久しぶりに「名演説」を聞きました

2023年1月10日
全体に公開

みなさん、こんにちは!

長く更新が滞ってしまい、すみません。その間にも新たにこのページに登録してくださる方がおり、感謝です。

さて、今回はアメリカの話題をお届けします。

グダグダ議会からの、名演説!

アメリカでは年明けから、去年の選挙に基づく新議会がスタートしました。

新議会ではなんといっても、まず最初に議長を決めます。議長が決まらないと法案の審議ができないので議会の体をなしません。

そしてアメリカの下院では新たに多数派になった共和党からマッカーシーという議員が選出される予定でした。

しかしこれが何ともまあ、見るに堪えないグダグダに。少数の共和党の極右議員たちが造反したことでマッカーシーに必要な票数が集まらない状況が実に3日間以上続きました。

そして投票は15回に及び、やっとのことでマッカーシーが議長に選任されました。この史上空前のgdgd(古い?)については、こちらの記事で詳しく解説していますので是非。

さて、本題です。

議長就任のあとには演説が行われるのですが、これが久しぶりに見るすごい演説でした。とにかくエモかった。

演説を行ったのはマッカーシー…ではありません。少数派のほうの民主党トップ、ハキーム・ジェフリースという議員でした。

Anna Moneymaker / getty

マッカーシーに先駆けて演説したジェフリースは、ニューヨーク選出の52歳。アメリカ政界で初めて、議会の政党リーダーになった黒人です。 

さて、そのジェフリースは何を語ったのか、日本語訳してみました。なんといってもハイライトは、約15分の演説のうち、最終盤の3分ほどでした。

力強い「アルファベット演説」

我々はあなた方(共和党)にパートナーシップの手を差し伸べ、アメリカ国民のために可能な限りいつでもどこでも、共通点を見出そうとすることを明確にしたい。
民主党としてではなく、共和党としてでもなく、無党派層としてでもなく、アメリカ人としてです。
しかし、決して我々の原則を譲らないということも明確にしたい。下院民主党員は常に独裁よりもアメリカ的価値観を(American values over Autocracy)を優先させます。そして
偏見よりも博愛を(Benevolence over Bigotry)
カルトより憲法を(Constitution over Cult )
デマゴーグより民主主義を(Democracy over Demagogues)
過激主義より経済的機会を(Economic opportunity over Extremism)
ファシズムより自由を(Freedom over Fascism)
ガスライティングより統治を(Governing over Gaslighting)
憎しみより希望を(Hopefulness over Hatred)
孤立より包摂を(Inclusion over Isolation)
司法の行き過ぎよりも正義を (Justice over Judicial overreach)
吊し上げより知識を(Knowledge over Kangaroo courts)
 制限より自由を(Liberty over Limitation)
マール・ア・ラーゴ(トランプの別荘)よりも成熟を(Maturity over Mar a Lago) 
否定的なことより普通のことを(Normal thing over Negativity)
妨害より機会を(Opportunity over Obstruction) 
政治より人々を(People over Politics)
QアノンよりQOLを(Quality of life issues over Q-anon)
人種差別より理性を(Reason over Racism)
誹謗中傷よりも誠実さを(Substance over Slander)
専制政治よりも勝利を(Triumph over Tyranny) 
醜さより理解を(Understanding over Ugliness) 
投票の制限よりも投票の機会を(Voting rights over Voter suppression) 
富裕層より労働者の家族を(Working families over The Well-connected) 
外人嫌いよりももてなしを(Xenial over Xenophobia)
「あなたならできる」よりも「私たちはできる」を(”Yes, we can” over “You can do it”)
ゼロサムの対決より熱意のある政治を(Zealous representation over Zero sum confrontation)
優先させるのです。

どことなく感じる「オバマっぽさ」

なんとなんと、民主党として譲れない価値を全部アルファベット順に言い切ったのです。

この手の話は理念的でありながらも冗長になりがちなので、なかなかに見事だったと思います。話し方もすごくエネルギッシュで、聴いていて飽きない力強い演説でした。

政治の世界ではしばしば、演説からスターが生まれることがあります。最近で言えば、世界中の議会やイベントで演説をしているウクライナのゼレンスキー大統領のスピーチ力が称賛されています。

少し遡れば、オバマもそうだったように思います。

新進気鋭の上院議員だったオバマでしたが、全米的に有名になった背景には演説の力強さがあったと思います。例えば、大統領選に出る4年前の2004年に行った「One America」演説は素晴らしいものでした。

ジェフリースはどことなくオバマっぽさを感じさせます。例えば上に紹介したスピーチで、アルファベット演説の直前にはこんな事も言っています。

(公民権運動の指導者)ジョン・ルイスがこの議会で度々言ったように、我々は違う船でやってきたかもしれませんが、いまは同じ船に乗っているのです。
私たちは白人であり、黒人であり、ラティーノであり、アジア人であり、ネイティブアメリカンです。

我々はキリスト教徒であり、ユダヤ教徒であり、イスラム教徒であり、ヒンズー教徒です。私たちは宗教的であり、世俗的です。

私たちはゲイであり、ストレートです。私たちは若年であり、年配者です。私たちは女性であり、男性です。 私たちは市民です。そして私たちは夢想家です。私たちはアメリカを偉大な国にしているのです。(中略)

私はブルックリンの病院で生まれ、クラウンハイツの労働者階級が住む地域で育ち、礎となるバプティスト教会に通い、クラックコカインの蔓延という暴力の中で何とか生き残り、ここ合衆国議会で民主党の下院最高位として立っているのです。

アメリカは、まさにチャンスの国であり、人民の、人民による、人民のための政治が行われる国です。この議会最初の日に、私たちはアメリカン・ドリームにコミットしましょう。

今のアメリカ人にこそ、響かない演説かも知れない

さて、なかなかの名演説だったジェフリースの演説ですが、アメリカではどれくらい響くのかと考えてみると微妙かもしれません。

そもそも上記の演説の最中、議会の右側に陣取る多数派の共和党からの拍手はまばらでした。

極端に分断した今のアメリカでは、民主党の人が何を言おうが、ほぼ共和党には響かないような土壌が出来上がっています。

そして肝心の民主党の中でも、ジェフリースに対して冷ややかな目線を向ける人たちもいます。

ジェフリースは党内でも左派(進歩派)を自称していますが、もっと左派な人たちからは中道寄りだと見なされたりしているそうです。”Not Progressive Enough”(十分に進歩的ではない)といったところでしょうか。

とはいえ、共和党で80歳手前のトランプが絶大な影響力を持っているのと同じように、民主党にも脂の乗ったスター候補はいません。ついでに言うならバイデンも特筆したスター性はないでしょう。

早くも来年に迫ってきた大統領選に向けてどんな政治家が台頭してくるか注目です。

マッカーシー(左)とジェフリース。超党派の合意はどれくらい実現するでしょうか(Chip Somodevilla / getty)
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