新規事業版「 7つの大罪」

2023年8月17日
全体に公開

新規事業の成功に向けた指南書には、数多くの理論や手法、テクニックが紹介されていると思います。そのどれもが正しくて、新規事業の先達がまとめたノウハウは、事業を生み出す過程の至る所で役に立つことは間違いないと思います。

ただ、そうだとしても、新規事業を生み出すにあたっての起点の起点、マスターリソースは自らの意志であり、事業の成功を左右する大事な要諦はテクニックにあらず、自らの姿勢、在り方だと思っています。

なぜなら新規事業は否定と失敗の連続で、普通の人が10回失敗したら諦めてしまうものを、それでもその10回を糧に11回目に挑戦できる粘り強さが、成功への道を切り拓くもっとも確からしい切り札だからです。テクニカルなことは、その事業に対して本気で立ち向かう覚悟があったうえで、その根っこがあってこそ、初めて生きてくる、のです。

そういったことからまとめたのが、「新規事業版 7つの大罪」です。「新規事業を必ず生み出す経営」から、一部抜粋&転載するカタチで、以下、その詳細をお伝えしたいと思います。

*******

 キリスト教の「7つの大罪」を模して、私のこれまでの数々の失敗の要因を隈なく振り返り、そしてまとめた「新規事業版 7つの大罪」をお伝えしたい。

 「7つの大罪」はご存知のとおり、キリスト教でいう「7つの死に至る罪」を指す。内容的には、罪そのものというより、「人間を罪へと導く可能性のある、7つの感情や欲情」だ。

 その新規事業版であるから、「事業を失敗へと導く可能性のある、7つの姿勢や行動」という意味と捉えていただければ幸いである。

【第1の大罪】 意志なき起業

 意志は、その事業を自分ごととして、なにがなんでもやりきるという情熱、挑戦したいという熱量だ。意志が足りなければ、事業をやりきることも課題を乗り越えることもできない。

 当たり前のことでありながら、企業の中で新規事業を生み出そうとすると、その意志が置き去りにされることが多い。

 足元の損益にばかり気を取られているために、どうしても本業、現業、主力事業の都合を最優先し、将来に向けて価値を創り込むことを常に劣後させる判断を繰り返してしまう。

 今期の目標を達成し、今月のノルマを果たすことで精いっぱいだったりする。みずからの評価を気にし、失敗を避ける行動が身についてしまっている。

 なにがなんでも新しい一歩を踏み出す、未来を切り拓くという強靭な意志がないために、予算も体制も確保されない新規事業は、結局始まることもなく消えていくこととなる。

【第2の大罪】 経験なき理屈

 新規事業に失敗はつきものだ。「こうすれば必ず成功する」という絶対法則はない。だから、実際に新規事業を経験することで、学びが最大化する。

 しかしながら企業内では、

 「いままでは、こうやってきた。こうしないとうまくいかないはずだ」

 「こんな仕組みで儲かるのか?」

 「うちのやり方はこうだ」

 といった、新規事業の経験に基づかない、本業の理屈にまみれた言葉が飛び交うことが少なくない。

 本業一本鎗できたために、組織のすみずみまで、本業意識が染みついていて、新たな事業にこれまでの事業を当てはめて考えるクセが、どうしても抜けきれないのだ。

 学びは、みずからの経験からしか生まれない。本来であれば、市場に出てそこからフィードバックを得て、初めて経験を積むことができる。試すこともしない経験なき理屈は、新規事業の障壁でしかない。

【第3の大罪】 顧客なき事業

 事業をおこなう上で、「顧客視点」は非常に重要なキーワードだ。致命的に大事なそのキーワードを、簡単に手に入る二次情報、表面をなぞっただけの一次情報で済ませているようでは、その時点で、すでに先行きの困難性が透けて見えてしまう。

