2023/7/23

【教えてプロ】AIに「自動化される仕事」7業界の結論

NewsPicks コミュニティチーム
ChatGPTが注目される前から、AIは常に「人間の仕事を奪う」という文脈で語られてきました。
ただ、具体的にどんな仕事を自動化し、その先で求められる「人間ならではの仕事」は何になるのかまで想像できている人はどれだけいるでしょう?
そこで今週の【#教えてプロピッカー】は、特集記事【保存版】20業界のプロが語る「GPTで変わる働き方」大予測に登場したプロピッカーたちが
Q1. 自分の業界で生成AIが普及したら、どんな業務が自動化されるのか?
Q2. 自動化が進んだ近未来で求められる人材像とは?
に答えた内容を、「コメント完全版」として紹介していきます(20業界のダイジェスト版は以下参照)。
3週連続で展開する第一弾は、以下の7業界の未来を覗いてみましょう。
INDEX
  • 1️⃣ 銀行・証券業界
  • 2️⃣ 半導体業界
  • 3️⃣ 不動産業界
  • 4️⃣ SNSマーケティング業界
  • 5️⃣ 会計・税務業界
  • 6️⃣ 弁護士業界
  • 7️⃣ VC業界
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1️⃣ 銀行・証券業界

まず、「経験」を基にしたチェック機能はAIに代替されていきそう。
例えば金融機関において比較的高待遇だったコンプライアンス部門のアシスタント職やマネージャーなどは、職を失う可能性もある。
当局はじめ検査対応において、過去問答(二段表 / 三段表類)を全てAIに読み込ませることで、的確な回答が期待できるようになり、コンプラ担当者の負担が軽減されるからだ。
顧客接点である窓口業務やコールセンター業務もAIによる代替が進むだろう。社内相談窓口的な総務部門もしかりだ。
システム開発(特に移植作業や言語間マイグレーション類)でも、テストシナリオからテストデータ作成までをGPTが担うようになると、大幅な工数が削減できる。
単純に人手のかかる作業が減るので、業務の「作業工程」を担う行員の雇用が危うくなるのは自明と言える。
  • 求められる人材像はどう変わる?
算盤からエクセルに代替が進み、エクセル職人が生まれたように、今後「GPT職人」が生まれてもおかしくはない
📌コンプラ部門などにおいて、検査対応から各報告書類をGPTを駆使して対処する職人
📌システム部門においてマイグレーション開発からテストまでGPTを活用する職人
などが活躍することになりそうだ。
相手が人であれGPTであれ、具体的な業務内容を定義して指示する人(その筆頭は経営者だ)の役割は不変であり、言われたことを執行する人=従業員の役割に変質が求められる。
言い換えると、従業員にも各業務で「経営者的な動き」が求められるようになるだろう。

2️⃣ 半導体業界

半導体は製品設計、試作、量産などあらゆるフェーズにおいて取得データ数が多いのが特徴。
例えば前工程と呼ばれる半導体素子にかかわる領域では、工程数はゆうに100を超え、各工程における管理項目も多く、扱うデータ数が膨大になる。
GPTをはじめとする生成AIは、このデータ収集フェーズや、グラフにして説明資料を作る作業などを軽減するのは間違いない。
ほかにも、誰が設計しても同じような設計に行き着くような汎用品の設計事業などが廃れていくと考える。
ただそれ以上に、製造工程における異常検知などにLLM(大規模言語モデル)が活用される未来に期待したい。
製造ラインをうまく機能させ、不良品を減らすには、膨大な数のパラメータ(変数)を管理しなければならず、その管理はもはや人智を超えている。
そこで、(自社の製造ラインのデータをどうLLMに学習させるかは議論の余地があるものの)AIがゲノム解析のようにパラメータ同士の相関関係を分析してくれれば、これまで気づけなかった良品率向上のヒントが見つかるかもしれない。
この“製造ラインのゲノム解析”が進めば、今でも4カ月程度かかる半導体の製造サイクルを短縮できる可能性もある。
  • 求められる人材像はどう変わる?
これは景気循環の問題に悩まされることの多い半導体業界にとって、事業性を大きく左右する進化となる。
今後はいっそう世の中の先を読み、その動向を技術で先回りできる人材が求められることになると考えられる。
事業戦略立案でよく使われる3C分析や(最近では4C、5C分析なるものも出ているが)、ファイブフォース分析などを自ら実施できる開発者はサバイブすると考えている。

