アルゼンチン“激震”の波はどこまで?(その4 最終回 )

2023年8月23日
全体に公開

ここまでその1その2その3と書いてきましたが、最終回としてミレイ候補が政権を握ったらどうなるかという点について、大統領予備選直後のアルゼンチンでの報道ぶりや動画から得られた情報で私が「なるほど!」と思った情報をつなぎ合わせてみたいと思います。<賞味期限が早い記事(すぐに過去のものになる)なのでその点お含みおき下さい>

単なるポピュリストか?ドル化以外の経済政策では奇抜なものは見当たらない

市場は中央銀行の廃止とドル化の可能性というミレイ候補の公約に注目していますが、実際のところ、同候補の公約はどのようなものなのでしょう?8月15日付のジェトロ・ブエノスアイレスのビジネス短信には、選挙管理委員会にミレイ率いるLLAが提出した公約がまとめられています。

ドル化と中銀廃止以外の経済・産業政策は、産業界側のスタンスに立脚していた中道右派のマクリ前々政権が実施した経済政策と類似した公約が並んでおり、奇抜なものはありません。ポピュリストと簡単にレッテル貼りをするにはもう少し同候補の公約を細かく分析する必要がありそうです。なぜなら、上記公約においては労働者・消費者サイドにはかなり厳しく、供給サイド(企業側)寄りの経済政策が目立つからです。

ただ中央銀行廃止とドル化の可能性についてどうしても気になります。ミレイ候補は実は経済成長に関しては論文を何本か出している学者でもあり、過去の論文数本をざっと読んだ限りではドル化政策一本槍というより、財政赤字体質とそれを生み出した過去の政治全体への批判に重きを置いている印象です。

ただし、最近の同候補出演の動画などをみていると、エルサルバドルやエクアドルでの経験をふまえ、ドル化する場合、9~24カ月かかると言っていますし、インタビュアーからドル化に際して起こり得る問題についての質問に対し、自分の言葉で具体的に答えているので、単に選挙用向けキャッチフレーズとして使っているわけではないようです。

では実際に実現に中銀廃止・ドル化に踏み切れるのか?

現時点の見方としては、今回の選挙の内容・状況等をふまえると、中銀廃止、ドル化の実現については疑問符がつきます。まず、仮に今回の予備選挙におけるLLAの得票率をそのまま当てはめた場合にどうなるかということです。

来る10月の本選挙では、大統領選挙以外に上院の24議席(72議席中)、下院130議席(257議席中)が改選対象となっています。現地紙AMBITOによると、改選対象の30%(今回のLLAの得票率)をLLAが獲得したとしても上院9議席下院40議席となります(リンク先はスペイン語)。

現時点でLLAの議員は数人しかいません。上記シナリオが実現すれば大躍進であることは間違いないのですが、全体の議席数(上院72議席、下院257議席)からみると、たとえLLAが与党となったとしても、よほど議会工作を巧妙にやらない限り、中銀廃止、ドル化実施の可能性は高くならないのではというのが現時点の見立てです。

地与党連合系政治アナリストの見解を紹介したジェトロ・ブエノスアイレスの8月15日付の別のビジネス短信記事「アルゼンチン大統領予備選、識者は現状への怒りが投票行動に影響との見方」でも、「現与党と最大の野党連合が協力すれば大統領弾劾さえ可能」とのコメントもあり、ドル化についての経済的な議論の前に、まずは選挙後の議会風景がどうなるかを見定める必要がありそうです。

冒頭画像:アルゼンチン大統領府(UnsplashよりDione Film撮影)

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