「完全自動運転は無理かも」、コンピュータ学会ACMが警告

2024年4月23日
全体に公開

コンピュータ関連分野の権威ある学会であるACM(Association for Computing Machinery)は、「安全な完全自動運転は決して実現しない可能性がある」と警告する文書を公表した。今の完全自動運転は人間のドライバーより安全とはいえない。将来、人間よりも安全にできるかどうかも不確実だ。現状のデータも技術もまったく不完全である。完全自動運転車を推進するメーカー関係者らの楽観的な発言に冷水を浴びせた格好だ。

出典: ACM TechBrief: Automated Vehicles Winter 2024

自動運転車を推進するメーカーは「完全自動運転の普及により事故を減らせる」と主張しているが、ACMはこの主張を裏付けるデータはないと警告する。実際に自動運転技術に由来する死傷事故は多数起きている(記事末尾に関連記事)。

自動運転技術は実に過去99年間にわたり研究されてきた。現在、米国では37社が自動運転技術のテストを行っている。米国で完全自動運転車の公道テストが始まってからまだ6年半。ヨーロッパでの公道テスト開始から2年。

従来の自動車と完全自動運転車の安全性を正確に比較、評価するには110億マイルのテスト走行が必要と推定される。一方で、2023年に米国で実施された完全自動運転車のテスト走行距離は2000万マイルにすぎない。

人間が運転する従来型の自動車の死亡事故率は、米国では1億走行マイルごとに1件程度と小さい数字である。しかも、この数字は飲酒運転やわき見運転も含む。

対して自動運転車の事故はすでに多数発生しており、死亡事故も起きている。「路肩に停車するまでの間に接触した被害者を6メートルにわたり引きずり重傷を負わせる」という人間では考えられない事故も起こしている。今のところ、AIは人間のドライバーに遠く及ばない。

現時点では、規制当局は、完全自動運転車は交通事故死傷者数を必ずしも減らさない可能性があると考えるべきである、とACMの文書は警告している。

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写真:未来の完全自動運転車のイメージ。2017年7月18日、Yanfeng Automotive Interiorsの可変インテリアのデモンストレーションより。(Photo By Paul Chinn/The San Francisco Chronicle via Getty Images)

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