アーサー王円卓騎士ガウェインと激闘の記録——太陽神の威光を背に

2024年3月12日
全体に公開

——本トピックスでは、RPGの戦闘を盛り上げる能力の上昇から、西洋のアーサー王伝説に所縁のある騎士の特殊能力を紹介し、その描かれ方をみてゆきます。

 『ドラクエⅤ』をプレイしていた当時、幼心を刺激するある情報がまことしやかにささやかれていました。なんと「隠しダンジョン」に現れるエスタークが仲間入るというのです。裏面のボスの仲間入りなど発想すらない中、それには条件があって、10ターン以内で倒さないといけない、とのこと。実際に戦ってみるとこれは途轍もなく困難なことでした。いざ強力な布陣を組み、挑みし歴戦の回数は知れず——あぁ、たしかに覚えています、ジャスト10ターンで撃破した奇跡の瞬間を。そして、ぼんやりと覚えているのです。たしかに何も起きなかったことを。

 仲間入りの真偽はさておき(調べてもいません)、エスタークとの一戦を交える上で欠かせない最重要アイテムがありました。それが「たたかいのドラム」です。この楽器を奏でると戦う者たちの士気は高揚し、全員の攻撃力を通常の倍になりました。なんたる優れもの。他にも「バイキルト」という攻撃力を高める魔法がありましたが、これは味方一人に効果が限定されます。かたや「たたかいのドラム」は味方全員の攻撃力が一斉にパワーアップ。エスタークとの戦いは1ターン1ターンが至極大事です。誰かが攻撃を繰り出す前にいち早く「ドラム」を叩けるかどうか——こうした細やかな戦略が夢の成就へとつながってゆくはずでした(やはり仲間になったんじゃ)

 種々の能力を高めるアイテムや技は戦闘を盛り上げる一大要素です。思えばこれはRPGに限ったことではありません。『機動戦士ガンダム』では、主人公のアムロよりも存在感を放つ赤い彗星シャア。緑のザクとは違い、彼が操る赤ザクは通常の三倍のスピードで戦うことができます。「見せてもらおうか。連邦軍の、モビルスーツの性能とやらを…」——自信満々なシャアの印象的なセリフ。もはや「通常の三倍」と聞いただけで、あの赤い機体を思い浮かべるという方もきっと多いことでしょう。

 『ドラゴンボール』では、悟空が界王から授かった必殺技の「界王拳」。赤く染まった悟空の膂力とスピードは二倍、三倍、そして四倍へと膨れ上がり、あのサイヤ人の王子ベジータと互角以上に渡り合ってゆきました。手に汗握る激闘、死闘とはまさにこのこと。底知れない力のぶつかり合いは凄まじい臨場感とワクワクを与えてくれました。

*本トピックスの作成中、鳥山明先生逝去のニュースがありました。この場を借りて、数々の感動とワクワクに感謝申し上げますとともにご冥福をお祈りいたします。

 興奮を演出する〈倍増〉、これはどこに由来するのでしょうか。

 直接的な影響関係はさておき、西洋に伝わる伝承物語にはとりわけこの特殊能力と所縁の深い戦士がいます。その人物は、かの名高き〈アーサー王伝説〉に登場する円卓の騎士〈ガウェイン〉——近年『Fate』シリーズに登場し、人気沸騰のサーヴァント、他にも様々なゲームやマンガで登場しています。

 本編を語る前にアーサー王物語について簡単に記述しましょう。5世紀のブリテン島、異民族の侵攻に抗い、一時的に島内の平和を取り戻した戦士、それがアーサーです。この先住民の英雄伝承が語り継がれ、特に12世紀以降、文字に記されることでヨーロッパ各地にも拡散していきました。今でこそアーサーは「王」で定着していますが、このあたりから彼はブリテンを統べる「王」となり、屈強な騎士とともにヨーロッパの覇者へとのぼりつめる、そんな野心的な生涯を綴った〈歴史物語〉が人気を博してゆきました。一方で、歴史の隙間を縫って新たに派生した独自の物語も多く創られ、愛と冒険と神秘に満ちた〈ロマンス〉が花開いてゆきました。

中世アーサー王物語の全体的構図

 〈アーサー王物語〉は一連の物語の総称を指し、コレという〈原典〉が存在するわけではありません。ただし、15世紀英国のトマス・マロリーが著した『アーサー王の死』という作品の中に物語群の全体像を伝える源泉があります。タイトルにもあるように、本書はアーサー王の誕生から「死」(=王国の滅亡)までに起こる多数のエピソードが詰まった集大成です(ちなみに、夏目漱石が著した日本初のアーサー王小説(『薤露行』1905年)も『アーサー王の死』を題材にしています。

