【16日解禁】意外と語れないボージョレ・ヌーヴォー、7つの真実って?(初級編)

2023年11月15日
全体に公開

11月16日は、Beaujolais Nouveau(ボージョレ・ヌーヴォー)の解禁日です。

「ボージョレ・ヌーヴォー」とは「ボージョレ地区の新酒」という意味。つまり、その年に獲れたブドウで造られた「初出しのワイン」のことです。

ニュースでも大きく報じられるため、見聞きしたり、飲んだりするでしょう。ただ、「どんなワイン?」と改まって聞かれたら、答えに詰まってしまうかもしれません。

ドンペリやロマネ・コンティとは違った文脈で広く知られていますが、意外と説明が難しいもの。今回は解禁日にちなんで、「Beaujolais ボージョレ」にまつわる「7つの真実」を解説したいと思います。

真実1. ボージョレ地区って?

ボージョレの産地は、「ロマネ・コンティを『100均のワイングラス』で飲むと」の記事でお伝えしたロマネ・コンティやモンラッシェと同じフランスのブルゴーニュ地方です。南端に位置して、「美食の町リヨンの北側に広がるワイン産地」とまで言えれば、立派なワイン通です。

一部ボージョレ委員会の資料を元に作成

真実2. ボージョレのブドウ品種は?

ブドウには品種があります。有名どころは、カベルネ・ソーヴィニョンやシャルドネあたり。

では、ボージョレは? ガメイ種です。

ガメイ......。言葉にしたことがない、カタカナ3文字でしょう。

ガメイ種は、フランスのロワールやスイスでも造られていますが、世界の半分以上が原産地である「ボージョレ」で栽培されています。

「あれ? ブルゴーニュ地方ってピノ・ノワールじゃなかったっけ?」

そう思われた方は、ワイン通への道を順調に歩まれています。まだまだピンとこない人も、これを機会に少しずつ慣れ親しんでいきましょう。

ブルゴーニュの中心となるコート・ドール地区の赤ワインは、主にピノ・ノワール種。ただ、より温暖で土壌の異なるボージョレ地区は、ガメイ種との相性がいいのです。

ブルゴーニュはピノ・ノワールで有名だけど、ボージョレはガメイの原産地──。

何気ない会話で思い出せるよう、折を見てまた話題にするのでご安心を。

Marius-ciocirlan/Unsplash

真実3. ヌーヴォーとは?

「Beaujolais(ボージョレ)」がわかったら、次は「Nouveau(ヌーヴォー)」です。

ヌーヴォーとは、フランス語で新酒のこと。

フランスでは通常、9月に収穫したブドウがワインとして市場で販売されるのは1〜2年後になります。どんなに早くても、収穫翌年の春ごろです。

ただ、ヌーヴォーは多くのワインとは異なる製法で造ることで、収穫から2カ月程度という早さで市場に出回ります。

ヌーヴォーといえば、ボージョレが有名ですが、実はフランス国内ではミュスカデやラングドックといった産地でも同じく新酒(ヌーヴォー)が造られています。

これらは「ミュスカデ・ヌーヴォー」「ラングドック・ヌーヴォー」と呼ばれています。

ヌーヴォーはフランス語で新酒ですが、イタリアでは同じ意味で「Novello ノヴェッロ」、オーストリアでは「 Heuriger ホイリゲ」と呼ばれています。日本でもこうしたワインが新酒として販売され、よく目にするようになりました。

odrigo Abreu/Unsplash

真実4. ヌーヴォーの代名詞になったのは?

ここまでの話を要約しつつ、お伝えしたかったのは、「ヌーヴォーとは新酒で、ボージョレのほかでも作られている」という事実です。

では、いったいなぜ、ボージョレ・ヌーヴォーが、飛び抜けてこれほど有名になったのでしょうか?

それは、今では「ボージョレの帝王」とも呼ばれる一人の醸造家の存在がありました。

故ジョルジュ・デュブッフ氏を紹介しましょう。主な輸入元のSUNTORYの説明を引用します。

ジョルジュ・デュブッフ氏は、ボージョレの北部マコン地区で生まれ、18歳ごろからワインの世界に入りました。独自のセンスに加えて、類いまれな鼻と舌を持ち、早くから醸造家として頭角を現します。
30歳の頃1964年に会社を設立。自転車にワインを積み、近隣のレストランに売り込むことから始めました。
生まれたボージョレを愛する彼は、地元やリヨンだけで飲まれていた「地ワイン」を世界に広めようと考えます。

彼は、解禁を味わう愉しみを世界に伝えボージョレの名を広めたのです。
今では世界中が解禁を心待ちにしています。その功績と醸造家としての才能が認められ、彼は「ボージョレの帝王」とさえ呼ばれているのです。

ジョルジュ・デュブッフのお花のラベルのボトルは、誰もが一度は見たことのある、ヌーヴォーの代名詞と言えるボトルではないでしょうか。

Foood and Sens

真実5. なぜ、こんなに日本に広まった?