3️⃣ 不動産業界

「顧客対応の自動化」が進んでいくはず。
特に顧客ニーズの明確な質問・相談に対応する場面で、営業パーソンが不要になっていくだろう。
賃料未払いなどの単純な顧客対応も自動化される。すでに、AIと自動音声を組み合わせた催促電話サービスなどが登場している。
AIによって自動化された顧客対応は、24時間対応も可能。むしろ顧客満足度の向上を生み出していく。
また、物件広告文の作成も自動化されていくと考えている。単純な物件広告の作成から、顧客のペルソナの策定、効果的なキャッチコピー・DMなどの文章作成まで、全てのプロセスが自動化される可能性が高い。
この分野でも、不動産内装デザインやコンセプトアートなどを自動生成するビジネスがすでに誕生している。
今後は、イメージする単語や文章から複数のインテリアパターンを瞬時に生成したり、土地の形状に対して最適な建築プランを自動生成するようなサービスが登場するだろう。
  • 求められる人材像はどう変わる?
今以上にハイレベルなコンサルティング営業が求められるようになる。
自宅購入や資産形成において、顧客の真のニーズを把握し、それに基づいた提案やアドバイスができる人材は価値が高まっていくと予想される。
物件の売買回数が少ない日本において、顧客が自身のニーズを正確に把握するのは難しいからだ。
ニーズの発生に先立って提案・アプローチできる能力は、AIによる自動化でも代替されにくいはず。
物件を売却するべきかどうか迷っている顧客に、資産形成の観点から売却を提案する能力や、顧客が潜在的に欲しいと思っている物件を企画・開発できる能力が価値を持つようになる。

4️⃣ SNSマーケティング業界

SNS投稿の文言から、ハッシュタグの設定、画像作成、インフルエンサーのアサインまで。
これまで自社や個人の経験知、アイデア、クリエイティブ力で作成してきたもの全てが、ChatGPTや画像生成AIによって短時間かつ効率的にできる未来がやって来る。
また、効果の良かった施策を分析し、再現性を持って実施することも、AIに代替される可能性がある。
例えば過去のSNS施策の結果をAIに読み込ませれば、
「○○や○○の条件にあてはまるインフルエンサーを、理由と合わせて教えて」
などと命令するだけで、より良い企画の骨子づくりをアシストしてくれるだろう。過去のデータを基にノウハウ化していた業務は、どんどんAIに代替されていく。
業界内では、すでに「AIモデル」を起用した画像や動画が話題になっている。数年先は、企画のみならず、物撮りやモデルのキャスティング、デザイン作業など、SNS運用の全てをAIで完結させるプランが出てきてもおかしくはない。
  • 求められる人材像はどう変わる?
多くの業務をAIが代行してくれる前提で、AIが出してくる成果物を人間が磨き込んでいく流れになっていくと考えられる。
この「磨き込み」では、
📌人の心を動かす上で必要な細部の「クリエイティブ」
📌コピーライティングを含めた企画力
📌企業の目指すべき方向性や効果測定として見るべき指標を設計する「プランニング力」
が変わらず求められるはず。
AIにはできない「人が加えられる付加価値」を常に与えられるかが、今後の事業成長か、衰退の進行を決定付けると考えている。

5️⃣ 会計・税務業界

クライアントから相談があった時に「ネットで検索する(ググる)」という行動が、「ChatGPTで確認する」という行動に置き換わっていくだろう。
GPTの回答精度は、まだ高いとは言えない。会計・税務の専門知識や情報の真偽を確認するスキルは必要不可欠だ。
とはいえ、論点の頭出しをすることや、60点の回答案を作ってもらうことは、現時点でも「十分に可能」と言っていい。
いずれ、所定のフォーマットでもらった情報を、決まったルールで税務申告書に落とし込むような業務はほぼ完全に自動化していくと考えられる。
また、GPTは汎用的な会計業務を整理・平準化して、マニュアルを作成するためのツールにもなり得る。
さまざまな定型業務の価値が下がり、それらを収入源としてきた会計士・税理士の価格も下がっていくだろう。
  • 求められる人材像はどう変わる?
上述のように、アウトソーシング可能な業務からAIに代替されていくとはいえ、会計・税務の業務設計は千差万別。顧客に合わせてやり方を変えるべき時がある。
業務設計をする立場としては、チームのニーズを引き出し、要件定義をするために必要なコミュニケーション能力やコンサルティング力、そのチームに最適化した形で業務を設計するデザイン力が今まで以上に問われる。
また、GPTはプロンプト次第で回答の精度が変わるため、GPTが出してくる回答を精査し、顧客に対して責任ある回答をする役割も必要となる。
そのためにも、上述したスキルがますます重要になってくると考える。

