2023/7/30

【教えてプロ】AIで「生まれる新ビジネス」7業界の未来

NewsPicks コミュニティチーム
AIが「夢のような未来をもたらす」。
AIが「人間の仕事を奪う」という文脈で語られることが多い一方で、このような希望的観測もまた少なくありません。
実際に、話題のChatGPTを動かすAI言語モデル「GPT」が組み込まれた新しいサービスは、すでに続々と生まれています。
そこで今週の【#教えてプロピッカー】は、今年5月末の特集記事【保存版】20業界のプロが語る「GPTで変わる働き方」大予測に登場したプロピッカーたちが
Q1. 生成AIの普及で生まれそうな新事業は?
Q2.「新ビジネスが生まれた未来」で求められる人材像はどんなものか?
という問いに答えた内容を、「コメント完全版」として紹介します(20業界のダイジェスト版は以下参照)。
3週連続で展開していく本企画の第二弾は、以下の7業界の未来を覗いてみましょう。
INDEX
  • 1️⃣ コンサル業界
  • 2️⃣ 人材サービス業界
  • 3️⃣ 広告業界
  • 4️⃣ 出版・メディア業界
  • 5️⃣ TV・映像業界
  • 6️⃣ 観光業界
  • 7️⃣ 自動車業界
  • 「#教えて」シリーズ質問募集中!

1️⃣ コンサル業界

📍「GPTオペレーションコンサル」が生まれる
ChatGPTの登場は、コンサルティング業界を1980〜1990年代の業界規模まで劇的に縮小させるインパクトを持つ。
複雑な単純作業や大量の情報分析が生み出す価値が急降下するため、クライアントに言われたことしかできない“超高額作業員”は総じて淘汰される可能性がかなり高い。
AIの効率的な利用価値がある時期には短期的ではあるが「GPTオペレーションコンサル」のような仕事が生まれ、瞬間的に儲けが生まれるかもしれない。
📍「海外市場へのアプローチサポート」が生まれる
これはコンサル業と直結しないように思う方もいるかもしれないが、音声対話型AIの普及は、クライアントの海外進出を飛躍的に進める武器となる。
言語の壁をも越えることになり、海外市場にもリーチしやすくなるからだ。
ChatGPTのAPIをきっかけに、特にキーボードでの入力が一気に衰退、音声での対話で成り立つサービスが次々と台頭し、音声が情報の重要なインターフェースになり、さまざまなサービスや製品のUIが大きく変化する。
結果、例えば今まで海外勢に押されていた日本の製造業は、日本語という言語を中心に音声対話型のサービスで市場を拡大していくだろう。
世界中の子供たちが、自由に交流できるようなプラットフォームができれば、教育業界にも革命が起きる可能性もある。
📍「コンピューターに人間が脳を貸し出すサービス」が生まれる
長期的に見れば、生成系AIの登場は、コンピューターと人間との関係を大きく変える。今まで人間がプログラムをする限り、コンピューターは人間の思い通りに動いた。
しかし、生成系AIはその関係を逆転させる可能性すらある。
現在のコンピューターより人間の脳の仕組みに基づいたニューロコンピューターや、脳そのものをコンピューターと直接同期させるBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)が本格的に導入されると、人間が作業するだけではなく、コンピューターの作業に人間が脳というリソースを貸し出すような新しいサービスも登場するかもしれない。
その段階になると、人がコンピューターに支配されるマトリックスのような世界が現実になる可能性もある。
  • 求められる人材像はどう変わる?
最終的にGPTのようなAIがもたらすのは、現在蔓延する超高額作業員としてのコンサル不要論である。
フレームワークを使った分析力や、PMO(プロジェクトマネジメントに特化した部門・チーム)のような管理・遂行力を武器に生きてきたコンサルタントは、職を失うことになる。
比較的上位レイヤーと呼ばれるITコンサルタントも生き残れないだろう。
他方、AIを超えたユニークかつ非連続的な発想ができるコンサルタントのニーズは高まり、市場価値が高騰する。誤解を恐れずに言えば、80年代、90年代の「プロフェッショナルとしての価値と威厳のあるかつてのコンサル像」が復活すると思う。
当時との違いで言えば、より地球規模、社会規模で課題解決に取り組む姿勢や、AIと共存するための「AIガバナンス」から設計できる力が求められること。
現代的な個が生み出す“独彩力”が求められるようになり、結果、自然と労働時間は長くなる。プロフェッショナルは成果にこだわるからである。
タイパ、ライフワークバランスを重視するより、仕事の成果や創出に重きを置く人材が生き残る。本格的なプロフェッショナルによる質の時代が到来する。

