目で見て幸せになる、「質感が美味しそうな」プロダクトのデザイン

2024年1月25日
全体に公開

イタリアの高級ファッションブランド・フェンディの「おにぎりバッグ」がバズっている。米の部分はラムスキン、海苔は蛇革というラグジュアリーな一品である。(173,800円!)

出典:https://www.fendi.com/jp-ja/

フェンディの2023-2024年コレクションのモデルを務めるSnowManの目黒蓮さんが、インスタに投稿した写真で身に着けていたことで話題になった。

出典:https://www.instagram.com/p/C007J2zLfuN/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==

17万円も出してこのバッグを買うかどうかはさておき、デザイナーがおにぎりの形に魅せられる気持ちはよくわかる。自分もおにぎりを見るとほっこりとした気持ちになる。本物に限らず絵文字であってもそうだ。

出典:https://www.instagram.com/p/CfHo3umt25R/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==

おにぎりバッグをデザインしたイタリア人デザイナー、ステファノ・ピラーティ氏。欧州の数々の一流ファションブランドを渡り歩く経験豊かなデザイナー。

「視覚的な美味しさ」の幸福感

美味しそうな食べ物をモチーフにした造形物は、人をワクワクさせる。本物と見分けがつかない出来映えの合羽橋の食品サンプルも同様。見るとテンションが上がってしまう。

出典:https://www.ganso-sample.com/

マカロンなどのスイーツをモチーフにしたアクセサリーブランド「Q-pot.も2002年の創業以降、安定した人気を誇っている。

食品サンプルに負けず劣らず精巧で美味しそうな紫いもと和栗のモンブランのチャームや、

出典:https://shop.q-pot.jp/c/gr41/gr47/3815294PPL

このクリームどら焼きチャームも再現性が高く、思わず齧りたくなる。

出典:https://www.q-pot.jp/news/2020/08/1299.html

逆に食べられない鉱物の美しさを再現したスイーツもある。福岡県のフードクリエイター集団「ハラペコラボ」が創作する「鉱物菓子」は、レシピ本も販売されており大変人気がある。琥珀糖などが材料に使われているようだ。

出典:https://x.com/harapecolab/status/1402910256083075072?s=20 https://harapecolab.com/

こちらはQ-pot.とは逆のパターンで食べられるが、視覚的に美味しそうに見える点でどちらも「幸福感」がある。

美味しそうな食べ物は、見るだけでも幸せな気分になる。

テレビも最近は食べ物を扱う番組が大半を占めるようになった。先日、NHK Eテレのお菓子番組「グレーテルのかまど」に出演されていた指揮者の佐渡裕氏が「甘いものは人を幸せにする、自分の音楽もそうでありたい」と語っていた。

確かにそうだ。

甘いものには人を幸せにする力がある。

科学的な根拠もあるようだ。甘いものを食べると脳内神経伝達物質の「セロトニン」(幸せホルモン)が分泌されるらしい*¹。

これまでわたしは、「雑談」や「かわいいもの好き」、「感謝の気持ちを伝えること」のウェルビーイング効果について記事を書いてきたが、いずれも4大幸せホルモンのうちの「オキシトシン」(愛情ホルモン)を増加させる行為であった。

セロトニンは、気持ちを落ち着かせる効果がある物質。朝日を浴びることでも分泌され、負の感情を抑制するようだ。ストレス解消に甘いものが欲しくなるのが頷ける。

甘いものにはドーパミンやエンドルフィン(脳内モルヒネとも称される)といった快楽ホルモンの濃度を高める作用もあるため、やみつきになる危険性もあり摂り過ぎは要注意だ。その代わりにと言っては何だが、目で味わうことでセロトニンを分泌させてはどうか。そこで今回は、ゆる~い感じで幸せな気分にさせる『美味しそうなプロダクトデザイン」を採り上げてみようと考えた。

目次
・水菓子のような家具
・タブレットキャンディのような時計
・ワッフルに見立てた靴

水菓子のような家具

出典:https://leibal.com/furniture/diskoi/

ギリシャとニューヨークを拠点とするデザイン会社Objects Of Common Interestが2023年に展示会用に制作した家具「Diskoi」は、とろりとした飴のようなデザイン。日本人の目で見ると、わらび餅を思い出してしまう。まさに美味しそうな質感である。素材はアクリル樹脂で、型取りした後に手作業で磨いて表面にゆらぎのある丸みを帯びた形状にしている。近年は、コンピュータ制御により緻密で正確な切断が容易になったが、その対極にある工芸的に豊かな表情を出したかったようだ。