 ガウェインはブリテン王アーサーの甥、王に忠実に仕える勇敢な騎士です。彼の武勇や美徳、あるいは評判にちなんだ物語は数多く存在し、例えば緑一色の大男と「首切り」の約束を誓う『ガウェイン卿と緑の騎士』(14世紀末)、醜い老婆との結婚を強いられる『ガウェイン卿とラグネル姫の結婚』(15世紀)などは代表的なエピソードです。前者はJ.R.R.トールキンの翻訳が出ていたり、先ごろ『グリーン・ナイト』(A24配給、2021年)として映画化されて認知度は高まっていますし、後者は呪いの解除・変身を主題とするおとぎ話(「カエルの王子」や「眠れる森の美女」)にも通づる作品です。

 悲しいかな、ガウェインもアーサー王国の歴史とともに没す運命にありました。〈アーサー王物語〉の基調はあくまでも一国の栄枯盛衰——ガウェインは王国崩壊の引き金を作ってしまいます。物語によって破滅への道筋は異なりますが、先ほど触れた『アーサー王の死』では、同志ランスロットに対するガウェインの執拗な復讐心が、王国の混乱を招き、謀反の火種を生む結果となります。どうしてそんなことになったのでしょうか。ランスロットは主役級の活躍をする最強の騎士、ただ最大の弱点を胸の内に秘めていました。それは一人の女性への一途な愛——不幸にもそれはアーサー王の妻グィネヴィアに対する特別な想いでした。二人の不義の関係は周囲で噂をされながらも黙殺されているような状況。しかし、この王国最大の秘め事(いや公然の秘密)がとうとう明るみに出てしまう、これが『アーサー王の死』終盤の出来事です。

 アーサーにとって最大の誤算は忠実な甥ガウェインの豹変でした。王国の末期に起こる一連の騒動の中ガウェインの二人の弟が、王妃を救出しようとしたランスロットにより誤って斬殺されてしまいます。ランスロットにその意図はありませんでしたが、この愛する弟たちの死を境にガウェインの様子は一変。それまでの冷静な姿とは打って変わり、ランスロットへの仇討ちを誓い憎しみを露わにしてゆきます。復讐の鬼を制止する者は、アーサー王を含め誰一人おらず。暴走と追撃の手をゆるめないガウェインはついには彼の故国フランスにまで侵攻していきます。

 半年にも及ぶ包囲戦が続き、両雄はいよいよ相まみえます。ただ、力の差は歴然としていました。実は『アーサー王の死』では、ガウェインは円卓の騎士の中でも七番手とあり、ランスロットには及びません。ただし、彼はここで〈特別な力〉の発動し円卓最強の騎士と拮抗、激闘を演じます。

それは聖者から授かりし恵み、ギフト。年間通して九時から正午まで三時間の間、彼の力は三倍にまで膨れ上がる。それによってガウェインは偉大な名誉を成し遂げた。

相手の漲る力を肌で感じ、ランスロットは恐れ戦きます。この世の者ではない、悪魔ではないか——それでも魔の三時間を耐えしのいだランスロットは、ガウェインの力が正午を過ぎ通常に戻ったとみるや反撃を開始し打ち負かしていきます。

 最強騎士をヒヤリとさせたガウェインの超人的・悪魔的力——本場面を扱った他のヴァージョン(仏版)では、より詳しい状況が記されています。熾烈な争いを目撃したランスロットの家臣は思わず心配の声を口にし、主君の劣勢など全くの想定外といった様子でした。しかも、ガウェインはどれだけ疲弊し負傷していても、正午付近になるとフレッシュで活力満点——〈ミッドデイエリクサー〉あるいは〈ミッドデイ仙豆〉なる回復機能が発動されるのです。こうして膂力・スピード・勇気が回復・増大すると、十五時までランスロットと伯仲。結局、十八時には疲労困憊し剣も握れない状況となりますが、ガウェインの大健闘ぶりは明らかです(とはいえ一方だけエリクサー)。さらに、このヴァージョンでは特殊能力の由来が出生の経緯とともに語られています。ガウェインは出生後まもなくして有徳な隠者より洗礼をうけたこと、それが正午であったこと。つまり彼の力は隠者の祈り、つまりイエス・キリストの恵みなのだと(*ちなみにこの仏版では、激闘時のガウェインの年齢はすでに76歳、ランスロットは55歳という仰天設定)。

