顧客への熱・前編

2023年8月23日
全体に公開

成長著しいスタートアップA社との久しぶりの打合せ。

とある業界に根深く残る問題に果敢に立ち向かい、そして見事に突破口を突破して邁進し始めたはず。視界は良好で、狙い通りの資金調達も完了。まさに、試行錯誤ののちの急成長という状況のはず。

が、わざわざ連絡をくれたのには、やはり訳がありました。話をしてみると、そこには「いつか見た景色」が広がっていました。

***

A社代表:以前、守屋さんが、「成長は『すべてを癒す』ではなく『すべてを隠す』だったりすることもある」って投稿をされてたじゃないですか。なんか、もしかしたら自分たち自身が、まさにそうなってるんじゃないか、ってな気がして。それで、ちょっと相談に乗っていただきたくて…。

守屋:なるほど。でも、そう思えてるんなら、その時点で問題は半分くらい解決してるんじゃないかな。そう思えない、そう指摘されても聞く耳もたない、ってのが、一番重篤で困難な症状。だから、もうすでに解決に向かい始めてる、ってことだと思うけど。

A社代表:だとイイんですが…。ただ、ちょっと考えがグルグル回ってしまって、よく分からなくなってしまったので、聞いてもらってもイイですか?

A社マーケティング部長:じつは、最近、問合せが減少し始めてるんです。問合せをもらってもそこから申込みにつながらないケースも増えていて、マーケティングチームはどう対応すれば良いか、ご教示いただきたく。

守屋:うーん、なんか、その質問、第一声自体に、問題が凝縮されている気がするんだけど。ww

A社マーケティング部長:…。

守屋:何を言われてるか、分かる?

A社マーケティング部長:す、すみません。分かりません。

守屋:「問合せが減ってる。申込み率も下がった。マーケチームはどうしたらいいか教えて欲しい」って文章の中に、「顧客」の成分が、ほとんど入ってないよね? 主語が、ほぼ「マーケチーム」になってる。あと、いきなり答えを求めるんじゃなくて、「仮説」と「行動」を入れといてくれると良かったんだけどなぁ。

たとえば、「これまでの顧客と最近の顧客には、差分が生まれ始めているように感じました。もしかしたらと思って、顧客のもとを訪ねてみると…」ってな感じで話しが始まるイメージ。問合せ数とか申込み率とか、顧客に変化が表れ始めたって気づいたんなら、その解像度を上げるために顧客に会いに行くもんなんじゃないのかな。ってか、そもそも顧客に会いたいと思っている? もし日々の仕事のなかで、「この顧客に会いたいっ!」と思うことがないなら、いま起きている問題の原因は、そこだと思うよ。

A社代表:顧客に対する関心が薄れている、と。

守屋:商売をやっていたら、良い方でも悪い方でも、想定外の「顧客の変化」はあるもんだよね? その変化を感じたときに、「なぜ、この顧客はこんなに喜んでくれたのだろうか」とか、「どうしてこんなことを言われてしまったのだろうか」とか、自然と思ってしまわない? 喜んでくれた顧客には「ありがとうございます」を伝えたくなり、機嫌を損ねている顧客には、「いかがなさいましたか」って聞きたくならない?

A社マーケティング部長:はい、そうすべきでした。

守屋:いや、そこ、「べき」じゃないんだよね。「自然と沸き起こる状態」が大事なんだよね。自分の子どもの元気がなかったら「あれ? 何があったのかな?」と思うよね。その「あれ?」を思わない時点でマズくない? 普通、スルーしないよね?

A社代表:少し、顧客感度が落ちてしまっているのかも知れません。

守屋:顧客に対して敏感であれば、「A社が〇〇〇を褒めてくれたよっ!」とか、「B社に✕✕✕の不満を言われしまった…」とか、「C社のところに競合が提案に来たらしい。他でも聞いてる?」とか、顧客にまつわるいろんな話が日常的に交わされて、自然と顧客解像度は上がっていくもんなんじゃない?

A社マーケティング部長:マーケチームは、そこまでの顧客接点を担ってないもので…。

守屋:マーケが担ってないなら、マーケ以外の誰かが担ってるんだよね? だとしたらその部署に集まった情報に、マーケが興味を持てばいいのではないかと。顧客接点のある部署だけが顧客に興味を持つとか、おかしいよね? 顧客という会社にとって最も重要な資産があって、それをみんなで寄ってたかって知ろうとする、っていうシンプルなことだと思うんだけどな。

マーケの役割はこれ、セールスはこれ、カスタマーサクセスはこれ…とか、そういうの、大企業病の始まりだと思うんだよね。会社が大きくなって、組織が出来て、役割分担がなされて。それはそれで正しいし、喜ばしい成長だと思うんだけど、だからって、「顧客に対する関心」を失っちゃたら、ダメなんじゃい?

A社代表:たしかに…。立ち上げ当初は、みんなで顧客に会いに行っていました。今はどうしても役割で分断されてます。

守屋:たとえば営業マンが、「今月の販売ノルマは達成できそうだからOKだな」って思ったとする。それ自体は、売上責任を担っていることから正しいとは思うんだけど、純粋にそれ「だけ」になってしまったらマズい。なぜなら、「顧客の成分ゼロ」の発言だから。

会社が大きく複雑になっていくなか、チームの役割分担を明確にしないと混乱するし、明確にしたからには、そのチームは、チームの役割を果たし、チームの目標値をクリアすることが当然にして大事。でも、その役割分担が悪い方に作用し始めると、縦割りになって分断が起きる。顧客からすれば、モノを作る人もモノを売る人も区別はないのに、社内ではいつの間にか、うちの部署とよその部署になる。

それじゃいかん、ってちょっとでも思ったら、その気持ちが薄れないうちに、すぐに対処しないと。

A社代表:はい、そうしますっ!

***

「顧客への熱・前編」では、組織に蔓延し始めていた、顧客への関心の希薄化について書かせてもらいました。

事業の成長が加速するに連れて、やることの量や種類が爆増し、物理的にも精神的にも余裕がなっていきます。組織が大きく複雑なるに連れて、顧客や仲間との距離が生まれ、どうして分断が生まれてしまいます。

そうなってしまうことで、本来じっくり向き合っていれば容易に気づくであろう「顧客の変化」に気づかず、もしくは、うっすら気づいていも構っていられずに突っ走ているなか、症状が悪化をしていくのです。

事業で重要なことは、顧客に価値を生むこと。だから、我々の仕事も、顧客に価値を生むことが最重要で、それ以外は劣後するはずなのです。なのに、気づけば、「顧客成分ゼロ」の発言で組織が覆いつくされてしまう。

数字が足りない月末につぶやく、「ヤバイ…」の先に続く言葉は、ヤバイ…「未達だ」なのです。何が未達かと言えば、「今月のオレの数字」。だから、最悪、押し込んででも売ろうとしてしまうのです。

事業数字の達成に必死になることはもちろん大事ですが、同時に、顧客に対する誠実な興味を失わないことも大事。両立は難しいですが、でも、だからこそ「経営」なのかと。

次回、「顧客への熱・後編」では、どうやって顧客解像度を上げ、顧客に向き合っていくのかについてのA社とのやり取りを、お届けします。

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