【全仕事人が共感?!ダイバースな組織をまとめるカギとは】起業家 樋口亜希✖️経済キャスター 瀧口友里奈 対談②

2022年6月29日
全体に公開

ダイバーシティ豊富な環境で育ち20代半ばで起業し、バイリンガル家庭教師「お迎えシスター」を展開する樋口亜希さんと、経済キャスター 瀧口友里奈の対談。20代からの友人である二人のリアルなトーク。その第2部をお届けします。

ダイバースな組織に「普通」「常識」は通用しない

樋口亜希(以下、亜希):ダイバーシティは、うちの会社(株式会社Selan)の経営上外せない重要なキーワードの1つ。残念ながら日本では女性のキャリアの選択肢は少ないし、子どもの教育環境の選択肢も少ない。その両方を応援したいというのが、うちの会社の方針。

瀧口:Selanは、スタッフのバックグラウンドが実にさまざまだよね。

亜希:そうなの。チームのメンバーは今10人ぐらいだけど、世代でいうと、23歳から63歳まで幅広い。基本的に、日本以外の国に住んでいた経験のある人たちばかりで、「普通は」とか「常識的には」という言葉は社内では禁句。常識は、国ごとに違うから。

瀧口:なるほど、そうだよね。となると経営者としては、それだけダイバーシティに富んだ組織を束ねるのにきっとたくさんの苦労があったと思うけど、何を重視して組織運営をしてきたのかな?

亜希:まずは、会社が掲げるビジョンに皆が共感しているかどうかが重要だと思っているよ。事業は変わる可能性があるし、もしかしたらなくなるかもしれない。最終的に残るのは、ビジョンと人。そのときに、皆がビジョンを共有できているかどうかが、チームの存続を左右すると思っている。

これは自分自身の経験から学んだことなの。会社をつくって1年目。事業は順調だったけど、2016年に経済誌で「お迎えシスター」が紹介された後、一度チームが崩壊しかけたことがあった。というのは、当時のオペレーションのキャパを超えるとてもたくさんの反響をいただいてしまって。私自身、これをどうやって回すかということにしか頭が働かなくて、チームの運営とか、メンバー個々人の心境にまで思いが至らなかった。それでチームがうまくいかなくなってしまった。これを教訓に、事業を大きくしたり業績を伸ばすことよりも、どれだけチームがハッピーでいられるかを最優先に考えるようになりました。

楽しくないことも楽しむための「タノコイン」

亜希:全員でビジョンを共有するといっても、いきなりそこに到達するのは簡単なことではないので、それを達成するためのステップとして、3年ぐらい前に3つのバリューをつくりました。その1つが「タノ」。「楽しい」の「タノ」(笑)。これを実際の施策に落とし込んだのが、「タノコイン」。

瀧口:どんな施策なのかな?

亜希:私はとにかく、チームの1人1人に「仕事が楽しい」と思ってもらうことが一番大事だと思っているの。でも実際、全部の仕事やタスクが楽しいわけではない。私自身の実感でいうと、8割のタスクは楽しくない。楽しくてやりがいが感じられるのは2割程度です。だから別の角度からやりがいを感じられるようにしようと思ったの。

「楽しい」というのはどういうことか――。うちの会社の「楽しい」の定義というのがあります。楽しくない8割のタスクも、心の持ち方によって楽しくできる。そのためのチャレンジをしている人に、「ありがとう」という言葉とともに「タノコイン」を贈るの。毎週1回、全員が誰かにコインを渡す。そして一定数のコインが貯まったら現金に換算して付与するという仕組み。誰がどれだけコインを獲得しているかは、いつでも全員が見られるようになっている。

瀧口:ゲーミフィケーションを取り入れているんだね。

亜希:そう。これを始めて一番良かったのは、コロナ禍に入ってお互いが何をやっているかが見えにくくなっている中、自分が頑張っていることがほかの人によって可視化されるということ。頑張りを誰かが認めてくれたら、やりがいを感じられると思うの。

瀧口:360度評価をライトにしたものというイメージ?

亜希:そう、ウイークリーでライトに。しかもネガティブなことは言わない。

この施策のもう1つの効果は、チーム内の関係性が構築できること。「この人は自分をこう見てくれていたのか」と知ることで、チームビルディングにつながる。直属の上司やいつもそばで働いている同僚など、評価者が固定化されているとその人の限られた側面しか評価されなくなっていく。1人の人を誰からも見えるようにすることで、その人の全貌が見えるようになる。そのことに大きな意味があると考えています。

プロフェッショナルな仕事の成果は、その人のわずかな側面でしかない。プライベートとプロフェッショナルの境い目や、完全なプライベートの部分をちょっと引き出すことで、プロフェッショナルな部分の成果も上がると考えているよ。

3つのバリューを共有することでチームの結束力が向上

瀧口:「タノ」以外の2つはどんなバリューなのかな?

亜希:2つ目が「カゼ」。自分自身が楽しむことにとどまらず、チームや周りの人たちに自分の風、つまり影響力を届けるということ。3つ目は「ゼロ」。スターティングポイントに戻ろうということ。この意味合いには2つあって、1つは忙しくなって、タスクが複雑化してくると目的を見失いがちになるので、初心に戻ろうということ。もう1つは知識を蓄えていくとモノの見方にバイアスがかかってくるから、そのバイアスをゼロに戻そうということ。

瀧口:なるほど。とても大切なことだね。

亜希:「ゼロ」のバリューからできた「ゼロ会」という施策があって、これは週に1回、1人7分の時間を使って、自分が最近ハマっていることやシェアしたいことを皆の前で話すというもの。それぞれが自由に、たとえば自分の一番の推しを紹介してくれたり、興味があって調べていることについて詳しく説明してくれたりする。それを聞いて皆の知識も増えるし、その人の関心事を知ることで会話の糸口がつかめる。チームのリレーションシップが強まって結束力が高まるという効果もあるし、それぞれの多様な視点を共有することで、みんながフラットな視点=「ゼロ」を持てるようにすることが目的なの。

樋口亜希さんは北京大学の卒業生。人生の転機になったという当時の経験とは?(③に続く)

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