売るためだけじゃつまらない!過去の秀作に学ぶ「商品プロモーション」のクリエイティビティ
AppleのiPad ProのCMが炎上した。楽器演奏や絵画を嗜む人々を傷付けてしまった上に、2008年のLGのスマホのCM表現のパクリ疑惑まで浮上している。スティーブ・ジョブズ氏は、自らiPodを世に送りながら自身は「蓄音機」で音楽を聴いていたという逸話を何かで読んだか聞いたかした記憶がある。このCMを観てそのことを思い出してしまった。
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Appleの広告は、ストーリー仕立ての表現で商品特性を伝達するのが特徴だ。製品や店舗のデザイン同様にコミュニケーションにもアーティスティックな感性を貫いており、広告においてもそれがブランドの目印になっている。昨年公開され好評だったiOS16のメッセージ送信取り消し機能を紹介する「Relax, It’s iPhone - R.I.P Leon」もその一つ。世界3大広告賞の一つであるカンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバルの昨年のFilm部門のグランプリに輝いている。(爬虫類が苦手な人は閲覧注意!)
ペットのトカゲが死んでいると思い悲しみのメッセージを友人に送るがその直後にトカゲが動き出し慌てて送信を取り消すというユーモラスな動画。
CMのクリエイティビティでライバルに宣戦布告
iPad ProのCMの一件で、同社が1984年に放映したCMも引き合いに出されている。
全体主義国家の恐怖政治を描いたジョージ・オーウェルの1949年のSF小説「1984」をモチーフに映画ブレードランナーで著名な名匠リドリー・スコット監督が手掛けた映像作品。それまでコンピューター産業を支配してきたIBMを独裁者に喩え、AppleがMacintoshを以ってパーソナルコンピューターの時代の幕を開けるという内容で、当時まだチャレンジャーだったAppleの意気込みやジョブズの反骨精神が窺える。今だと物議を醸す恐れがあるが、今もなお優れたCMとして高く評価されている。
それから36年経った2020年にはApp Storeの手数料騒動で、FORTNITEのEpic Gamesがパロディ動画「Nineteen Eighty-Fortnite」を制作して対抗。
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↑ 1984年のAppleのオリジナル映像。
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↑ 2020年のEpic Gamesのパロディ動画。登場人物もFORTNITE風にアレンジするという手の込みよう。
裁判で訴えは認められなかったが、そんな状況でもクリエイティブ精神旺盛でいられるのは心に余裕があって良いなと感心した。
広告過多で食傷気味な今、人を楽しませる表現が必要!?
近年は、広告で運用費を賄うサービスが増えていることもあり、広告を見る時間が増えた。テレビで流れるCMは人気タレントを起用したものが多く、ネットでは怪しげな広告も紛れ込んでいるのでついつい観ずに飛ばしてしまう(トイレに行ったりもする)。
広告の本来の目的は、商品を知ってもらい買う気になってもらうことである。そのためクリエイティビティよりも即効性が優先されるのも無理はない。だが、見る側もやや食傷気味の今、広告自体が「ユーザーを楽しませるもの」であっても良いのではないかと考える。
そこで、懐かしいものも含む過去の秀作事例を厳選してみた。それらを①商品特性の伝達、②購買促進、③お試し体験の3つの目的別にここにご紹介したい。
①【比喩表現】商品を出さずに商品特性を伝達
商品の宣伝は商品を見せて行うのが当たり前とされる中、敢えて出さずに価値訴求するケースもある。ブランドの知名度がないとなかなかできない技ではあるが、見る人の注意を引き心に留めるのに効果的だったりする。受け手側に考えさせる余地も与え、ユーザーエンゲージメントを高める可能性もあると考える。
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フォルクスワーゲンが2012年にドイツで展開したポスター。「駐車アシスト機能」の正確さを商品の自動車を出さずに表現している。同社の広告はこうしたひねりを利かせた比喩表現が多く見ていて楽しくなる。日本では見掛けられなくて残念。
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こちらは2008年にブラジルで展開された「貨物トラック」のポスター。卵などの取り扱い注意な荷物の輸送性能を車に見立てた卵のパックで訴求。
Volkswagenは1959年に発表した広告「Lemon」以来、広告表現のクリエイティビティに定評がある。
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広告業の方々には言わずと知れた名作。「欠陥品」の意味もある ”Lemon” のワードを商品の上に大きく挿入し、下の文章は「このVolkswagenは船積みされませんでした」で始まる。出荷時に小さな欠陥も見逃さない品質管理の厳格さを示していた。(その半世紀後に不正問題が生じてしまうのだが…)
多くを語らずほのめかすように伝えたいことを示す表現は、Appleの広告にも見られる。
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最大の個人情報である顔をiPhoneで隠した写真で「データプライバシー」をアピール(2023年)。
フォルクスワーゲンに話を戻すと、2019年に生産終了となり81年の歴史に幕を下ろした「ビートル」のお別れ動画も秀逸だった。
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後ろ姿が小さくなりカブトムシになった羽ばたく終わり方がエモく、わたしも思わずSNSでシェアしてしまった。
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②【コラボPR】関連性の高い商品を媒体に購買促進
タッグを組むことで互いに利益を得られる異なる商材、或いは異業種のプロモーション企画がある。「コラボPR」だ。話題喚起を狙ったケースが多い印象だが、「購買促進」を目的とした好事例がある。
