知っておいて損しない「海外の更年期」の世界(FemtechX-6)

2023年8月6日
全体に公開

3年以上前から、フェムテックの中でも更年期に注目しており、noteでも「更年期通信」というシリーズ記事を書いてきたが、「更年期の社会情勢やビジネスモデルについて教えて欲しい」と連絡いただくことも多く、更年期の注目度が上がっていると感じている。

海外では、更年期症状のトラッキングアプリ、ウェアラブルデバイス、更年期専門のテレヘルスなどが存在するが、日本ではまだ更年期向けサービスが少ない。

理由はいくつか考えられるが、フェムテックに限らず日本は起業したり、新規事業を担当している方たちの年齢が若いため、その世代の周辺課題(生理・妊活など)に目がいくためではないだろうか。

NewsPick編集部でも、2023年8月5日に更年期に関する特集が組まれており、更年期についてわかりやすく書かれている。更年期スタートアップも紹介されているが、そちらで紹介していない海外の更年期製品・サービスを5社紹介したい。

1.Joylux(米国)

女性の骨盤底筋群(膀胱や尿道、子宮など骨盤内の臓器を支える筋肉の総称)が、出産・加齢・閉経によるホルモンの低下などで緩み、膀胱や尿道など骨盤の中にある臓器がきちんと支えられていないために、尿失禁(自分の意思とは関係なく尿がもれてしまう)が起こる場合がある。

尿失禁は、骨盤底筋を鍛えることで、改善することができると言われているが、Joyluxは、骨盤底筋の引き締め活性化により、失禁や性機能障害を改善するデバイス『vSculpt』を提供している。

長らくレーザーによるアンチエイジング治療など、美容機器の開発に携わっていた創業者が、顔の肌の組織を健康に保つために使うテクノロジーを、骨盤底筋の組織を健康にするために使えないかと考えた商品である。

2022年10月には、産後の母親をサポートするMammy mattersを買収し、更年期女性だけでなく、産後の女性にもターゲットを拡大している。

出典:https://joylux.com/

2.Cosm(カナダ)

子宮脱など女性の骨盤底筋トラブル解消のため、超音波、クラウドソフトウェア、人工知能、3Dプリント等を活用し、カスタム装具を開発。合理化されたパーソナライズアイテムを提供している。

ペッサリー挿入法(骨盤臓器脱により子宮や膀胱、腸など膣から出てきた臓器を人工的に膣内に納める方法で、臓器の下垂に伴う不快な症状を軽減・緩和する目的で行う)として、一般的に知られているものである。

子宮脱とは、子宮が正常な位置よりも、膣の入口の外まで下がって、脱出した状態を言う。閉経後の女性ホルモンの低下や加齢によって、靭帯や筋肉が弛緩して起こることが多い。

出典:https://www.cosm.care/

3.Vira Health(英国)

更年期に特化したデジタル医療サービス『Stella』をアプリで提供。骨盤底筋トレーニングや食事など、パーソナライズされたオンライン治療が利用可能である。

2022年11月には、更年期テレヘルスのAlvaを買収した。Alvaではオンラインで症状の相談後にHRT(ホルモン補充療法)を処方してもらえるため、Vira Healthでは処方薬(OTC)も提供可能となり、診療から処方までワンストップでサービスを提供している。

海外では更年期テレヘルス(オンライン診療)が増加していることもあり、日本の産婦人科医に「日本で更年期テレヘルスは流行するか?」とヒアリングしたことがある。更年期女性にヒアリングをしていたところ、多くの女性から「病院(特に婦人科)には行きたくない」と意見をもらったからである。

しかし、何人かの産婦人科医から「最初は対面で病院に来てほしい」「重要な病気を見逃す可能性がある」と言われた。日本は国民皆保険もあり、医療へのアクセスは抜群によいので、日本で更年期テレヘルスが広がるのは、まだ先かもしれない。

出典:https://www.vira.health/

4.Gennev(米国)

Microsoftと、スキンケア製品のNeutrogenaの元幹部によって設立され、更年期テレヘルスを展開している。

2022年10月に、米国で女性ヘルスケアを手がけるUnifiedに買収され、2023年8月4日には不妊治療の福利厚生サービスを展開して米ナスダックに上場したProgynyと一緒に、更年期向けの福利厚生サービスを発表している。

更年期向けの福利厚生サービスは、今年はじめに約58億円の大型資金調達を実施した英国のPeppyがはじめたと言われている。日本でも百貨店や航空会社、生命保険会社など女性が多い企業で、更年期福利厚生サービスが導入されている。

出典:https://www.gennev.com/

5.Medherant(英国)

大学からのスピンアウトとして設立され、更年期症状の治療に使えるホルモンパッチを開発している。テストステロンの分泌量が通常より少ない閉経期の女性に、テストステロンを投与するソリューションを提供する。

英国では、女性による使用が承認されたテストステロンパッチはないため、これからの臨床試験に期待されている。

出典:https://www.medherant.co.uk/

6.まとめ

更年期の女性たちにヒアリングしていて気づいたのは、更年期症状だと自覚しても、言葉の差別や偏見から、「恥ずかしい」「知られなくない」ため、1人で抱え込むか、信頼ある友人にしか相談しない場合が多い。信頼ある人からのアドバイスは無条件に受け入れるため、誤った情報が循環している可能性がある。

更年期症状の治療で一般的なホルモン補充療法(HRT)が、2002年の臨床試験で乳がんになると誤った情報が報道された。HRTで乳がん発症率が上がることはないが、「HRTは怖い」というイメージが浸透し、HRTの普及率を見ると欧米は約40%に対し、日本は約2%となっている。

正しい情報を得られるような仕組みと、自分にあう医療機関や医師選びが、更年期市場に求められている。

UnsplashのPatty Britoが撮影した写真   

7.【お知らせ】保険×フェムテックの可能性

2023年7月31日に「保険×フェムテックの可能性」について、The Financeに寄稿しました。保険という巨大市場におけるフェムテックの関わりについて書いています。ぜひご覧ください。

保険業界も注目する新たなビジネス領域、フェムテック(Femtech)の可能性 | The Finance
今やテクノロジーの進化と革新は、私たちの生活のあらゆる側面に影響している。その波は、保険業界の重要な関心のひとつである健康にもおよび、特に女性の健康に関わる新たな領域「フェムテック」が注目を浴びている。

女性の健康課題をテクノロジーの力で解決する「フェムテック」は、女性のライフステージ全体にわたり、保険業界にも新たなビジネスチャンスを与えている。

フェムテックは、月経周期管理アプリや不妊治療支援、更年期症状のトラッキング、オンライン処方、ホルモン自宅検査キットなど、女性の一生を通じた健康に関わる製品やサービスを指す。それらの製品・サービスは、女性が自身の健康状態を理解すると同時に、企業の福利厚生として提供することで、従業員満足度が上がる手段のひとつになっている。

国内外の大手保険会社が、フェムテックのスタートアップに投資し、さらにフェムテックのサービスを提供しはじめている。なぜここまでフェムテックが注目されているのか。
本稿では、フェムテックの現状や日本政府の取り組み、海外・国内のビジネス事例を紹介し、それが保険業界にどのような影響を及ぼすか解説する。
thefinance.jp

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
津覇 ゆういさん、他385人がフォローしています