生活とビジネスの要所、海上輸送の鍵となる気候テック
シンガポールで朝ランニングに海に出ると、キレイだなぁと海を眺める一方、視界に入ってくる船の数々。それはものすごい数です。これを見るたびに、この船に我々の使っているモノ、食べモノ、乗りモノ、燃料などなど数え切れない必需品、嗜好品が積まれていて、それによって生活が支えられているのだなぁと実感します。きっと日本も同じだと思います。ものづくりの国ですが、原材料は輸入に頼っていることも多いのではないでしょうか。
海上輸送の占める排出量は、世界全体の2% です。しかしながら、この排出量を減らす技術はすぐには登場しません。
図1:海上輸送からの排出量とネットゼロシナリオでの2030年目標値
船での貿易量は削減の見通しはあまり立てられません。皆さんの生活に支障が出てしまいますよね。なので、このままの貿易量を保つ、もしくは増やしていく中で、排出量を減らしていくことが大事です。
多くのエネルギーは大型の船によって消費されていることが下のグラフからわかります。
図2:国際輸送におけるエネルギー消費量の内訳
さぁ、どうやってその大型船から排出量を減らすか、ということですが、乗り物系みんな共通なのですが、1️⃣乗り物、2️⃣燃料、3️⃣効率性が鍵です。
1.短期中期のソリューション
1️⃣乗り物、2️⃣燃料そのままで、3️⃣効率性を上げることが有力です。例えば、燃費向上とか、船のルートを効率的にするとかが挙げられます。自動車ともよく似ています。ガソリン車よりも燃費の良い車🚗、商業車🚚であれば配達ルートを効率化するなどです。
船の最もやっかいだと言われているところは、デジタル化が進んでいないことのようです。まだまだ紙📃でやり取りがされている現状があるようです。
そのため、例えば、港湾地区ごとに、燃費の悪い船に対する規制をかけようとも、そもそもその燃料使用量などが紙でやりとりされているので、正確性が低いと言われています。
このデジタル化を進めたり、正確に燃料消費量を把握することのソリューションを提供するスタートアップもたくさん出てきています。
その他の効率性向上のためのソリューションは諸々ありますので、下記の図や、興味ある方はこちらのレポート読んでみてください(34ページから35ページ)。
図3:設計、運用、経済的なソリューション
2.大本命の中長期ソリューション
2️⃣燃料を変える、そしてそのために1️⃣乗り物をその燃料対応にする、という大本命です!
そもそも現在の船の燃料はどうなっているかというと、下の図をご覧ください。
図4:海上輸送に使われる燃料別消費量
ほぼほぼ燃料油です。国際海事機関(IMO)が2020年に出した硫黄化合物に関する規制で、現在は港湾地域の硫黄化合物排出量は70%以上削減されたと言われています。これによって、硫黄化合物をカットするフィルターを設置したり、硫黄化合物の混合量がとても低い燃料油やLNGに切り替えが進みました。しかし、図1で見たように、二酸化炭素の量は減りませんでした。
ちなみに、IMOの規制は絶対で、次の規制は何でいつくるのか、この業界の誰もが気にしています。その中、今年7月に発表された、2050年ネットゼロ目標でした。2030年までに2008年比最低2割、最高3割削減、2040年までに2008年比7割から8割削減という大きな目標値が出されました。
新しい燃料は大きく分けて以下の3つとなります。
①バイオ燃料、②メタノール、③アンモニア
ごく端的にまとめると、以下の通りです。
①バイオ燃料:廃棄物などから作るので、原料供給が限られており、スケールするには問題がありますが、今できる最も有効なソリューション。対応する船も商業運転しています。
②メタノール:メタノールにはいろんな種類がありますが、以下の表がよくまとめられているます。低カーボンのバイオマスや再生可能エネルギーが原料、もしくは天然ガス由来でも二酸化炭素回収貯蔵(CCS)をして低炭素化したものが有力です。バイオマス以外は一度水素にしてからメタノールを作るので、水素がとても重要です。燃料も動かす船も2030年前に商業運転可能と見積もられてます。
図5:メタノールの製造方法
③アンモニア:アンモニアの製造方法についてはこちらの私の投稿をご覧ください。こちらも水素と窒素が鍵です。
燃料としてのアンモニアは2030年以降に商業化が、それに対応した船も2035年までには対応することがIMOの調査にて予想されております。
メタノールもアンモニアも現在の低硫黄燃料やLNGに比べてコストは高いので、これを安く大量に作ることが重要視されています。どちらも水素が原料の一つとなっているので、水素が安く大量に作られることが、海上輸送のカーボンフリー燃料の大きなポイントです。
3.インフラ
燃料や船ができても、その燃料を供給する港がそれに対応できてなくてはいけません。下の図は船舶用のアンモニアが扱える設備がある港の位置を示しています。これらの港の近くで燃料製造ができれば最も効率が良く、再生可能エネルギーが大量に安く発電できて、つまり水素が安く製造できて、船の要所でもあるモロッコが注目を浴びています。一方、安価な再生可能エネルギーを提供できる拠点であるオーストラリアやチリなどは、これらの燃料を輸出していく拠点になるべく、投資も集まっています。
図6:船舶用アンモニアの港のインフラ
燃料以外では、港自体のカーボンニュートラルを目指すべく、港の設備を電化する動きが出てきています。中で動くクレーンや車両などの電力供給のため、クリーンな電気が必要とされています。
4.船の所有者の役割
Amazon社は膨大な量の荷物をコンテナ船で動かしていることになります。そのAmazon社が立ち上げたのが、Cargo Owners for Zero Emission Vesselsというイニシアチブです。
上記のようなゼロエミッションの燃料や船が欲しいという需要家としての声を出していく、というのが大きなミッションのようです。
こうした需要家の働きで、Maersk社はAmazon社から2023−2024年のメタノールを燃料として20,000 40-foot equivalent (FFE) という量の荷物を運ぶ案件の受注をしたと発表されました。
5.まとめ
海上輸送のバリューチェーンは非常に大きいですが、イノベーションが必要とされる部分も非常に多く、裾野が広がっている印象です。効率性を向上するフェーズではすでに多くのスタートアップが出ており、燃料分野ではこれからも大きなイノベーションが期待されます。港湾での電化や充電設備周りでも動きがすでに出てきています。
このイノベーションと脱炭素化を進める鍵は、需要家にあると個人的には思っています。経営者や経営に関わる方々は、自社の調達するものがどのような船でどのような燃料を使って運ばれているか、気になってきたのではないでしょうか。個人としてはなかなか動き難いですが、4でご紹介したAmazonと共にPatagoniaも同様のイニシアチブに加わっています。消費者としてもこのあたりの見える化が進んで、選択肢が増えるといいですね。
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