「うちは中小企業だから、新規事業なんて生み出せないんですよ」という嘆き節。

2023年8月9日
全体に公開

中小企業の新規事業担当者の方々が集まる場に混ぜていただく機会があるのですが、その時に、よく聞くなぁ、という「定番の会話」があります。「うちは中小企業だから、新規事業なんて生み出せないんですよ」ってな嘆き節です。

なんで生み出せないのかを聞くと、「うちは中小企業だから、スタートアップみたいな新しいことは、よくわかんないんですよ」とか、「うちは中小企業だから、大企業と違って無名で体力無いし、新しいことやる余裕なんてないんですよ」ってな回答。

うーん。その回答自体が、間違ってる気がします。

悲観したくなる気持ちは分かります。比べたくなる気持ちも分かります。噓を言っているわけではなく、事実を言っていたりもするんだと思います。でも、理由をそこに求めちゃうと、生めるものも生めなくなっちゃうと思うのです。

新たな事業を生み出すということは誰にとっても難しくて、それは、スタートアップでも大企業でもそして中小企業でも、同じく難しいと思うのです。

ただでさえ難しいのに、そこに自己否定や劣等感を持ち込んでしまったら、もう「生めないの確定」となってしまうのではないかと。

新規事業の力を削ぐ2つの要因

事業を生み出せない現状があるとするならば、それは組織の力学が、「力が増す方向」ではなく「力を削ぐ方向」に作用しているからなんじゃないかと思っています。2つあって、ひとつは「自社に対する自己認識」、もうひとつは「新規事業に対する向き合い方」です。

「自社に対する自己認識が、力が削がれる方に向けられている」とは、つまり「ウチなんてどうせ」といったマインドセットのことです。先ほどの中小企業の方の愚痴に代表されるような姿勢のことです。

でも、考えてみれば、スタートアップはカネもナイ、ヒトもナイ、会社としての歴史も事業としての実績もナイ。「ナイナイ尽くし」です。一方の大企業は「大企業病」という言葉がある通り、組織が大きすぎて動きが取りづらい状況にあります。では、中小企業はどうでしょうか。じつは、両者の良さを併せ持っている「イイとこどり」の存在だとも言えるのではないでしょうか。つまり、スタートアップよりもリソースを持っていて、大企業よりも早く動ける、ということです。

また、「新規事業に対する向き合い方が、力が削がれるやり方になっている」とは、新規事業が「本業に汚染されている」ということを意味します。会社はその本業のために、機能が細分化され、評価処遇も定められ、一糸乱れぬ組織力が発揮されるよう最適化されています。

そのため、以前の記事で書いた「大きな問い」を持つような機会がありません。しかし、新規事業は「大きな問い」の連続です。コトヒトカネ、経営の全般にわたって決断をしていかなければなりません。事業の内容一つとっても、モノ売りなのかサービス提供なのか、BtoBなのかBtoCなのか、誰を顧客として何の価値をいくらで提供するのか。あらゆることを考える必要があります。つまり、本業での前提や思考や行動のクセを捨てなければ、新たな事業は生み出せないのです。そして、本業が強固であればあるほどその汚染力も強いのです。

新規事業を生み出すための3つの切り離し

逆にいえば、個人の意識と会社の仕組みを変え、本業の汚染を回避すれば、新規事業は生みだせる、ということです。その肝は、「3つの切り離し」だったりします。

1つ目は、「資金」の切り離しです。1つの新規事業が立ち上がり安定的な成長軌道に乗るには、1年では短すぎます。しかし、本業は単年度会計で動いています。「期」という区切りで、ありとあらゆるものが見直されてしまうのです。売上や利益の前年比増減に一喜一憂する短期的なPL脳は、新規事業、つまり未来の価値を創造する営みとは、相性が良くないのです。

2つ目は、「意思決定」の切り離しです。決裁の壁が鉄壁だったり、ミルフィーユ状の会議体が幾重にも行く手を阻んでいたりする企業は、少なくないと思います。そして、その会議体の決裁者はすべて本業の人で、新規事業未経験者だったりします。新規事業では、顧客に最も近い「現場」がどんどん意思決定をしていかなければ、前に進んでいけません。本業とは異なる意思決定方法を採っていく必要があるのです。

3つ目は「評価」の切り離しです。新規事業は十中八九うまくいかない、と言われていたりします。千三つという言葉もあります。そして我が国の上場マーケットで言うと、毎年1,500社ほどが資金調達しながらも上場できるのは100社に満たなかったりします。つまり、失敗は想定内なのです。それを分かっていながら、運用されている本業仕様の評価システムは、失敗を許さない減点方式だったりします。新規事業の場合には、失敗しても全力で向き合ったらマル、うまくいったらハナマルというくらいの評価でないと、挑戦に向けた前向きな風土は作れません。

こうした切り離しは、「本業と新規事業は別物である」という前提に立てば、当たり前のこと。その当たり前のことを当たり前に行うことが大事なのです。

そして、今一度考えてほしいことは、こうした「3つの切り離し」の仕組みを作るのは大企業の方がずっと難しいということです。中小企業の場合には、社長の一言で一気に変わることができます。つまり、中小企業は自身が思っているよりもずっと新規事業への可能性を秘めている、ということなのです。

そうは思えない

ここまで書いても、そんな声が聞こえてきそうですが ww、ただでさえ難しい新規事業に、自己否定や劣等感を持ち込んでしまったら、もう「生めないの確定」となってしまうのです。

意志ある先に道は拓ける

前に進む人の前に道は拓ける

せっかく新規事業を手掛けるなら、ぜひ、このマインド設定で。

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