男女の更年期症状による国内経済損失は、年間3.1兆円!
0.この記事でわかること
・男性特有の健康課題(前立腺がん、更年期症状)による経済損失
・女性特有の健康課題(月経随伴症、更年期症状、婦人科がん)による経済損失
・健康経営を実践するために、どのような対応が企業や従業員に求められているか
経済産業省から発表された女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性についてのレポートから、企業・従業員目線で「男女の健康課題を抱える従業員支援策の必要性」について考えてみた。
1.男性特有の健康課題による経済損失
男性と女性の健康課題は、年齢により異なる。
男性がなりやすい疾患は、20代〜30代にかけて肥満や生活習慣病。40代になるとアルコール性肝障害がんや尿路結石。50代になると心疾患や脳卒中、痛風などである。
最近は、40代以降に男性ホルモン(テストステロン)の減少による「男性の更年期障害」も注目されている。しかし、男性の更年期障害は病態が複雑で、まだ十分に解明されていない部分も多い。
男性で最も多いがんは「前立性がん」であり、前立性がんによる経済損失は年間約600億円と試算されている。
さらに、男性の更年期症状における経済損失は、年間約1.2兆円と試算されており、男性特有の健康課題による経済インパクトが大きい。
【男性特有の健康課題による経済損失(※)】
(※)なんらかの症状があるにも関わらず対策を取っていない層の人数×(欠勤/パフォーマンス低下割合/離職率等)×平均賃金
①前立性がん:年間経済損失 約600億円
(1)うち労働生産性損失総額 約530億円
・欠勤:約110億円
・パフォーマンス低下:約10億円
・離職:約100億円
・休職:約300億円
(2)うち追加採用活動にかかる費用:約50億円
②更年期症状:年間経済損失 約1.2兆円
(1)うち労働生産性損失総額 1.09兆円
・欠勤:約1,100億円
・パフォーマンス低下:約4,000億円
・離職:約5,800億円
・休職:-
(2)うち追加採用活動にかかる費用:約1,100億円
2.女性特有の健康課題による経済損失
女性がなりやすい疾患として、20代〜30代にかけて生理痛やPMS(月経前症候群)・子宮筋腫や子宮内膜症。40代になると更年期障害や婦人科がん。50代になると尿失禁や骨盤臓器脱などがある。
特に女性の更年期症状の時期は、会社では管理職になる年齢と重なるうえ、子育てや親の介護も背負う時期であり、更年期症状による労働損失等の経済損失は年間約1.9兆円となっている。
【女性の更年期症状による経済損失(※)】
(※)なんらかの症状があるにも関わらず対策を取っていない層の人数×(欠勤/パフォーマンス低下割合/離職率等)×平均賃金
年間経済損失 約1.9兆円
(1)うち労働生産性損失総額 約1.72兆円
・欠勤:約1,600億円
・パフォーマンス低下:約5,600億円
・離職:約1兆円
・休職:-
(2)うち追加採用活動にかかる費用:約1,500億円
3.健康経営を実践するために、どのような対応が求められるか
筆者が企業などで講演をする中で、性差を踏まえた健康経営を実践するには3つの課題と解決策があると考えている。
①職場における女性の健康課題の理解不足
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査結果によると、約7割の女性が「健康や体に対する十分な支援がない」と感じている。さらに、周囲に相談したり、理解を求めたりすることが難しい職場環境にある。
女性の健康課題は、男性には理解が難しい部分も多い。また、女性同士であっても個人差があり、話しづらいこともある。しかし、多くの女性は「周りが女性の健康課題について知識があると安心できる」と感じている。
女性の健康課題について、知識がある人は、話題をタブー視せず、理解と共感を示すことができる。そのため、女性が悩みを打ち明けやすくなり、安心感を得られることで、孤独感や疎外感を解消できるのではないだろうか。
②知識啓発が不十分
生理痛や更年期は「病気ではないため、病院にいかない」傾向があり、知識啓発が重要である。
東京都が実施した企業担当者200人へのアンケート結果によると、3割が「何をすればよいかわからない」、2割が「当事者である従業員と話しができない」と答えている。
しかし、一部の企業では、すでに性差に基づく健康課題に配慮した取組が実践されて効果が出ている。
例えば、脱毛サロンのミュゼプラチナムが実施した女性活躍・健康経営プロジェクトでは、リテラシー向上のための社員教育や医療受診勧奨などを実施した結果、生理痛有症者の仕事への支障が12.3%減り、欠勤率も7.5%改善している。
役立つ情報にリーチし、対策がある場合は前向きにトライできるような風土づくりが必要である。
③当事者自身のヘルスリテラシー
ヘルスリテラシーとは、個人が健康を促進・維持するため必要な情報にアクセスし、理解・活用する能力のことである。
日本医療政策機構の調査によると、ヘルスリテラシーの高い人の方が、生理痛や更年期障害時における仕事のパフォーマンスが高い傾向にある。
つまり、ヘルスリテラシーを向上させる取り組みの支援や、自分自身の身体に関する知識を身につけることで、仕事のパフォーマンスも上がる。
まずは男女とも自分自身が知識を身につけることが重要であり、周囲にも理解と共感を持ってもらうよう働きかけることが必要である。
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トップ画像および文中画像:GettyImages
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