どうして教えてくれなかったの?社会人になる前に知りたかったマクロ経済(高校生向け登壇)

2023年6月3日
全体に公開

「マクロ経済教室」へようこそ。

台風が直撃し、新幹線が全線運休。これから、大阪の名門・清風高校で登壇のため大阪に移動しなければならない。心待ちにしていた機会なので、何とかお目にかかりたい。

登壇テーマは「これからの時代を生き抜くために必要な金融リテラシー」だ。高校生の方にお話できるのは、初めての機会で心踊る気持ちと同時に不安もある。

これから、受験勉強と向き合ったり、大学生や社会に出る人達に、私が何を伝えられるのだろう。と悩みに悩んで作成した登壇資料を握りしめる。東京駅は混雑し、ホームや車両から人が溢れている。昨日の夜を駅で過ごした方も多いのだろう。疲れ切った表情を見ると、無事に帰宅して欲しいと願う。

「金融リテラシー」のテーマだが、私は高校生に株や投資の話をするつもりはない。その前に、社会構造の仕組みや前提を知ることの方が、子供たちの資産になると信じている。「学生時代にどうして教えてくれなかったの?」と思うような、世の中の真実もたくさんある。

■「どうして教えてくれなかったの?」社会人になるまでに知りたかったこと

小学4年生から大学院を卒業するまで、何らかの塾に通っていたので、学校と塾の往復を気付けば17年間続けていた。

正直、学歴偏差値のピラミッドの中だけで生きてきたので、実は20代後半まで他の価値観があることすら知らなかった。

いい大学を出ることをゴールにしてしまった自分には中身が空っぽで、結果、就職活動は全滅した。そこから、ゼロから1つ1つ金融を学んで今がある。いまも、毎日のほぼすべての時間が金融・経済を追いかける時間に消えています。成功とはかけ離れたような私が、彼らにとって、参考になるような話ができるのだろうか。私だって、まだ半人前だ。

でも、「学生時代にどうして教えてくれなかったの?」と思うような、世の中の真実もたくさんある。

ドル基軸通貨とは何がすごいのか▶金融とはそもそも、何なのか▶自分自身バランスシートで考える▶複利とは「アインシュタインが人類最大の発明」と言った

こうした本質の部分は、社会人になっても知られていない事が多い。

この連載では、これから高校生に話す予定の「ドル基軸通貨」について執筆してみる。

■ドル基軸通貨とは何がすごいのか

トム・コーポランド著『企業価値評価ーバリュエーション 価値創造の理論と実践』の中に、世界の基本的構造を理解する国家のCash Flow/Stockモデルが記されている。

なぜアメリカがすごいのかを本質的に理解できる内容だ。

アメリカは世界最大の消費国であり、全世界から大量のモノやサービスを購入(輸入)している。裏を返せば、毎年、膨大な金額のドルを輸入代金として世界に支払ってる。しかし、アメリカは世界で最も魅力的な金融市場を持っている国であることから、各国は対価として受け取ったドルを運用目的でアメリカ市場に米国債という形で投資している。世界中の資金が米国に還流する流れとなる。

モデルでは、アメリカは世界の銀行であり、それ以外の国はただの企業の位置付けになる。それは、イデオロギーの異なる中国やロシアであってもだ。

アメリカの以外の国は、必死にドルを稼ぐ。ドルがなければ、国は破綻するからだ。一生懸命ドルを稼いだにもかかわらず、そのドルで何をしているか。世界で最も安心な「米国債」を購入している。中国も米国債を大量に購入している。

(出所:日本金融経済研究所)

■米国は還流したドルで何をしているか

バラまいたドルを、いとも簡単にアメリカの国内に還流させる仕組みを持っているのだ。還流させたドルで、アメリカは何をしているか。軍事力を強化し、世界一の軍事大国を維持し、他国が追随できない規模だ。

戦争や安保不安が高まれば世界のアメリカ依存が進む。ドル以外の通貨で通貨危機が起きれば、またドル依存が強まる。足元の米国金利上昇で、米国債投資に拍車がかかっている。債務上限問題が解決したとて、長期的に見れば財務の問題がある米国債の信用が揺らぐとの意見もあるが、今のところ、米国債は人気がある。

米国に戻ってきたドルは、米国経済と米国企業の反映に寄与し続けている。官民相乗りのシリコンバレーモデルで、GAFAMを誕生させたのも、海外からのドルの還流・ファイナンスに成功しているからだ。先端技術(軍事応用可)への傾注、軍事および研究開発を背景とした世界からの利益の吸上げ、さらに、GAFAに代表される銘柄の高PER化だ。

圧倒的な資金があるが故に、米国企業はこれまで自社株買いを続け、時価総額を高めてきた。最近では、AI半導体のエヌビディアが時価総額1兆ドルの仲間入りだ。

単に、貿易で利用されている決済通貨がドルという理由だけでなく、米国債券に資金が集まる構図がドル基軸通貨の本質だ。

米国の資金フロー/概念図(2009~2018年)

■中国はドル基軸が目障り

この構図は、簡単には変えられないし、どこまでも米国が勝てる理由になっている。この構造に反発しているのが、中国だ。

なぜ、中国が一帯一路政策を取り、なぜ、デジタル人民元を普及させようとしているのか。本気でドル基軸通貨の仕組みに対抗しようとしてるのが中国なのだ。

こうした様々な世の中の構造を社会人になる前に知っていたら。純粋におもしろい。偏差値ピラミッドの範囲では納まり切らない、好奇心がくすぐられる。自分の意思決定の幅も広がっただろし、もっと柔軟に物事を考えられただろうと思う。

狭い視野や価値観に囚われないことで、人は伸び伸びと自分の能力を発揮できるし、そうした人間が多ければ多いほど、経済が活気づくのは間違いなさそうだ。

社会に出れば、厳しいこともあるし、疲れてしまうこともある。だけど、学生の頃とは比にならないほどビジネスの世界は広く、そのぶん楽しい。希望を持てるようなメッセージを伝えられるだろうか。丁寧に言葉を紡ぎたい。

いま、新幹線がちょうど動きだした。果たして、私は無事に清風高校にたどり着くことができるのか。

  • サムネイル画像 Canva より購入
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