 一方でガウェインのパワーの源はキリスト教ではなくケルト神話の太陽神から来ている、とされることがあります。より具体的には、アイルランドの英雄クー・フーリンがモデルと考えられます。クー・フリンの父は太陽神ルー、アイルランドで最も重要な神の一人で太陽と光の神なのです。先ほど触れた『ガウェイン卿と緑の騎士』は「首切り」の挑戦をモチーフとする作品ですが、クー・フーリンにも同種の試練をうけるエピソードがあります。両者の近似性が指摘されることでガウェインと太陽神との同一視が進んだ、ともいえそうです(ただ、『ガウェイン卿と緑の騎士』では特殊能力への言及があるわけでもなく、むしろ攻撃事態が無効にされてしまっているですが)。

アイルランド、ダブリン中央郵便局にあるケルト神話の英雄クー・フリンの銅像

 19世紀末から20世紀にかけて、アーサー王物語の起源探求が進む中で、ジェシー・ウェストン(1850-1928) という学者はガウェインの原初の姿を探る『ガウェインの伝説—初期の範囲と意義に関する研究』(The Legend of Sir Gawain: Studies Upon Its Original Scope and Significance)[London: David Nutt, 1897年] を上梓しました。彼女はガウェインの「力の増減」に着目し、ケルト人英雄の太陽神に遡ることを提唱しました。本書では他にもガウェインの冒険に付随するモチーフが検討されていますが、太陽神の特性は目玉事項となり、現代のポップカルチャー界にも継承されているといえそうです。ゲームなどでガウェインが登場する際にほぼ必須事項となっています。例えば、以下です。

・『Fate/EXTELLA』の公式サイト
➡「アーサー王伝説は円卓に名高い太陽の騎士」とあり、TYPE-MOON Wiki には「固有スキル『聖者の数字』によって、太陽の出ている間は三倍に近い能力を発揮するという特殊体質(正確には、午前9時から正午までの3時間と、午後3時から日没までの3時間)を誇る」 
・『モンスターストライク』の公式辞典
➡「正午までの時間、普段の三倍の強さの力を発揮する」
・4Gamer.net ― 日本最大級の総合ゲーム情報サイト「剣と魔法の博物館
➡「夜明けから正午までは力が増して、最盛期では3倍にもなり、正午を回ると次第に能力は下がっていく

こうみると、作品によって多少違っていることがわかります。「3倍増」「9時から正午」は共通していますが、「正午まで」「午後3時から日没までの3時間」など、その増大期間に関しては設定にバラつきがみられます。もちろん、これらは各作品の独自のアレンジと考えることもできます。

 ただ、このバラつきは中世の作品の中ですでに生じている現象でもあります。『アーサー王の死』以前の作品(『聖杯の物語—第一続編, 13世紀初頭)にも、ガウェインの特殊能力への言及があります。少しみてみると、

・9時を過ぎると、力と凶暴さは2倍へ。その後、1時間が経つごとにさらに力は増していく。
・正午を過ぎると、相手が疲弊する中、ガウェインの力はさらに高まり、倍加最も強かったのは正午から15時の間
・正午が近づくと彼の力は倍加。しかし正午を過ぎると夜中まで徐々に衰え、朝が来ると再び力は上昇。
・真夜中を過ぎると、ガウェインは力と活気を取り戻す。日が進むにつれ強さを増し、正午が来るころには2倍へ。
・正午となるとガウェインの力と活気は常に2倍へ。夕方には衰えたが真夜中を過ぎると次第に増え、ピークに達する正午に向かってどんどん増えてゆく。
The Complete Story of the Grail: Chretien de Troyes' Perceval and Its Continuations, translated by Nigel Bryant (D. S. Brewer. 2015)

これらの記述では基本は2倍、増大の幅は明示されていない場合もあります。また、「正午」は一つのピークではあるものの、それ以降についても低下したり上昇し続けたりと一貫しているわけではありません。また、『アーサー王の死』の直接的な典拠となった英語詩(『スタンザ式アーサー王の死』, 14世紀後半)では、ガウェインの最初の挑戦では「9時から正午」、ただ二度目の挑戦の際には「正午に近づくと力は上昇し始めた」とあり、同一作品内ですら記述が食い違っています。

 日本における興味深い受容は、西洋中世の作品にあるバラつきを踏襲したのでしょうか。たしかに、原典の深堀りによって違いが生じたと考えることもできます。ただ、ここで注目すべきはアーサー王物語の現代の再話です。19世紀以降、マロリーの『アーサー王の死』から数々の縮約版や翻案が作り出されていきました。日本語に翻訳されている書物としては、例えば、ジェイムズ・ノウルズ 著・金原瑞人訳『アーサー王物語』(偕成社 2000年)、シドニー・ラニア著・石井正之助訳『アーサー王と円卓の騎士』(福音館書店 1972年) などがあります。オリジナルの出版年は前者が1860年、後者は1880年です。

