フィールドでアップデートされる「問い」

2023年7月21日
全体に公開

前回は、マッチングアプリを実際に使ってみました。ここで最初の問いに戻ってみます。

「マッチングアプリでの出会いは、不自然な出会いと言えるだろうか?」

前回まとめた、マッチングアプリでの行動の特徴はこのようなものでした

・「こんにちは」を取り交わすことで終わる事が多い
・いきなり会おうと言わない方が良い
・いい感じでやり取りしていても、突然返事が来なくなる
・あまり押しすぎてもよく無さそう

上記に挙げた特徴は、マッチングアプリでなくても、初対面で人に会う時に同じことが起きているのではないでしょうか?

見知らぬ人とすれ違う時は、互いに興味があったとしても「こんにちは」としか言わないだろうし、友達から紹介された人でもいきなり「二人きりで会おう」と言われれば身構えるでしょう。また、メッセージで行間を読むように、対面でも相手の沈黙・返答を観察し、相手の気持ちを察したりしています

マッチングアプリでも、現実世界でも人と出会ったり、そのさきに行う仲良くなるための手順は同じような気がします。しかしなぜ私たちはマッチングアプリを「不自然」に感じるのでしょうか。

やっている行動も同じで、その手段も変わらない。でも…

もしかすると、マッチングアプリではまさに「マッチング」を求めて人々が集まっており、一人一人が出会いたいと思っている。このことが現実世界との大きな違いかもしれないと気がつきました。

つまり、過度に目的意識が強い場なのです。

現実世界では、皆が皆出会いを求めているわけではありませんし、「パートナー募集中」と名札をつけて歩いているわけではありません。そのため、「相手が何を目的に自分に近づいてきたのかわからない」というスタートで話し始めます。

しかし、マッチングアプリ上では全員が「出会いたい」人です。これまではお見合いパーティや結婚相談所のデータベース上などでしか実現しなかった出会いたい人だけが集積されている場がデジタル上に構築されているのです。

そうなってくると、最初の問いをもう少し更新したくなります。

「目的意識の強い場における出会いと、そうでない日常における出会いの差異は何か」や「出会いという目的を強く意識し合う場はどのように構築されるのか」、「マッチングアプリという手段を得たことによって、人々の出会いに対する意識がどう変化したのか」

などの問いを立てることができます。思考と参与観察(実際にマッチングアプリを使ってみること)によって、一歩深い問いを考えられるようになるのです。

頭の中でただ考えるだけだと、より深い問いに辿り着くことは難しいと思います。そこで、先人たちが考えてきたことを参照したり、実際の現場に足を運び参加してみることで「問いをアップデート」していくことが可能ではないかと思っています。

本連載では、素朴な疑問から、リサーチやフィールドワークによって問いを深めていくプロセスを公開したり、人類学的なアプローチの可能性をみなさんと一緒に考えていきたいと思います。

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