ところで、ボージョレ・ヌーヴォーですが、世界の中でも日本ほど大きなニュースになる国は多くはありません。

主に2つの理由が考えられます。

主に欧州にこれまで50回以上、訪問してきた私からみて、日本には「旬を愛で、初物を尊ぶ」文化があるように感じます。

ボージョレ・ヌーヴォーの解禁を報じるニュースでは「今年の出来は」と添えられ、お店にもポスターが。そうして見聞きしていると「飲んでみようかな」と興味をそそられるのではないでしょうか。

もう一つは、解禁日の時間にあります。

日本は、フランスより時差で8時間早く、ボトルを開けることができます。「本国フランスよりも一足早く」という触れ込みは、どことなく優越感をもたらしてくれます。ボージョレ・ヌーヴォーが本格的に日本に輸入された80年代後半、日本はバブル期。いち早くヌーヴォーを飲むために、成田空港で0時の解禁とともに乾杯するといった華々しい光景が報道されていました。

ryce Barker/Unsplash

日本はボージョレ・ヌーヴォーの輸出先の第一位であり、半数を占めています。2023年は20万ケース(240万本)が輸入されますが、ピーク時2004年の104万ケース(1248万本)に比べると80%減りました。

それはひとえに、価格に対する味わいのコストパフォーマンスが見合っていないからではないでしょうか。

ボージョレ・ヌーヴォーは今年、3,000円弱から5,000円くらいで販売される見込みです。日頃からワインを飲まれない方には、その価格帯が高い・安いを感じづらいかもしれません。高級ワインをいったん脇に置いて、手頃に求められるワイン価格を1,500円だとすると、割高であると言えます。

なぜボージョレ・ヌーヴォーはコスパが悪いのか? 背景を知っておきましょう。

真実6. 味<スピード重視の造り方って?

ヌーヴォーは通常よりも収穫から販売までのスパンが短く、2カ月程度で市場に出ると説明しました。なぜそれが可能なのか? それは特殊な製法で造られているためです。

「炭酸ガス浸漬法(しんしほう)」といって、タンク内に炭酸ガスを充填して、ブドウを丸ごと浸漬(しんせき。液体につけひたすこと)させます。これにより、何日も漬け込むことなく赤ワインらしい色調になり、フルーティーで渋みが抑えられた味わいのワインとなります。

じっくりと寝かせるように発酵させる通常のワイン製法よりも、とにかくスピード重視。「早く飲みたい」ためで、ワインそのものの味わいは、どうしても劣ってしまいます。

Jennifer Yung/Unsplash

真実7. 運ぶのもスピード重視でコスト高?

多くの輸入ワインは通常、日本に船便で運ばれています。私はワイン輸入商社で長らく働いていますが、船便輸送には、およそ6〜8週間(1カ月半から2カ月)程度の期間がかかります。

一方、ボージョレ・ヌーヴォーは、新酒の解禁が価値であるため、とにかくスピード重視。11月の解禁日に間に合わせるには、船便で悠長に運んでいるわけにはいきません。

航空便で輸送するのです。

つまり、ワイン価格に占める輸送費の割合が通常より高い、というわけです。ワインそのものの価値や原価よりも、輸送費にお金を払って口にしているようなもの、というと言い過ぎでしょうか。

フランスでは実は、500円〜1000円もしないようなワインです。これが、3000円弱〜4000円以上になっているのが、この秋の風物詩の舞台裏です。

いまはウクライナ侵攻の影響で輸送費がさらに高騰し、5000円もザラになってきました。

初物を楽しむ文化、話題になるコト消費としては、なお需要はあるでしょう。一方で、特に空輸コストが高くなりすぎて、ワインの本来の実力には不相応な値段になっています。

ほかにも「安くて美味しいワイン」が簡単に手に入るなか、なおも「ボージョレ・ヌーヴォーにこだわって飲む理由」が、徐々に薄れてきているようです。

Patrick Campanale/Unsplash

7つの真実、いかがでしたか? やや世知辛い、ネガティブトーンになってしまいましたが、旬を味わう楽しさは価格だけに表れるものではありません。

ワイン通を目指す読者の皆さんに、「上級編」ではワンランク上の情報をお届けします。

     ◇

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文:古川康子(シニアソムリエ)

編集:野上英文(MIT Sloan Wine Club)

フランス語のBeaujolais Nouveauは、「ボジョレー」「ボージョレ」「ヌーボー」「ヌヴォー」などカナ読みされていますが、こちらでは、「ボージョレ・ヌーヴォー」と表記します。

▼参考ニュース、書籍:

ボージョレ・ヌーボー到着 サントリー14年ぶり値下げ(NIKKEI)

「ボージョレ」解禁 価格高騰で45%減(NIKKEI)

Fleurie Bids for Premier Cru Status

Beaujolais Nouvelle Génération

ジョルジュ・デュブッフ

DISPARITION DE GEORGES DUBOEUF LE  » PAPE DU BEAUJOLAIS

Beaujolais Wine Press

「Le Grand Cours de Degustation」

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