サプライヤー交渉術

2023年6月8日
全体に公開

事業を開始したばかりは、よほどの事由がない限り、売上げはほぼない状態だと思います。だから、売上げをどう作っていくかにフォーカスしがちだし、アタマの中は販売のことでいっぱいになってしまいます。もちろんそれいいと思うし、売上がなきゃ始まらないよね、ということは正しいです。ただ、いくぶんなりとも販売が軌道に乗って来たら、「調達」のことも販売と同様か、ときにはそれ以上に考える必要があるのです。「資金の調達」ではなくて、「材料や商品の調達(仕入れ)」の方です。なぜなら、販売と調達は表裏一体だからです。

そこで、今回は調達(サプライヤー)について書いていこうと思っています。

最初のサプライヤーは創業仲間

事業の開始当初は、販売力がないので調達力も弱い状態です。「勝ち筋」が定まっていない段階なので、発注が不安定だからです。

勝ち筋が見えていれば、ある程度先々の見通しがつくので「むこう1年間はこのくらいの規模で発注を出せます」と伝えられます。サプライヤーからすれば、取引の旨味を感じることが出来るので、取引に前のめりになることが出来ます。

でも、勝ち筋前は、そこまで行き着いていない。

なので、そういった状況にも拘らず、事業が描き出す未来に期待をしてくれ、取引をしてくれるサプライヤーは、もはや単なる取引先ではなく創業仲間だったりするのです。複数社を交渉のテーブルに並べてというよりは、信頼してくれたごく少数社からの調達、場合によっては1社からの調達ということもあるのかも知れません。

サプライヤーの散らしは2社

スタートのスタートという状況を抜け出して、大きくなってきたらはじめて調達の交渉の舞台にあがることができます。この段階まで到達したら、調達は2社購買であることを基本にしたほうがよいと思っています。

2社購買とはどういうことか。

創業仲間だからといって、いつまでも1社だけと取引をしているのは健全ではありません。なぜなら、分散がないからです。また、可能な限り多くの取引先を開拓し、発注都度安値を探るのも健全ではありません。なぜなら、集中がないからです。

1社独占の分散不足」の関係は、主従の関係であり、共依存の関係になりがちです。たとえば、生産委託先のA社が優秀だからといってA社ばかりに発注を寄せてしまうと、やがてA社の成長が調達のボトルネックになってしまうのです。多くの場合、販売の急増や急減に対して、生産はそこまで柔軟ではありません。需要予測の誤差、原材料の不足、生産能力の制限、人的リソースの不足などなど、製販の蜜月が崩れる要因は多重に存在します。

多数乱戦の集中不足」の関係は、不確実な関係であり、信頼が希薄になりがちです。たとえば、商品Bの調達(製造や仕入れ)を過度に分散してしまうと、やがて商品Bの調達管理に問題が生じ始めます。供給の不確実性、品質管理の困難さ、ロジスティクスの複雑さ、調達管理のコスト増などなど、1社独占の分散不足同様に、製販の蜜月が崩れる要因が多重に存在しているからです。

絞った2社は、やはり仲間

では、「絞った2社」とはどんな関係性になっていけばいいかというと、ここでもやはり仲間であることが大事だと思っています。仲間なので「交渉相手」ではなく、お互い一緒になって双方の利益を作る「共創相手」なのです。

たとえばラクスルは、サプライヤー(印刷の委託先)との密な協力関係を構築するために、サプライヤーへ定期訪問し、各社の特徴にあった個別の生産効率改善方法を週単位のサイクルで提案を重ねながら改善をしていったりしています。オペレーションの改善提案はもちろん、用紙の一括購入や運送費の一括交渉によるスケールメリットを活用、そしてセキュリティインシデントの対策や意識向上などまで、「顧客体験向上」に向けて、サプライヤーとサプリチェーンの共創をおこなっているのです。

これに相反することは何かというと、かける言葉が「コストダウンよろしく」であったり、不確定情報で発注して、その後「引き受けられるっていいましたよね」と強引に押し込んでいったりする状態です。なにも生んでいないどころか、サプライチェーンを傷める存在でしかない事業体に未来はありません

よく売るために、よく買う。販売と調達は表裏一体である、ということをあらためて肝に銘じ、引続き、よい事業を創っていきたいと思います。

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