 これらの再話の中で、おそらく日本で最も読まれている書物の一つはトマス・ブルフィンチ著・野上弥生子訳『中世騎士物語』(岩波書店)ではないでしょうか。ブルフィンチ原典は1858年、野上訳の初版も1942年と古く、1991年にはワイド版が登場し、今も増刷を続ける人気の一冊です。興味深いことに、ブルフィンチ・野上版ではガウェインの序盤の登場シーンですでに彼の特殊能力への言及がみられます。

統率者なるガウェインといふのは、めづらしい膂力をもつてゐる騎士であつたが、更にめづらしい事は、彼の膂力が一日のうちの或時間のうちだけ特別に強くなることであつた。朝の九時から正午まで、午後三時から夕暮れまでの間、彼の力は倍になつた。いつにしろ普通の人間よりは強いのだが、これらの他の時間は、それ程の事でもないのであつた。(55)

一日のうちの特定の時間だけとありますが、「朝の九時から正午まで、午後三時から夕暮れまでの間」というのは稀な設定のように思います(先ほどみた仏版では一か所だけ〈最も強かったのは正午から15時の間〉とある)。そしてランスロットとの最後の戦いの場面になると次のように説明されます。

ところでガウェインには、一年ぢゆう、どんな日でも朝から午までその力が三倍に強まつて、後は普通の程度になるといふ、天からの贈物があつた。(189)

「ところで」とありますが、いや、序盤に聞きました。また正午を過ぎると「普通」というのも当初と食い違っていて切ない感じもします。ブルフィンチ・野上版におけるこの不整合は先ほどみたような創作の設定にも少なからず影響しているのではないでしょうか。

 さて、少し細かくガウェインの能力上昇案件をみてきましたが、いずれにしてもランスロットとの死闘はガウェインの怪力なしには興ざめに終わってしまったことでしょう。最後に、このアーサー王物語激闘の記録に関する日本の興味深い受容の一例をみてみたいと思います。ブルフィンチの再話は『少年少女世界の名作文学 2(古典編 2)』(阿部知二編, 小学館, 1967年)にも「中世騎士物語」(加藤輝男訳)として収録されています。野上訳と同じく、登場シーンでは「朝の九時から十二時までと、午後三時から六時までの三時間ずつは、力が三倍になる」(399)とありますが、ランスロットとの最後の戦いの際には、「ところでガウェインには、一年じゅうどんな日でも、力が三倍になる時間があることは、前に書いたとおりである」(474)あり、ガウェインの特性がリマインドされています。本書はブルフィンチ・野上版の齟齬を察してか、その後の力の増幅に関しては明言を避け、一貫した記述を心がけているように思います。

 興味深いことに、本書の各章には印象的な挿絵がついています。大注目は口絵です。なんと冒頭イラストを飾るのはガウェインなのです。

『少年少女世界の名作文学 2(古典編 2)』(阿部知二編, 小学館, 1967年)の口絵、伊藤彦造作

アーサー王物語といえば石の剣を引き抜く場面などが典型でしょう。しかし、本書の口絵にはガウェインとランスロットの決闘シーンが採用されています。しかもガウェインが優勢、兜が吹き飛ぶことで彼の鬼気迫る表情が露わに。なんと躍動感あふれるかっこいいイラストでしょうか。また、この場面のキャプションは以下のように書かれています。

「ふたりの弟たちの命を奪い、王アーサーに恥辱を与えたランスロットをおそうガウェインの鋭いやりさき。復讐の炎はもえさかり胸をもこがす。死をかけた壮絶な戦いは続く。」

「恥辱」や「復讐」「死をかけた壮絶な争い」など、本場面は武士道の文脈を連想させます(「王アーサーに恥辱を与えた」という一節は少なくともガウェインの視点からは違和感がありますが)。日本の武士道との接点こそガウェインが巻頭カラーに躍り出た理由ではないでしょうか。口絵を担当した伊藤彦造(1904-2004)は剣豪や武士にちなむ細密なペン画を描き一世を風靡した画家で、先祖は一刀流の開祖として知られる伊藤一刀斎、自身も幼い頃から剣の稽古に励んでいたといいます。西洋の騎士道物語を日本の武士道の世界に引き寄せ、アーサー王物語に馴染みの薄かった読者の理解や関心を促した——この口絵からはそんな想像を膨らませてしまいます。

 日本における騎士像の受容についてはさらなる検討が必要でしょう。いずれにしてもガウェインの超人的力は最強騎士との激闘を演出する魅力的な題材となり、日本でも幅広く用いられています。太陽神の威光はいにしえの英雄を照らし、そして現代のポップカルチャー界を照らしているのです。

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