 事業で重要なことは、「顧客に価値を生むこと」だ。だから、あなたの仕事は、顧客に価値を生むことであり、それ以外は劣後するはずなのである。

 しかしながら、「本業に生かせないか」という、顧客のためでなく自社のための思考に走ったり、「最先端の技術を活用する」という、手段先行のプロダクトアウトに走ったり、「流行りのDXに乗ってみる」という、顧客が置き去りにされた発想に至ることが多い。

 これらは最終的な顧客価値競争において、敗北必須の取り組み姿勢だといえる。

【第4の大罪】 熱狂なき業務

 新規事業コンテストやスキル研修と化した新規事業の場では、なにがなんでも成功させる、必死になって稼ぐ、という当たり前の「熱量」が不足し、「お勉強」で終わってしまうことが圧倒的に多い。

 それは事業に本当の意味で熱狂できないからだ。

 また、「経営層から何かを生み出せと言われたから…」という姿勢も同様である。自分ごととして「情熱」をもって挑戦することなく、サラリーマン行動の延長で仕事に臨んでいるようでは、事業家としての根っこが枯れていて、どんな事業をやろうともうまくいくはずがない。

 大事なことは、「自分がこの社会課題を解決しなければ」という意志をもち、「事業を生み出す」という業務に熱狂して臨んでいくことである。

【第5の大罪】 挑戦なき失敗

 何年も続く本業をもっている企業には、「完成されたオペレーション」が存在し、そのオペレーションの正確な実行を目的に、あらゆる機能が細分化され、担当として振り分けられた分担を誠実にこなすことが大事となっている。

 「ミスを出さない」ということが重要となっている。これは本業を「守る」意味では正しい姿勢である。

 しかし、かたや、新規事業はすべてにおいて挑戦だ。もっというと挑戦ができなければ、新規事業は始められない。そして挑戦するのだから、当然、失敗は付き物である。

 本業の発想で新規事業に取り掛かれば、「こんな、成功するか失敗するかわからないことはできない」ということになるだろう。

 そうなれば、新規事業は挑戦すらなされないまま、失敗に終わる。

【第6の大罪】 利他なき利己

 ビジネスシーンにおける「利己」には、個人と法人の「利己」が存在する。

 個人でいえば、自分の出世、自分の名誉、自分の保身などを指す。多くの組織において出世するのは、「失敗をしない」ということだ。

 この発想は、新規事業が必要とする「挑戦」の発想とは真逆に位置する。顧客に価値を生み出すための挑戦よりも、失敗をしない保身に傾く姿勢で、いまない何かを生み出せるわけがない。

 また、法人でいえば、わが社の製品、わが社のサービス、わが社の利益などを指す。多くの企業において大事なことは、「現業を守る」ということだ。

 現業を守ることに終始する姿勢で、新規事業を生めるわけがない。今期の業績に一喜一憂し、未来への成長にブレーキをかけるのではなく、新たな顧客価値の創出に向けた投資をおこなうべきである。

 過剰な「利己」を廃して、適切な「利他」をもたなければ、未来はない。

【第7の大罪】 自問なき他答

 「どの市場が有望ですか?」

 「よいフレームワークはありますか?」

 新規事業をつくろうとする方から、そんな質問を私はよく受ける。

 経験者から学びを得ようとする姿勢としては正しいが、その問いから透けて見える姿勢は、「正解を知りたがる」「マニュアルを欲しがる」だったりする。

 だとしたら、その時点でその事業はすでに失敗している。ヒトの経験談、他者から借りてきた小理屈を、深い思考とセットにせずに、うわべを単純参照することは、悪手中の悪手といわざるを得ない。

 大事なことは、他人の答えに頼らず、みずからに問い、みずから答え、みずから行動することである。新規事業の現場はすべてがユニークであり、あなたの事業は、最終的には、あなたにしか判断はできない。

*******

「7つ」をあらためて列挙してみると、どれもこれも、当たり前にして当然のことばかりだったりします。でも、それが難しい。だからこそ、7つの「大罪」。自分自身への自戒を込めて、投稿。

応援ありがとうございます!
いいねして著者を応援してみませんか



このトピックスについて
坂本 大典さん、他7451人がフォローしています