ロシアのウクライナ侵攻から一年、気候変動の世界はどう動いたか、成長の機会はいかに

2023年2月25日
全体に公開

みなさん、こんにちは。今週もニューヨークに来ています。エンパイアステートビルディングはロシア侵攻から1年を受けてウクライナの国旗色に染まっています。今回はこの1年どのような動きがあって、今後どこに向かっているのかを書きたいと思います。

ロシアによるウクライナ侵攻は、特に欧州で、そして世界でも、いかに自国のエネルギーやコモディティがロシアに依存しているかに改めて気付かされることとなりました。この1年、エネルギー市場はガス市場の需給が逼迫し価格高騰が続きました。そしてロシア産の石油やガス、石炭などのコモディティ商品を買わない、脱ロシアの動きが欧米を中心に広がりました。それがエネルギーや気候変動政策に大きな影響を与えました。大きく分けて以下の3つの動きがあったと思います。

1.脱ロシア産

欧州や英国は今回の侵攻でロシア産の石油やガスを可能な限り避けた1年となりました。下図はロシア産の石油の輸出先として、欧州や英国が少なくなり、中国やインド、トルコが増えたことを示しています。

出所:IEA, Russian total oil exports, January 2022 - January 2023, IEA, Paris https://www.iea.org/data-and-statistics/charts/russian-total-oil-exports-january-2022-january-2023, IEA. Licence: CC BY 4.0

ガスも同様です。欧州は地域平均で過去47%までロシア産ガスを輸入していましたが、2022年は23%にまで下がりました。この脱ロシアの動きは欧州では後戻りすることはないだろうと専門家は話しています。興味のある方はこちらのポッドキャストを聴いてみてください。

2.エネルギー安全保障強化

ロシア産のエネルギーを使わない代わりに、主に以下の4つの手段を取りました。

①他国からの輸入に切り替える

②ガスはパイプラインでロシアから運ばれてきていたものを、海路のLNGに切り替える(アメリカ産が増加!)

自国産のエネルギーを今後は増やしていく

ガスやエネルギー消費そのものを抑える

上記の①と②だとエネルギー安全保障は確保されませんが、③や④では強化されていくでしょう。

④のガスの消費を抑えるというカテゴリーで最も個人的に興味を持ったのは、ヒートポンプの売り上げの伸びです。下の図はドイツのヒートポンプの売り上げ数です。ドイツはガス需要のうち約半分をロシアからパイプラインで輸入していました。商業施設や家庭でガスボイラーで給湯器や暖房用に使われています。ガスの代替としてヒートポンプが普及すれば、ガス消費を抑えることができるということです。

出所:https://www.ehpa.org/2023/01/19/ehpa_news/germanys-impressive-heat-pump-sales-growth-53-in-2022/

ヒートポンプは寒冷地では機能しないと言われていたのは過去の話で、今はマイナス20度から25度くらいでも機能する製品が出てきているようです。その証拠に北欧でも普及が進んでいます(下図参照)。

出所:https://nathanielbullard.com/presentations

このトレンドに目をつけた英国のオクトパスエナジーは価格の安いヒートポンプを今年の秋にリリースするようです。ビジネスチャンスですね。オクトパスエナジー以外でもガス会社のBritish Gasなどがヒートポンプを売っているようです。ガスの売り上げが落ちることを考えると賢い戦略ですね。

3.クリーンエネルギー政策強化

自国産のエネルギーを長期的に確保していこうとする動きとして、再生可能エネルギー政策の強化が挙げられます。欧州は2022年5月にRePowerEU政策を発表し、2027年までにロシア産の化石燃料の輸入をゼロにすること、最終エネルギー消費に占める再エネの割合を2030年までに45%にすることとしました。その中でもドイツは2030年の再生可能エネルギーの導入目標を85%まで引き上げたり、家庭用の屋根上太陽光の買取価格を上げたり、陸上風力の許認可にかかる時間を短くしたりと、できる限りの政策を投入している印象です。

一方、アメリカではこの1年で大きく気候変動政策が変わりました。インフレ抑制法が2022年8月に成立し、3690億ドル(約51兆円)を気候変動政策に投下することとなりました。そのうち4割が再生可能エネルギーを中心とするクリーン電力の税控除にあてられます。特に注目に値するのは、一つはまだ実用化が進んでいない炭素除去などの脱炭素技術を税控除にて支援していくこと。もう一つは、国内での産業構築にこだわっていること。

アメリカの場合は、ロシアもそうですが、脱中国の方をもっと意識しています。中国への依存を少しでも減らしてクリーンエネルギーや気候変動対策を進めていくための法案と言っても過言ではありません。そのため、税制控除を受けるためには、特に電気自動車のカテゴリーでは厳しい国内産の要件が設けられています。例えば、最終組み立ては米国内であること、蓄電池に使用される鉱物や部品の一定割合が米国内または米国と自由貿易協定を結んでいる国で採掘や精製されること、とされています。

今後の動向

つまり、3つに分けて書かせていただきましたが、この3つは密接に繋がっていて、自国産のエネルギーを確立することは、再生可能エネルギーをはじめとしたクリーンエネルギーを自国に持つことであり、それを達成することで、エネルギー安全保証は強化され、脱ロシアを達成することとなります。したがって、自国産のクリーンエネルギーを持つことは非常に重要であり、今後もそれが最重要政策となるのではないかと思います。

それに寄りそうビジネスは今後も成長産業となるでしょう。上記のヒートポンプの例や電気自動車関連産業の例、そして炭素除去などは今後も注目に値するでしょう。しかし、まだまだ解決できてない分野として農業や重厚長大産業の分野での脱炭素の技術も発展が必要ですし、それを後押しする政策も必要となるでしょう。例えば、水素は重厚長大産業の脱炭素に欠かせませんが、こちらも国内産ということにこだわる国の国力は上がると思っています。水素はまた別の機会に書かせていただけたらと思います!それでは今回はこの辺で!最後まで読んでいただきありがとうございました。

このトピックスでは、気候変動を含めたリスクとビジネスチャンスの見極めのヒントになるような、気候変動の知識や世界の動きをご紹介していきます。皆さんも気候変動を考慮した経営や事業戦略についてのお悩みがあればコメント欄でお寄せください。

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