出典:https://www.instagram.com/objects_of_common_interest/

わらび餅のような半透明のものに対し、茶色い方は羊羹に見える。(右は型取り直後の状態)

出典:https://objectsofcommoninterest.com/ https://www.instagram.com/objects_of_common_interest/

2022年の作品Metamorphic Rock(右の画像)は、まるでこんにゃくゼリー

出典:https://www.gentlemonster.com/jp/shop/search?term=jelly

BLACKPINKのメンバーらが愛用し若い世代に支持される韓国のサングラスブランドGENTLE MONSTERの最新作(2024年)「GENTLE JELLY」のコレクションは、グミ風。アイウェアなので素材はアセテート樹脂と推測する。グミのような質感に仕上げたフレームにフレーク状の樹脂で加飾し砂糖をまぶしたように見せるという徹底ぶり。韓国のポップカルチャーは硬質なプロダクトにも及んでいる。

タブレットキャンディのような時計

出典:https://www.swatch.com/ja-jp/bioceramic-moonswatch.html

カジュアルウォッチブランドのSWATCHが2022年に発売した「Bioceramic Moonswatch」は、オメガとの共作であるのにも関わらず33,550円と破格の安さだったため、発売直後に入手困難になる人気ぶりだった。この腕時計のケースに使われた「バイオセラミック」は、セラミック70%、ヒマシ油由来のバイオ樹脂30%の比率で配合されたSWATCHオリジナルの新素材。セラミックが多く配合されているため陶器のザラッとしたマットな質感になっていて、タブレットキャンディーを彷彿とさせる。

出典:https://www.swatch.com/ja-jp/bioceramic-moonswatch.html

ベージュのJupiterモデルはカフェオレ風。タブレットキャンディーの質感も心地よいと感じる人が多いのではないだろうか。

出典:https://www.swatch.com/ja-jp/bioceramic-scuba-fifty-fathoms.html

2023年にはオメガと同じくスウォッチグループのブランドであるBlancpain(ブランパン)とのコラボモデル「Bioceramic ScubaFifty Fathoms」を発売。こちらにもバイオセラミックが使用されている。(60,500円)

ワッフルに見立てた靴

出典:https://www.fullress.com/clarks-sweet-chick-wafflebee-collection/

1825年創業の英国の老舗シューズメーカーClarksが2021年に発売したモカシンスタイルのデザートブーツ。同社の人気定番商品であるWallabeeのアッパーを「ワッフル」のように加工したデザインである。米国のラッパーNAS(ナズ)が共同オーナーを務めるワッフルとフライドチキンの店舗Sweet Chickとのコラボ商品で、ワッフルの凹凸のある模様を起毛スエードの型押しで再現している。甲の部分のヴァンプは、Sweet Chickの名物であるフレーバーバターを模したデザインにしているそう。それは言われないと見た目にわからないが、ワッフルパターンの質感は純粋におしゃれであり食欲も掻き立てる。

出典:https://www.facebook.com/SweetChickLife/photos_by

↑コラボ先のSweet Chickのワッフルとクリスピーチキン。健康診断の絶食後に食べたいボリューム感。

出典:https://www.billboard.com/music/music-news/nas-chicken-waffles-sweet-chick-expansion-6598332/

シズル感|プロダクトの質感表現による幸福価値の提供

「シズル感」という写真用語がある。広告やパッケージの写真で料理や飲食品を美味しそうに見せることの度合いを指す言葉だ。このシズル感、近年は食品に限らず調理家電の商品訴求にも重要視されており、その中でもバルミューダは特にそれを上手く活用している。

出典:https://www.balmuda.com/jp/plate-pro/

そのシズル感が人々に与える幸福感は、プロダクトの「質感表現」でも実現し得るのではないかと考え事例を挙げてみた。

最近はデザインが少し理屈っぽくなっている印象があるが、そうした直感的なものもあって良いのではないかと思っている。何だか見ていると癒される、気分が上がる、そういうデザインもウェルビーイングデザインと言えるのではないか。今回は幸せに直結する食べること、美味しそうに感じることに着目し、一つ仮説を立ててみた。楽しんでいただけたら嬉しい。

《脚注》
参考文献:独立行政法人 農畜産業振興機構「甘いおやつの効用」2010.7

最後までお読みいただき、ありがとうございました。(o^∇^)ノ
(トップ画像は、「てがきですのβ」のイラストを組み合わせて作成いたしました)        

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