ハーバードが教える「本物のリーダーシップ」とは、他人の真似をやめること

2022年9月12日
全体に公開

学ぶとは真似ることから始まる、とよく言われます。ただ、憧れの誰かに近づこうと必死に真似をしても、ついぞその人と肩を並べたり、自らを誇りに思ったりできません。どうすれば良いのでしょうか?

理想のリーダー像など存在しない

MITスローン経営大学院のAdvanced Leadership Communicationという授業で、この課題に向き合いました。課題図書として指定されたうちの一冊が、HBS(ハーバード・ビジネス・スクール)のBill George(ビル・ジョージ)が書いた「Authentic Leadership」。直訳すると「本物のリーダーシップ」。意訳は「自分らしいリーダーシップ」です。

その書き出しは、思わず引き込まれる文章です。

この半世紀というもの、リーダーシップの研究者は1,000以上の調査研究を実施し、「これが一流のリーダーである」といえるスタイルや特性、資質を探ろうとしてきた。しかし、理想のリーダー像を描き出した研究は一つもない。ありがたいことだ。
Bill George "Authentic Leadership"から

つまり、MBAの主要カリキュラムの一つである「リーダーシップ」の研究において、誰もが真似るべき「これぞリーダー像」というのは、存在しないのだということです。

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誰もジャック・ウェルチにはなれない

NewsPicksの記事を読んだり、本屋でビジネス書を手に取ったり、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」を視聴したりすると、憧れの対象が次々に登場します。

そこで発信される一言を胸に刻み、良い習慣やライフハックをまねたり、場合によっては持ち物や仕事道具まで一緒にしたり。そんな行動をしたことが、ありませんか?

私自身は長らく、尊敬する人生の先輩たちに憧れ、その背中を文字通り「追いかけて」きました。例えば駆け出し記者のころ、調査報道で飛び抜けた記事を書く「特ダネ記者」の先輩の一挙手一投足を真似しました。それで出来たこともありましたが、どうしても到達しなかった領域もありました。いつまでたっても、その人にはなれませんでした。

真似ること自体は「成長したい」という純粋な思いからくる行動で、他人からバカにされるものではないと思います。

一方、誰かの真似をするということは、本来の自分を偽ることです。そして、真似るを通り越して誰かに「なりすまそう」としても無理というもの。

1980年代に著名な実業家ジャック・ウェルチの下で働いたケビン・シュアラーはこう振り返ります。

「当時は、誰もがジャック・ウェルチのようになりたがっていました。ですが、リーダーシップにはいろいろなスタイルがあります。誰もが自分らしさを忘れるべきではなく、他人を真似るべきではありません」
Bill George "Authentic Leadership"から
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「地に足をつける」ための一つの問い

学ぶ姿勢に躍起になるあまり、ほかの誰かになろう・なりすまそうとする姿勢に、いつのまにか陥っていないか……。私はこの論文を読んで、自問自答しました。

大事なのは「自分らしさを貫くリーダーであること」だといいます。

とはいえ、突然に「自分らしく」と放り出されても、戸惑ってしまいます。「それって、いったいどんな状態?」「何をすればいいの?」と。

私なりに「自分らしさを貫く」を日本語で解釈すると、「地に足がついていること」ではないかと思います。

子供の成長と一緒で、地に足をつけるには時間がかかります。

その成長を支えるステップについて、8つのチェック質問が論文では提示されています。

今回はそのうちの一つを紹介したいと思います。

自分の生活態度は一貫しているか。生活のあらゆる場面、たとえば職場、職場以外、家族の前、コミュニティのなかで、いつも同じ人間でいられるか。そうでないとすれば、何が障害となっているか。
Bill George "Authentic Leadership"から
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具体例を私が挙げると、次のようなケースは「一貫していない」と言えるでしょう。

・職場ではキッチリしているのに、家ではいつもダラダラしている

上司にはヘコヘコしているのに、同僚や部下には厳しい言葉ばかり

・友達には親切なのに、タクシーや飲食店の店員さんらにぞんざいな態度

シンプルに「いつも表裏のない人である」とも言い換えられると思います。

「あの人がいつまでたっても遠い存在だ」「なりたい自分になれない」。そう悩んでいるとしたら、立ち止まって、生活態度や立ち振る舞いの一貫性をチェックしてみては、いかがでしょうか。

     ◇

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