男性育休取得期間は世界1位!世界に誇れる制度の裏にある課題とは?

2023年7月18日
全体に公開

 前回は、女性の管理職が少ない理由の一つに、時短や育休など、多様な働き方をしながらも管理職を目指せる制度や環境が整っていない現状をお伝えしました。今回は、諸外国の事例を見ながら、他国ではこの課題をどのように乗り越えているのか、参考にしていければと思います。

育休制度は世界1位、しかし実態は…

 2021年6月、ユニセフが発表した報告書(『先進国の子育て支援の現状(原題:Where Do Rich Countries Stand on Childcare?)』)によると、先進国の育休・保育政策等を評価したランキングで、日本は育児休業制度が1位となりました。父親に認められている育児休業の期間が最も長いことがその理由です。

 日本の育児休業制度は1991年の育児休業法制定時から、ジェンダーにかかわらず原則1年取得でき、父親と母親に認められた期間がほぼ同じ長さである唯一の国です。つまり、子育てをする制度面では、諸外国に比べてもかなり整っている国が日本なのです。しかし、育休や産休の制度がどんなに整っていても、そうした働き方を加味した上で管理職にする仕組みがなければ、管理職比率は上がりません。

出産の有無に関係なくハードモードで働くアメリカ

 では、諸外国ではこれをどのように乗り越えているのか。まず、最も極端な例とも言えるのが実はアメリカです。アメリカには、産休・育休に関する国の制度として「Family and Medical Leave Act (FMLA)」があります。このFMLAは産休・育休に限ったものではなく、事故や病気、介護など、一時的に働けなくなった場合にも適用される制度です。ただこの制度も、「出産、または養子を迎えるにあたり、12週間まで休業しても雇用を保証する」だけであり、経済的な保証は一切ありません。そのため、アメリカの働く母親の実に4人に1人は、産後からたった2週間で仕事に復帰しています。制度が整っていない結果、出産によるキャリアのブランクがほとんど発生することがない、というのがアメリカの現状です。実際に、ジェンダーギャップ指数における経済分野では21位でフィンランドの次に高く、女性の管理職比率も高い水準を保っています。もちろん、男性にも育休がないわけですから、産後は夫婦でやりくりをしながら、男性も当たり前に育児をして、一緒に働いています。キャリアを優先するなら出産の有無に関係なく働いてね、というのがアメリカのスタイルです。

 そのわかりやすいデータとして以下グラフがあります。このグラフは、6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児関連時間の国際比較です。日本の男性が1時間23分に対して、アメリカは3時間7分。女性の家事育児の時間が諸外国に比べて長いこともわかるかと思います。

男女共同参画白書令和2年版「コラム1 図表2-2 6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児関連時間(週全体平均)(1日当たり,国際比較)」より出展(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-c01-02-2.html)

 日本では、制度が整っている分、結果として性別的役割分担意識の改善が進まず、女性の社会進出にも影響が出ている、とも言えるのかもしれません。実際に、アメリカでは子育てをベビーシッターやナニーにお願いすることが一般的でもあるので、男性も家事育児に参加して、足りないところは第三者にお願いする、という文化が根付いているとも言えます。

世界5カ国の「ワーキングママの育児事情」に関する意識調査 2019年1月実施を参照(https://www.rinnai.co.jp/releases/2019/0212/images/releases20190212.pdf)

第三者の手を借りながらバリバリ働くアジア女性

 家事育児を第三者にお願いする、という観点では、同じアジアでもシンガポールやタイなどはわかりやすい事例です。シンガポール、タイはそれぞれ経済分野のジェンダーギャップが23位、24位とアジアの中でも女性活躍が非常に進んでいます。シンガポールではメイド文化が浸透しているため、家事も子育てもメイドやシッターにお願いをして、女性が外でバリバリと働く、という形が一般的になっています。またタイでは、自分たちの親と同居をして、親に子育てを頼ることで女性が働く環境を整えています。夫が家事育児に参加できないなら、第三者の手を積極的に借りる、という方法を賢く取り入れている事例と言えるのではないでしょうか。

日本が目指すのは北欧スタイル?

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 では、日本のように制度も充実させた上で、ジェンダーギャップの解消にも取り組んでいる国はないのでしょうか?この観点で最も参考になるのがヨーロッパです。

 例えば、ノルウェーでは、育休の一定期間を父親に割り当てる制度として「パパ・クオータ制」が導入されています。「パパ・クオータ制」とは、父親にだけ割り当てられている休暇期間で、パートナーがその分を取得することはできません。そのため父親が受給しなければ権利は消滅してしまいます。さらに育休取得時の給付は休業前賃金の80~100%と高く、取らなければ損になるため、これによりノルウェーなどでは、資格のある父親の9割が利用しています。この「パパ・クオータ制」は1993年から既にノルウェーでは実施されており、これをきっかけでヨーロッパでは同様の制度を導入している国が増えています。

 日本の場合、男性の育休制度は世界1位の水準にも関わらず、実際の取得率は13.97%と低い状態です。制度があっても、まだまだ男性が育休を取って一緒に子育てをしたり、早く帰って家事をする、といったことを許容する職場環境は整っていません。単に制度を整えるだけでなく、男性の育休取得を義務化することで、男性が子育てに参加しやすい環境を整える、ということが今後確実に求められるのではないでしょうか。

働き方の改善を子育て世代に限定させない

 そしてもう一つ、これが最も重要なことですが、子育てをしている人以外の人も、休みを取りやすい環境や長時間労働を是正していく必要があるということです。以下の表は、年間労働時間が少ない国順に並べた時に、各国の1人当たりの労働生産性とジェンダーギャップ指数の順位がどのようになるか、を表しています。

国際統計・国別統計専門サイトグローバルノートの年間労働時間および時間当たり労働生産性のデータから筆者がオリジナルで作成(https://www.globalnote.jp/post-10473.html)

 これを見ると、例えば年間労働時間が最も少ないドイツは、時間当たり労働生産性は9位で、ジェンダーギャップ指数は6位となっています。ノルウェーなどは顕著で、年間労働時間が3位、労働生産性も3位、ジェンダーギャップ指数は2位です。つまり、労働時間が少ない国は、労働生産性が高く、女性も活躍しやすい傾向にあるということです。実際にヨーロッパ、特に北欧では、1990年代に子育て環境の制度を整えるだけでなく、労働者の労働時間全体を見直す政策や法律の施行も同時に進めてきました。

 つまり、もし日本が、今のように産休育休制度の拡充を今後も行い、ヨーロッパのような男女共に子育てしやすい環境を整えていく方向性に舵を切るのであれば、子育てに直接関わらない人も含めて労働環境全体の改善と、生産性を上げていく仕組み作りが必須であるということです。むしろそうでなければ、どんなに国が制度を整えても、いつまでも子育てをする人としない人の溝は埋まりません。それは結果的に、企業にとっては、両者を平等公平に評価する仕組みを作り上げることができない、ということを意味しています。

 各国ともに、様々な課題を抱えながら、どうすれば男女が公平に仕事ができる環境が整えられるのか、試行錯誤しています。日本が向かうべき方向性はどこなのか。単に諸外国を真似するだけではなく、私たちも改めて考えて行く必要がありそうです。

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