【大きな問題に立ち向かう時こそ、多様性が威力を発揮する】ユニセフ ニューヨーク本部勤務 大久保智夫さん✖️経済キャスター瀧口友里奈 対談<その③>

2023年6月1日
全体に公開

誰にも正解がわからない大きな課題に立ち向かうときにこそ、多様性が威力を発揮する。その強みを引き出すリーダーシップのあり方とは――? ユニセフ ニューヨーク本部勤務 大久保智夫さんと、経済キャスター 瀧口友里奈の対談。その3回目をお届けします。

「海外のほうが自分らしく生きられる」

瀧口:大久保くんは帰国子女だよね?

大久保: 5歳くらいのときから2年間アメリカに住んで、小学校1年生のときに日本に戻った。それから大学まではずっと日本にいて、2010年に海外に出てからは一度も日本にでは働いていないね。

瀧口:そうなのね。英語がすごく上手だから、もっと長く海外にいたのかと思っていたよ。

「三極委員会」という日米欧の非営利の政策協議団体があるのだけど、先日その国際会議のアンダー35の代表として日本から派遣していただいて、インドで行われた年次総会に出席してきたの。パネルセッションや交流会など、すごく面白くて充実した時間だったのだけど、世界中から集まった参加者の中で、おそらく大半の方々は、アメリカやイギリスの名門大学を出ている超エリートの人たちだった。小学生のときに数年アメリカに住んでいました、という私のような人は少なくて、いろいろな国際会議で場数を踏んできたような人が多かったから、すごく刺激的だった。

大久保:超エリートってどんな人たちだったの?

瀧口:普通に仲良く喋っていたインド人の男性が、あとから聞いたらインドの大臣の息子さんだったということがわかったりしたよ(笑)。日本チームの若手メンバーは、私以外は海外に軸足を置いて活躍している人が多かった。少しうらやましかったのは、海外で生活している人たちは、堂々と自分らしく生きているように思えたこと。私自身、そういう人たちと接しているとき、型にはめないで見てもらえているような心地良さを感じた。

大久保:ぼくが海外生活を選んだ理由も、僕にとっては海外でのほうが自分らしくいられるということがあったかな。日本で育ったからだとおもうんだけど、どうしても日本の“ランキング”を意識して生きてしまう気がしていて。受験の時は偏差値が明確に決まっていたし。学校では先輩、後輩の序列も決まっている。でも当たり前だけど、別に東大卒だから偉いわけではないし、先輩だから偉いわけではないし、成績が良いことがすべてではない。

バングラデシュやモザンビークに行ったら、誰も東大なんか知らない。「君、15歳ぐらいに見えるけど、高校生?」みたいな感じ(笑)。日本人というレッテルはもちろんあるし、それぞれの社会で‘ランキング’はあるけれど、「あなたは何をしてきたの?」「あなたは何をしてくれるの?」「あなたはどんな人なの?」に興味が向くことが多い気がして。

ニューヨークの街も面白いよ。国連で働く人は学歴とか、年齢とか、性別とか、本当に多様で。例えば学歴を聞かれることはほぼないから、採用以外の部分で普段の何か仕事に影響を与えるかというと、一切ない。

瀧口:私、スタートアップの取材が好きで10年くらい前からずっと続けているのだけど、その理由は、スタートアップがゲームチェンジを起こせるところ。型にはめられないで、良い会社を作り伸ばした人たちが、きちんと市場から評価されていくところがとても面白いと思っているの。

大久保:中卒だろうが中退だろうが関係なくて、面白くて儲かるビジネスをつくった者勝ちっていうことだものね。

瀧口:“型にはめられない”というマインドは私自身すごく共感できるし、日本全体に活力を与えてくれるものだと思っているよ。

大久保くんは海外に行って苦労したことは何かあるかな?ずっと海外で暮らすと決めるには、勇気も必要だったと思う。

大久保:最初からうまくコミュニケーションがとれたわけではなかったよ。まだよく覚えているけど、ハーバードに留学したとき、誰かの家でホームパーティがあって。ダイニングルームで会話がすごく盛り上がっているのにどうしてもその中に入れなくて。飲み物を取りに行くふりをしてキッチンの冷蔵庫の前でたたずんでいた。どう理由を付けて帰ろうかな、って。帰り道に、「あぁ、どうして来ちゃったんだろう」と後悔してた。そのときは悔しかったけど、気づいたらもう日本を離れて13年目。そういう場は今でも緊張するときもあるけど、あまり苦に思わなくなった。

瀧口:私ならそこで「もう日本に帰ろうかな」と思っちゃいそう(笑)。

大久保:帰れないよ。2年分の学費を払っちゃってるから(笑)。それにたぶん、そこにいる人になりたいと思ったんだよね、ぼくは。

瀧口:うんうん。ここで輝きたいな、と?

大久保:日本の社会での基準を飛び出したかったから、ここに来た。誰もぼくを知らない人の中にいることを選んで、ここに来た。いざそこに来てみたら、まったく相手にされなかったという経験で終わりたくはなかったんだと思う。

日本人はリーダーシップをとるのが苦手?

瀧口: 大久保くんは、国際機関で働く中で、リーダーシップはどうあるべきだと思っている?

大久保:大きな問題を解決したり、大きな目標を達成するために、みんなが力を発揮できる場をつくることが大切なリーダーシップだと思っているよ。

世界各国で起きる難しい問題について、誰かが答えを持っているわけではないから、上司が言ったことを部下がやるという単純なことでは事態は良くならない。たとえばシリアで地震が起きたとき、すぐ現地入りして手助けしたいと思っても、そもそも国境が開かれていなくて、支援部隊が入れなかったりする。じゃあどうしようというときに、現地スタッフや、現地の宗教のリーダー、政治家や、ユニセフの各部署のスタッフ、さまざまな立場の人の意見を聞いたうえで、決断しなければいけない。率直に意見が言える環境を作りながら、大事なところはきちんと線引きをしたり。緊張感のなかでも、ユーモアを持ってみんなをまとめたり。そういうことができる人が真のリーダーだと思うんだよね。

それにはリスクをともなう。ときには自分の意見が正しくなかったと認める必要がある。みんなが議論を避けようとしたら、あえて対立を生むような発言をする必要もある。いまは変わってきているのかもしれないけれど、僕が日本で勉強していたときには、波風立てないように振る舞うことが良しとされていた印象があるから、多様な意見を認めたり、まとめながらすすめるリーダーシップの形は学ぶことばかりだった。

瀧口:日本人はそもそも「議論する」ことに慣れていないということかな?

大久保:それぞれの国や文化でいろんな議論の仕方があると思うけれど、もしかしたらほかの人と違う意見を言うことへの抵抗が大きいかもしれないね。あとは、年齢や役職によって、どれだけ意見が認められるか、発言をさせてもらえるかが決まる要素が多いかもしれないね。もちろん、これは日本だけの状況じゃないと思うけれど。

人が伸び伸びと能力を発揮するためには、優秀なファシリテーターの存在が不可欠だ。(最終回に続く)

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