大きな問い

2023年7月14日
全体に公開

大企業に入社すると、「経営における大きな問いを自ら立てる」という機会のないまま過ごす時間帯が、しばらく続いてしまうのではないでしょうか?

たとえば、トヨタ自動車に入社した人は、「トヨタが車を作って売る会社だ」ということを知らずに入社してしまった人はほぼいなくて、大前提、車に関わる仕事をするんだろうなぁ、と思って入社しているのではないかと思います。

同様に、工場に配属になれば車を作るんだろうなぁ、と。それがレクサスの工場であれば車種はレクサスなんだろうなぁ、と。そこでエンジンを組み付ける業務に就いたとしたら日々、エンジンを組み付けるんだろうなぁ、と。

そしてそこには、「正しいエンジンの組み付け方」があって、組み付けの手順も、組み付け後の確認事項も、組み付けのための道具の使い方もすべてキッチリ決まっていて、それを覚えて身に付け、間違いなく遂行することが当たり前に重要なのではないかと。(実際のエンジンの組み付けは専用の電動工具を使っておこない、締め付け力が自動で記録されるなど徹底した管理がおこなわれている)

優秀な人材がおびただしい役割分担をしながら、みんなでマニュアルに従って正確無比に車を作るから、トヨタは強いのだと思います。そしてこれは、トヨタに限らず、製造業にも限らず、大企業は構造的にみなそうなっているのだと思います。

それが、大企業の強靭な本業の力の源泉であり、だからこそ、個人の力では到底成し得ない大きなことを組織の力をもって成し得ることが出来るのだと思います。

ただし、この強みの源泉を、法人ではなく一人の個人に対して目を向けてみると、あきらかな副作用を伴っていることに気付くのです。

それは、どんな副作用か?

それは、あまりにも長い時間、その環境に慣れ従い過ぎてしまうと「大きな問いを自ら考えるということが出来なくなってしまう」という副作用なのです。

その副作用が、副作用として発症する瞬間があります。

新規事業を生み出す」という瞬間です。

新規事業は、どの市場で誰を顧客とし、何の価値をいくらで提供するか。そのためのチームはどうするか。必要な資金どうやって集めるか。そもそも参入すべきなのか。果ては、買収や売却、撤退の意思決定まで、「経営における大きな問いを立てること」が大事だったりします。

「レクサスのエンジンを組み付けるときに向き合わなければならないエトセトラ」と、「新規事業を立ち上げるにときに向き合わなければならないエトセトラ」があまりにも異質だったりするのです。

これは、簡単に行き来できるほど地続きなエトセトラでは無いのです。

なのに、大企業では、3月31日までは日々正確にエンジンを組み付けるという仕事をしていたのに、4月1日からは今期中に何かを生み出すという仕事に異動になる、といったことが起こり得るのです。

大きな問いを考える余地もなく、正しい答えが決まっていて完璧に覚えて正確に再現することで評価される環境にいた人が、新規事業の領域でいきなり市場や顧客や価値を考えろと言われる。これでは戸惑っても仕方がない

「意志を持て」と言われても持てないし、「やり切れ」と言われてもどこまでやればいいのか分からない。マニュアル通りにやることが染み付いているので、答えや手順を知りたがり、「これであってますか?」とすぐに答え合わせをしようとしてしまう。

これらは、本業からするとすべて正しいのですが、新規事業からするとすべて間違っています。本業は、これまで積み重ねてきた過去があるのですから、その過去に学び従うことが正解です。一方、新規事業は、成し得たい未来に向かって自らの手で未来の正解を創っていくことが仕事です。事業に向き合う姿勢、在り様がまったく違うのです。

いま、あなたは、なにに向き合って仕事をしていますか?

そして、どんな問いを立てていますか?

ときどき、そんな問いを自らに向かって立ててみてもイイかも知れません。

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