【合成生物学ナビ】生きた細菌を使う治療

2023年10月12日
全体に公開

ヨーグルトを食べてお腹の調子を整える。これは多くの人がやっていることだと思います。

合成生物学で作ったバクテリアを体に取り入れたり、バクテリオファージを使ってマイクロバイオームを操作することで、疾患を治療するという試みは、合成生物学の主流ともなっているアプローチとなっています。このトピックでも、たびたびこういった話題がでてきています。

【合成生物学ナビ】では、合成生物学についての基本的な話題を取り上げています。

新着のNature Review Bioengineeringに、合成生物学とナノメディシンを含めたバクテリアを使った治療についての総説がでています。

Hahn, J. et al. (2023) Bacterial therapies at the interface of synthetic biology and nanomedicine. Nat Rev Bioeng https://doi.org/10.1038/s44222-023-00119-4

細菌は、様々な疾患を治療するための生きた薬として台頭してきている。しかし、このような複製や免疫賦活療法が本来持つ利点は、毒性の可能性もはらんでいる。合成生物学とナノメディシンの統合の進歩は、安全性と有効性を向上させるために空間的・時間的活性化を制御する制御可能なシステムの工学化を通して、この課題に対処することができる。ここでは、ナノバイオテクノロジーを駆使したバクテリアベースの治療法の最近の進歩について概説し、臨床応用を促進するための限界と可能性を明らかにする。
合成生物学は、過去20年間に生きたバクテリアを用いた治療法の急速な発展をもたらした。しかし、生きた細菌を使用することは、概念実証の研究を臨床に応用する上で課題をもたらす。合成生物学とナノメディシンの統合は、細菌治療が直面するいくつかの課題を克服する可能性がある。
https://doi.org/10.1038/s44222-023-00119-4

この総説を読み、改めて感じたことです。

古典的な薬力学、薬物動態学では、バクテリア治療の複雑さを捉えることはできず、異なる組織や臓器(例えば、腸)に既存のマイクロバイオームが存在することが、送達されたバクテリアの生体内分布の決定をさらに複雑にしているという難しさです。そして、合成生物学で作ったバクテリアの遺伝子安定性、生体の免疫応答、生体内での安定性など様々なことを考える必要があるということです。

ナノ粒子は、生物学的なシステムでは実現が難しい機能性を付与することができます。一方、バクテリアは、現在のナノテクノロジーや分子工学戦略では不可能な複雑な挙動を持つように設計することができる。しかるに、ナノ粒子とバクテリアは補完的な性質を持ち、組み合わせることで互いに相乗効果を発揮する可能性がある。特に、バクテリアとナノ材料からなるバイオハイブリッドシステムは、治療応用のためにその相補的な利点を活用できる。アプローチは様々であり、細菌の送達を改善することは、必要とされる用途や治療薬によって異なります。

バクテリア治療は、フェニルケトン尿症 (PKU) 治療の第III相試験を実施中のマサチューセッツ州ケンブリッジのSynlogic Therapeuticsが最も進んでいます。この総説の表に記載されている対象のほとんどが、がん治療に関するものであるということからも、現状は非常に深刻な疾患に対して考慮される治療法だという印象を受けます。

遺伝子工学をやっていると、バクテリアの扱いは非常に容易なので忘れてしまいますが、現実は複雑でさまざまな懸念事項があるということがわかります。

[1] Hahn, J. et al. (2023) Bacterial therapies at the interface of synthetic biology and nanomedicine. https://doi.org/10.1038/s44222-023-00119-4

合成生物学は新たな産業革命の鍵となるか?」担当:山形方人

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