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調理に必要な具材で購入を誘導した日清食品チキンラーメンの「卵広告」(2007年に東京都内のダイエーで展開)。これを見てチキンラーメンを買わずにいられる人がいるだろうか!?と思ってしまう訴求力だ。消費者心理を巧みに捉えたアイデアである。
これほど強力な発想ではなくともコラボPR自体はよく行われており、商品を通した体験提供もされている。2022年にオレオがマイクロソフトと手を組み行った、仕事中の15分間のもぐもぐタイムを奨励するキャンペーンも遊び心があった。
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参加者にはオレオのクッキーが届けられる。所定の日時になるとMicrosoft Teamsのカレンダーがジャックされ、オフィスで自由奔放に動き回る犬たちの動画と共に休憩時間が始まる。
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クッキーをミルクに浸すための小型トング(クリップを象った90年代のOfficeアシスタントClippyのイラスト入り)も親切に同梱されている。
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キャンペーンに参加していない人へのアピールも怠らず、Microsoft Teamsで使えるオリジナル絵文字も提供。マイクロソフトOfficeの宣伝になるのか微妙なところだが、オフィスでの休憩の重要性を楽しく訴えることで企業姿勢をアピールできたのではないかと考える。
オレオは他にもユーザーを楽しませる多数のプロモーションを行っており、やや古い情報で恐縮だが2017年にGoogleが発表したZ世代がクールに感じるものの調査ではブランド部門でYoutube,Netflix、Google、Xboxに次ぐ5位にランキングされていた。
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③【試供品】実際に使って商品の良さを実感する機会を創出
サンプル配布や店頭での見本陳列で現物を試してもらうことも購買につなげる重要な活動だ。消費者にとっても自分が気に入るかどうか購入前に確認できるのでメリットがある。
ユニリーバの洗剤ブランドBreezeは、2008年にタイでちょっと手の込んだ面白いサンプル提供を行った。
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洗剤の試供品を梱包した箱を白いTシャツで包んで発送。受取人に届くまでに汚れるので試しにこれで洗ってみてくださいというメッセージが込められている。先の卵広告同様に、ユーザーの行為を先読みしたデザインである。懸賞キャンペーンもこのように売りたい商品と関係性のある商材を選ぶと良いのかもしれない。
家電や家具などの耐久消費財となると、消費者に店まで来てもらわなくてはいけない。最近はリースやサブスクサービスでの体験も可能になったがそれもやはり利用者が限定される。
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イケアは2010年にパリの地下鉄のホームをショールーム化する大胆なプロモーションを実施し話題になった。不特定多数の人々の目に触れる場所に商品を置き、半強制的に使わせるという画期的なアイデア。電車の待ち時間もうまく活用している。硬いベンチよりもソファの方が快適なので利用者も嬉しいだろう。
最近の例だと資生堂のナチュラル化粧品ブランドBAUMの「試香紙」のデザインが優れていると感じた。
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店頭で香りを試した後に持ち帰ってクローゼットに掛け「ペーパーフレグランス」として二次利用できるように設計されている。廃棄物削減にもつながることは、樹木との共生をコンセプトとするブランドのイメージアップにもなり得る。
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SNS時代の今は「情報共有したくなること」も大切!
広告過多の今、人々の関心を引き心を掴むには「楽しませること」が大切なのではないかと考え、過去事例を引っ張り出してみた。
現実に、広告の仕事はどれだけ売上に貢献したかの効果が要求されるので、制作者が面白いアイデアを閃いてもそれが実現に至らないことも多いだろう。だが、消費者の観点から広告自体も見て話題にして楽しめるものであったら良いなと思う。
プロモーション戦略で活用される「AIDMA法則」(注意・興味・欲求・記憶・行動)という消費行動モデル(1920年代に米サミュエル・ローランド・ホール氏が提唱)がある。広告の舞台がインターネットに広がったことで2004年には「AISAS法則」(注意・興味・検索・行動・共有)も加わった。その発案者である電通は昨年、スマホで完結する衝動買いのプロセスを示す「SEAMS」法則(回遊・遭遇・受容・高揚・共有)も提唱している。最後にある「共有」はSNS時代の今、マストな消費行動であり、それには広告の娯楽価値も重要な鍵を握るのではないかと考える。
マーケティングでは一般ユーザーが生成するコンテンツを意味する「UGC(User Generated Contents)」が重要視されている。ネット上での商品レビュー投稿などがそれに当たり、ユーザー自身が商品情報の発信源となり拡散してくれることが期待される。彼らが思わず他者に知らせたくなるにはやはり「面白さや感動」が欠かせないのではないか。「コンテンツ」としての広告。数多ある広告の中で埋もれないためにもそれが必要に感じる。
《脚注》
*¹ 電通Do!Solutions「AISASからSEAMSへ!『情報回遊』時代のマーケティングとは」2023.6.19
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。(o^∇^)ノ
(トップ画像は、筆者が描いた絵に「てがきですのβ」の背景を組み合わせて作成いたしました)
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