6️⃣ 弁護士業界

弁護士の仕事は、「問題の把握・定義」→「リサーチ」→「起案・アドバイス」のフェーズに大別され、これらの作業に要する時間に基づいて報酬が算定されてきた(事件・事故などの場合は、着手金・成功報酬型の案件もあるが割愛する)。
生成AIは、このうち「リサーチ」と「起案・アドバイス」において高い効率性と品質を実現し得る。
すでに英語圏では、契約書の作成とレビュー、裁判例などのリサーチ業務で生成AIを用いたサービスが提供されており、日本でもAI契約審査サービスのLegalForceがChatGPTを用いたサービスを開始している。
このような変化が行き着く先は、法律事務所のタイムチャージモデルの崩壊だ。
生成AIによって、対応時間が効率化され、報酬(クライアントからはコスト)を下げる圧力が高まるためである。
今後は「法律相談定額プラン」や「契約書レビュー定額プラン」といったサブスクリプション型のサービスが弁護士業界にも広がっていくのではないかと考える。
  • 求められる人材像はどう変わる?
今後1〜2年は、「AIに任せるべきこと」と「弁護士が対応すべきこと」の見極めが大切になっていく。
前者では、生成AIの活用精度を高めることが求められる。ChatGPTへの指示=プロンプトを書く力を高めることも、ここに含まれる。
加えて、AI活用に不足している「素材」「観点」を収集し、提供できる人材の価値が高まるだろう。
今の法律業界は、生成AIが追加学習を行うためのデータセットが不足しているからだ。
特に日本語圏は、裁判例の公開率も低く、行政文書なども機械判読可能な形式の公表が少ない。
裁判に用いる書面、文書化されていない情報などを含めて、「素材」収集ではすでに蓄積された大量の生データを整形してデータセットを生み出す作業が求められる。
多くのパラリーガルやジュニアな弁護士らは、今後この業務に従事することになるのではないだろうか。
他方で、生成AIが学習する上での「観点」の提供では、高度な法的知見を有するスペシャリストの存在が欠かせない。
生成AIの「作話」を見抜き、正確な情報として最終的なアウトプットに責任を負うことのできる専門家の価値は、今後も高まっていくだろう。

7️⃣ VC業界

VCは投資検討のタイミングで、デューデリジェンス(投資対象のリスクとリターンを把握する調査)のためにさまざまな業種の市場環境、競合、技術、法制度などを調査する。
調査の仕方はコンサルと似ていて、「関連書籍を読む」「業界のレポートや白書を探して読む」「知見を持つ専門家にヒアリングする」またはそれらをひっくるめて「Googleで検索する」というプロセスから始まることが多い。
それが、ChatGPTの普及によって「まずはざっくりGPTに質問してみる」という行動へと変わりつつある。
GPTが集めてくる情報の信頼性には注意が必要だが、知識がほぼない業界に対して、概要をかいつまんで理解するフェーズは、現時点でもかなりスピードアップしている。
これが一般化していくと、アソシエイト的な役割は不要になる。キャピタリストは皆「AIアシスタント」を活用し、個人でも働きやすくなる未来が予想される。
すでに、プログラミングのサポートツールやMicrosoft 365 Copilotのような「Copilot(副操縦士の意味)」サービスが複数登場しているように、投資の世界でも、企業のデューデリジェンスから株式の評価、ファンドの評価・分析などを行う「投資Copilot」の誕生が考えられる。
  • 求められる人材像はどう変わる?
アソシエイトが担うような単純な情報収集はChatCPTが代替するようになっているが、一方で得た情報を精査する力と、そもそも何が分かれば投資判断ができるのかを学ぶプロセスは代替できない。
これはさまざまなリスクとリターンを加味した複雑な思考プロセスなので、まだまだ人間が担う部分だと思っている。
リアルなユーザーの声から顧客ニーズを理解する、店舗や事業の現場に足を運び、その成長性や独自の優位性を見極めるといったオフラインの業務が重視されるようになると考えている。
百聞は一見に如かず、足を運んで手に入れた情報から得られる知見と直感は貴重だからだ。
キャピタリストは、非常にウェットな人間関係や、事業成長の支援で成り立つ仕事。何かの仕事がなくなるというよりは、より人間がやるべき仕事にフォーカスしていく傾向が強くなっていく。

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