なぜ、アムネスティはGoogleとFacebookのビジネスモデルを「人権への脅威」と警告したのか

2024年1月14日
全体に公開

2019年11月、国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルは、「監視の巨人——GoogleとFacebookのビジネスモデルがいかに人権の脅威となるか」と題した長文の報告書を公表しました。それから4年が経過していますが、この報告書はいぜん重要な指摘であり続けていること、また日本語の紹介記事がなかなか見当たらないこともあり、取り上げてみます。

なぜ、GoogleとFacebookのビジネスモデルが人権の脅威なのか。報告書では、アムネスティは「GoogleとFacebookの監視に基づくビジネスモデルは人権(human rights)の不可分な一部であるプライバシーの権利の本質を損なっており、深刻なリスクをもたらす」と厳しく指摘します(なおFacebookは2021年に社名をMetaに変更していますが、今回の記事では報告書の時点のFacebookという表記を使います)。

インターネットの巨大企業、いわゆるハイパースケーラーと呼ばれる企業の中で、特にGoogleとFacebookの2社は広告主導のビジネスモデルを採用しています。両社を支えているのは広告収入であるわけです。両社はインターネット上のプラットフォームとして高い占有率を誇りますが、その独占的なプラットフォーム上でユーザーの行動を監視し、広告ビジネスのために使っています。両社ともに、その独占的な地位の使い方の「度が過ぎている」と批判の声が高まっています。

アムネスティの報告書が特に問題視するのは、両社の独占的地位と不透明さです。最大手の検索エンジンやアドネットワークを支配するGoogle、最大手のSNSを支配するFacebookに数十億人のインターネット人口が依存しています。その公共性を、両社はビジネスモデルに組み込んでしまった。両社ともユーザーの行動を監視、追跡し、ユーザーについての深い「洞察」を得て、それをターゲティング広告の表示や、プラットフォーム上で人々のエンゲージメントを維持、向上させるための施策と密に連動させています。

2016年に起きた「ケンブリッジ・アナリティカ事件」は、Facebookのターゲット広告を政治的キャンペーンに利用したもので、トランプ大統領の当選に大きく影響したと言われています。この事件をきっかけに社会がFacebookへ向ける目は一気に厳しくなりました。

ビジネスモデルは、収益の最大化に向けてチューニングされるものです。そこでユーザーのメリット、あるいは権利(人権)が考慮されているかどうかを知るには、「透明性レポート」のような形での情報開示が欠かせません。しかし、私たちはGoogleやFacebookが実際には何をしているのか、非常に乏しい知識しか与えられていません。『監視資本主義』の著者ショシャナ・ズボフによれば、「彼らは私たちのことは何でも知っているが、私たちは彼らのことをほとんど知らない」のです。

例えば、GoogleとFacebookはプラットフォーム上の行動の追跡によって、ユーザーの次のような属性について知識を持っています。「18歳未満」「多文化との親和性」「反逆に関心がある」「(元ナチス指導者の)ヨーゼフ・ゲッベルスに関心がある」「所得階層50%未満」「中毒治療センターへの関心」「中絶への関心」「白人虐殺への関心」「性的指向」——こうしたプロファイリングに基づく情報を、広告主や政党がターゲティング広告のために使うことが可能になっていると報告書は指摘します。

こうしたプロファイリングに基づく広告のすべてが人の権利を侵害するとは限りません。しかし「経済的、社会的、文化的権利を含む人々の権利に直接触れる文脈で展開された場合には、FacebookとGoogleが広告主によるきめ細かいターゲティングを可能にすることは本質的に差別のリスクを高める」と報告書は指摘します。

そのような人権侵害の事例を一つ紹介します。Facebookの「住宅」の広告に関して民族や年齢により一部のターゲットを排除していたことを不当な差別であるとして、2019年3月、アメリカ合衆国住宅都市開発省(HUD)はFacebookを訴えています。Facebookの広告主は「就労中の女性」、「小学生の母親」、「外国人」、「プエルトリコ島民」、それに「子育て」、「アクセシビリティ」、「介助動物」、「ヒジャブファッション」、「ヒスパニック文化」に"関心のある人々"をターゲットに含めたり排除することができました。マイノリティを狙い撃ちで排除できるようになっていた訳です。訴訟の後、Facebookは住宅カテゴリのターゲティング広告の機能を制限するようになりました。

今、GoogleはChrome ブラウザでのサードパーティ Cookie の段階的廃止を進めています。サードパーティCookieとは、インターネット広告でユーザーの行動を監視、追跡する手段として使われていた技術です。この施策の背景には、監視に基づくビジネスモデルへの批判の声の高まりがあったといえるでしょう。

(写真:アムネスティ・インターナショナル報告書の表紙より)

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