が変化する時期であり、摂取エネルギーが過剰になるなど、心身のバランスを崩しやすくなる。体調を整える栄養素を積極的に摂る必要があるが、セルフケアでは難しい部分もある。

2019年に創業された独XbyXは、40代以上の更年期向け健康支援サービスを提供しており、2023年1月にシードラウンドから7桁の追加資金調達を実施している。

2022年には、ユーザーを50,000人以上、売上を2倍以上に増加させた。共同創業者のPeggy Reichelt氏は、40代初めに更年期を迎えた際、科学的根拠のある更年期の情報が十分に得られないことに不満を感じ、XbyXを設立。植物ベースのサプリメントやホルモン、筋トレ、体重減少に関するビデオ教育プログラムを提供している。

筆者が更年期障害に悩む日本人女性にヒアリングをした際、ほとんどの女性が「更年期の情報がない」と言っていた。唯一、「更年期の情報収集はできている」という女性がいたが、その方は翻訳の仕事をしていて、英語が得意であり、英語だと情報がたくさんあるとのことであった。つまり、日本語での更年期の情報は不足しており、そのあたりに課題がありそうだ。

UnsplashのGabin Valletが撮影した写真   

2.Axena Health(アメリカ)

骨盤底筋を鍛えるデバイスを開発している米Axena Healthが、2月に2,500万ドル(33億円)の資金調達を実施。

更年期になると骨盤底筋(骨盤の底にある筋肉で、ハンモックのような形をしており、膀胱や子宮、直腸などの臓器を支えている)が弱まり、膀胱のコントロールが効かなくなる場合がある。その結果、尿もれなどの症状がおきる場合がある。

骨盤底筋を鍛えるデバイス『Leva』を開発し、FDA(アメリカ食品医薬品局)を取得。スマホと連動させ、回復の度合いがチェックできる。

骨盤底筋は、更年期女性のQOL(生活の質)に重大な影響を及ぼしている筋肉であり、骨盤底筋をトレーニングすることで、若さと健康が維持できるとも言われている。

https://www.levatherapy.com/

3.Medherant(イギリス)

大学からのスピンアウトとして設立された英Medherant社が、4月に300万ポンド(5億円)の資金調達を実施。更年期障害の治療に使えるホルモンパッチを開発している。

更年期症状を緩和するパッチを開発し、テストステロンの分泌量が通常より少ない閉経期の女性に、テストステロンを投与する代替方法を提供する。

英国では、女性による使用が承認されたテストステロンパッチはないため、これからの臨床試験に期待したい。

https://www.medherant.co.uk/

4.Embr Labs(アメリカ)

更年期女性向けのホットフラッシュ軽減デバイス『Embr Wave2』を手掛ける、米Embr Labsが販売拡大のために3,500万ドル(46億円)の資金調達を実施。手首の内側の皮膚に冷却または温める感覚を与えて自律神経系にアクセスすることで、ホットフラッシュの緩和・ストレス管理・睡眠の改善を促すデバイスである。

元々は、ホットフラッシュ向けのデバイスではなかったが、デザインなどを女性向けに変更し、販売を拡大している。

筆者もはめたことがあるが、約60グラムの重さがある。筆者のApple Watchは約50グラムであり、Apple Watchよりも重く、日本人女性にこのデバイスは重く感じてしまうかもしれない。

https://embrlabs.com/products/embr-wave-2

5.Attn: Grace(アメリカ)

尿失禁用のライナーやパッドを提供する米Attn: Graceが、7月に200万ドル(2.8億円)の資金調達を実施。約1600店舗の米Walmartや、Walmartオンラインストアにも出店しているが、米国だけで約1,900万人の女性が尿失禁に悩んでいるとも言われている。

Attn: Graceは、有害な化学物質を含む従来の尿失禁製品とは異なり、安全性を優先している。EUで禁止または制限されている約1,700の化学物質を除外し、再生可能な植物ベースの材料を使用している。100%カーボンニュートラル工場で製造することで、環境への影響を軽減し、持続可能性を推進している。

共同創業者のMia Abbruzzese氏は、「同社の製品がユーザーの日常生活や生活の質にどれほどの違いをもたらしているか、毎日のように聞いている」とコメントしており、ニーズの高さが伺える。また、尿失禁は米国成人女性の50%に影響を与えるにもかかわらず、タブー視されている問題であり、これからますます需要が高まる分野のひとつといえる。

https://attngrace.com/

6.Pelvital(アメリカ)

米Pelvital社は、咳やくしゃみをした時など、お腹に力が入った時に尿が漏れてしまう腹圧性尿失禁(SUI)や、骨盤底筋の弱化治療のための治療法『Flyte』の開発資金として$2.68M(3億円)を調達した。

2022年10月に六本木で開催された「Femtech Fes!」に出展しており、1日5分の使用で骨盤底筋を鍛え、尿漏れを改善するデバイスである。膣に挿入すると、骨盤底筋の収縮に反応して信号を発し、収縮の効果を39倍高めるという。

Boomerang VenturesのOscar Moralez氏は、Pelvital社の取り組みはもちろん、女性ヘルスケアがこれまで資金調達が活発でなかったことや、更年期の課題が無視されていることに注目している。

今回の資金調達で、次世代製品の開発や市場展開を加速させ、SUI治療を求めるより多くの臨床医や女性へ製品を届けるために使われるとのことである。

更年期の中でも、尿もれ・尿失禁の課題は「恥ずかしい」「誰にも知られたくない」というニーズがより強い。NHKの番組で、芸能人が尿失禁を告白していたが、課題が顕在化することで、日本でもこの市場が注目されると推測している。

Femtesh Fes!にて筆者が撮影 https://hellofermata.com/pages/femtechfes2210

7.まとめ

40代後半から50代の更年期女性は増えていると同時に、働く更年期女性の割合も増加している。バンク・オブ・アメリカの報告書によると、

・女性の64%が更年期障害特有の福利厚生を望んでいるが、会社がその必要性を認識しているのは14%
・更年期障害の症状として最も多いのは睡眠障害で45%
・女性の60%が更年期障害に偏見あり
・女性の58%が職場で更年期について話すことに抵抗あり


となっている。つまり、会社と女性たちの間には認識相違があるうえ、更年期に対する偏見も強く残っている。

NewsPicksForbesでも、更年期に関する記事が出ているが、まずは更年期症状・更年期障害の認知度を高めるためにも、更年期の情報を積極的に発信していく予定である。

◇NewsPickの記事

◇Forbesの記事

UnsplashのBermix Studioが撮影した写真   

8.【お知らせ】保険業界も注目する新たなビジネス領域、フェムテックの可能性

筆者が寄稿した保険業界も注目する新たなビジネス領域、フェムテックの可能性が、ZuuOnlineで紹介されました。

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