2️⃣ 人材サービス業界

📍「無人コールセンター」が生まれる
対人でしか対応できなかったような、複雑な電話での応対業務が、これまでの大量のカスタマー対応の録音データさえあれば、自動音声での対応が可能になるだろう。
そうなると、クレーム対応などは、真っ先に解決できる領域かもしれない。
過去の大量のクレーム対応の録音データを元に適切なスクリプトを生成、AI音声で対話ができれば、人間にとって非常にストレスがあった業務を、全てChatGPTで置き換えることも可能となる。
📍「データコレクター専門派遣」が生まれる
ChatGPTに読み込ませる生データを、現場で短期間で大量に集めるサービスである。
これまで人材派遣は、何か特別なノウハウを持っているか、実行における人材不足を補うことが目的だった。
しかし今後は、ノウハウはデータさえあれば自社でChatGPTを通して型化できるようになり、さらにChatGPTに基づいて最短の手段がわかれば、自社の人材で実行ができるようになる。
そうなると外部リソースに頼るのは、その仕組みを作るためにいかに早く効率的にデータを集めるか、という部分である。
必要なデータの構成とデータ量を考え、最短で集めるためのアクションプランを設計し、それを設計通りに確実に実行できる人材を確保して、データを集める。ここに人材の投入ニーズがあるように思える。
  • 求められる人材像はどう変わる?
先述したように、これまで外部に依存していたノウハウ提供の部分は、自社でもできるようになる。
ただ、その時に重要になるのが、圧倒的な現場経験だ。
「それっぽいもの」がChatGPTでいくらでも生成が可能になるからこそ、特にプロジェクトマネジャーなどの職種においては、自らの経験からChatGPTが生成したアウトプットの内容を精査できる能力はとても重要になる。
その点で、ChatGPTにはできない泥臭いことができる人も価値が上がる時代になるかもしれない。それっぽいことしか言えない程度の経験は、陳腐化してしまう可能性もある。
いずれにしても、自分が接している生の情報の価値を理解することはとても重要である。
ただ現場にいるのではなく、自分が吸い上げた情報がChatGPTに入れ込んだ時にどう生かされるのか、その先まで描いて行動ができる人が求められるのではないだろうか。

3️⃣ 広告業界

📍「自分専用にチューニングされたAIアシスタント」が生まれる
GPTと実世界が連携することにより、パーソナライズされたエクスペリエンス(体験型)プラットフォームが生まれると考えられる。
反対に、狭義の「広告」は廃れるかもしれない。人々は自分専用にチューニングされたAIアシスタントを持つようになり、それがどんどん実世界に影響力を持つようになるからだ。
家、職場、モビリティ、レジャーなど、暮らしのさまざまな場面で有機的につながって人類をアシストしていくだろう。
代わりにもっと楽しい時間が増えると思うと、ワクワクしないだろうか?
  • 求められる人材像はどう変わる?
GPTは、言語化(データ化)された情報でできた集合知と捉えることができる。ゆえにデータ化されていない人間の感情の機微を読み取ることや非言語コミュニケーションは不得意だ。
広告業界、とくにクリエイティブ職は、今まで以上に人間的な感情や行動原理を理解し、ブランドと顧客の関係を作っていく必要がある。
また、ここ数年は特に、データの偏りによって生じるバイアスを的確に見抜き、あるべき姿へ方向修正するディレクション能力も求められるだろう。
AIの歴史が人類の歴史と地続きであるかぎり、データそのものに、データのサンプリングに、ラベリングに、さまざまな局面でバイアスが入り込む可能性がある。
ジェンダー、人種、文化、DE&Iの視点で差別的になっていないか、ステレオタイピングが起きていないか、常に注意する必要がある。

4️⃣ 出版・メディア業界

📍「記事生成AI」や「瞬間新書AI」が生まれる
「記事生成AI」は、必要なデータ(複数人のインタビュー音声など)を入力すると、2000〜4000字ほどの記事が生成されるサービスで、ブログ投稿や社内報などへの活用可能性がある。
コミュニティで情報を共有するうえで有用かもしれない。
また、3万字以上の長文として、「新書形式」とするのもアリかもしれない。かつて「エア新書」が流行したが、これをタイトルだけでなく、一瞬で中身まで作ってしまうことが可能になる。
AIの専門家である清水亮さんは「AIに仕事を奪われると騒いでいるのは、主にメディア関係者。汎用的な使い方をする人たちは、しばらくすれば飽きてしまうだろう」と話している(『DIME』2023年7月号)。私も同感だ。
この1~2年で、画像処理の「背景切り抜き」が劇的に向上したように、さまざまなジャンルでAIによる効率化が進むと思われるが、画像作成の根幹があまり変わっていないように、クリエイティブそのものは当面、今の構造を維持するのではないかと考えている。
  • 求められる人材像はどう変わる?
「企画できる人材」は、今でも高く評価されているが、それが際立つことになるだろう。
企画以外の仕事は、生成AIを使ったツールで平準化される。誰でも、そこそこの記事を、簡単に作れるようになる。
ただ、だからこそ「企画の新しさ」や「問いの深さ」が重要になる。平凡な仕事では埋没してしまうからだ。
また、テキストを扱う技術が平準化するからこそ、違いを出せるようなスキルは重宝されるだろう。
このとき「マザーデータ」を作れるような人材が価値を持つはずだ。
AIは特定のデータがあれば、それを踏襲して出力できる。つまり、自分の過去の仕事をすべて読み込ませれば、簡単に次の仕事に役立つデータを出せる。
ただし、それには過去の仕事が「ちゃんと」している必要がある。自信のあるマザーデータを作れていない人は、苦労することになるだろう。

5️⃣ TV・映像業界

📍「調査報道」が生まれる
オープンソースから「社会課題」を見つけ、解決法を提案する「調査報道」に資する活用が想像される。
反対に、ニュースを速報するビジネスモデル、いわゆる「前打ち」報道が廃れると考えられる。
ただ、情報源の明示はChatGPTの課題である。
(GPTベースのBingにはあるが)引用先の足跡をデジタル上に記録する(デジタルスタンプ的なモノ)など、正確性が担保できるかが、報道部門ではより重要になると思う。
  • 求められる人材像はどう変わる?
今後求められるのは、オリジナルな視点で表現する能力だろう。過去の企画にとらわれない、型破りな発想やチャレンジができる人が求められる。
生成AIが学習によって生み出すものであれば、そうではない人間的な感情を持ったクリエ-ター、個人的には、シンプルに考えられる人が強いのではと推察する。

6️⃣ 観光業界

📍「ChatGPTによる旅程提案サービス」が生まれる
すでにExpediaが実装しており、ChatGPTを活用したLINEでのAI旅程提案サービス「AVA Travel」も公開されている。
一方で、ホテル向けSaaSサービスとして存在したChatBotサービスが廃れていく可能性がある。最近上場したTriplaもその一つだ。
宿泊施設の現場で働くスタッフの人材不足からChatBotサービスのニーズは引き続き高いが、現在は上記サービスだけでも8つあり、その他も乱立状態である。
ChatGPTはクオリティが非常に高く進化のスピードが速いので、日本のChatBotサービスは、裏側でChatGPTのAPI連携などを模索する企業が生き残り、独自でAI開発してきた会社は劣後する可能性がある。
  • 求められる人材像はどう変わる?
観光市場には、いろいろ「リアルでなくてはいけない」仕事が多い。
宿・ホテルの清掃、料理、観光ガイドなども含めて、人が必ず介在する仕事である。
しかし、例えば「チケットのもぎりをするだけ」のスタッフは、DXで代替可能だ。
現に、ディズニーリゾートは、コロナ禍中に当日チケット販売のブースを廃止し、すべてオンラインでのチケッティングに切り替えた。
また、ホテルのフロントスタッフも、お風呂や朝食会場の場所など決まり切ったご案内をする役割は、ChatGPTや、それを搭載したロボットに代替可能だろう。
サービスの現場でも人間らしく、ニーズを先取りする「察する」仕事(うろうろしている人がいたら積極的にDo you need any help?的に声をかける)や、相手の表情や属性からニーズを想像し、プラスアルファの提案をすることなどが求められてくる。

7️⃣ 自動車業界

📍「GPT活用を踏まえた人材の評価・育成ビジネス」が生まれる
GPTを使いこなしてパフォーマンスを高められる人は、インプットとアウトプットのバランス感や行き来するサイクル・スピードに秀でた人だ。
そのような能力を客観的に評価した上で、GPTを使いこなして成果につなげるための能力を高めるサービスが勃興する。
そこには、TIPSのような使いこなしのテクニック(ハード面)もあれば、使いこなしたいというモチベーション喚起(ソフト面)の働きかけも含まれる。
特に日本人は、新しいものに先んじて触れることに消極的なことも多く、それが市場での普及遅れにつながり、結果的に製品やサービスの進化も後手に回るというケースが、最近目につく(EVや自動運転など)。
ハード・ソフト両面から、あえて人間にもアプローチする重要性も着目されるようになる。
  • 求められる人材像はどう変わる?
企画や開発の業務において、よりコラボレーティブな人材のパフォーマンスがより高まるようになる。
GPTからのインプットを、自分の企画や開発にうまく組み込んでは、また生活者や社員に投げ込んで反応を把握し、それに基づいてまた企画・開発をブラッシュアップするというサイクルを、限られた時間でもたくさん回せるようになる。
そうなると、1人でじっくり考えこむよりも、リアルな人間/GPT問わず、他からのインプットを加味しながら思考を進化させる能力が高い人材(=コラボレーティブ)が、その恩恵を享受して、より質の高いアウトプットを出しやすくなる。
アジャイル開発と言われて久しいものの、実践できている自動車関連企業は必ずしも多くはない。GPTを活用した対話重視のスタイルが、アジャイル化を推進し、開発者のコミュニケーション力向上にも寄与する。

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