泣ける"Brandedコンテンツ"とは何か?

2023年6月19日
全体に公開

こんにちは。フォローありがとうございます。先週Branded Shortsの審査員として、アワードに登壇してきました。今回はその審査の過程と当日の様子をお伝えできれば、と思います。

BrandedShorts2023

Branded Shorts Awardとは、「日本で唯一の国際的な広告映像部門」。企業やブランドのメッセージや理念を伝えるだけではなく、生活者や消費者にとっての価値があるか?さらに、そのコンテンツにエンターテインメント性、有益性があるか?を評価するものです。

必然性、認識変化力、シェアラブル、メッセージ力、視聴維持力、オリジナリティ、時代性、視聴後の想起力を元に審査をします。特に「時代性」をどのように評価するかが難しいポイントです。そもそもあまり定義づけされていない「時代性」を理解していないと採点できないですし、「今まではよかったけど、これは古い価値観だよね」という指摘をすることになります。コンテンツ制作者としては、時代の流行性やコンテキストを、常に自分自身の中でアップデートしていくことが必要なのですが、これは難しい作業です。

今回、日本の作品でも「時代性」のニーズにマッチしたコンテンツが出てきていました。例えば、森田剛さんがお父さん役として出演している「僕は、ずっと君の隣にはいられない。」二児の母の私として、心に刺さるポイントがたくさんあり、「感動のあまり号泣した作品なんです。」とアワードでも紹介させていただきました。

ワーキングマザーのお母さんが出張することになり、家でお父さんと子供が一緒の時間を過ごすことに。息子くんが「パパはイヤー!」という場面があるのですが、ここが共感ポイント。家族ならば誰しもが経験したことがあるのではないかと思います。またお母さんが仕事で家を空けるというのも「時代性」とマッチしているのではないかと。お父さんと息子の生活を通じて、子供の成長が垣間見れる作品なのですが、制作側としてストーリーを構成する中で、古い価値観が出てこないように、さらに共感を得るために大事な要素となります。

GettyImages

さらに、視聴維持力も大事なポイントです。途中で「あれ?これって宣伝なのかな?」と分かった瞬間に視聴者が離れるケースもある中で、最後までみてもらえなければなりません。最初からある意味吹っ切れて、わかりやすくCMなのである、と訴求を謳ってしまうか、さりげなくシーンに取り込むか、もしくは最後にやっとメッセージが伝わってくるか、など、構成力が問われるものになります。

視聴する前はストーリーがあるCMコンテンツなのだろうな、と、たかを括っていた部分があったのですが、視聴し始めてビックリ。号泣しながら映像を見ている私がいたのでした。特にインターナショナル部門では文化や言葉の違いがある中で、共感を得るのは難しい部分もあるのではないか、と考えていたのですが、かなりセンシティブな話題を美しく繊細に表現しています。

インターナショナル作品の「最も優れた作品」として選ばれた「Me, My Autism & I」では、自閉症の高校生が出てきます。

自閉症のアシュにとって、パーカーが以下に重要なのか、現実の経験に基づいた話。彼女の朝のルーティーンは些細なことで崩れてしまう、そんな彼女の心の拠り所は一枚のパーカー。そんな彼女を優しく見守る家族ではあったが、我慢できなくなってしまった姉はパーカーを隠してしまう。

このムービーでは、自閉症のアッシュの生活を丁寧に描いています。朝起きてから学校に行くまでも家族と何度もぶつかります。授業では、数学の計算を一番早く解き100点を取る、いわゆる天才性を発揮するも、誰かに少しぶつかっただけで「攻撃されている」と思い込む。学校から帰ってきたら家族がテレビを見ている中、何も気にせずにドラムを叩く。愛用している黒の「パーカー」がなければ、学校に行けないのですが、このパーカーを妹が隠してしまって・・・。

家族が疲弊している様子を見て、皆さん演技が上手だな、、、と関心していたのですが、実は主人公として出てくるアッシュは本当に自閉症を抱えていて、家族も全員本人として出演しているとのこと。

このプロセスには驚きを通り越して感動を覚えました。自閉症である自分が露出することへの葛藤はあったことが想像できますし、さらに一緒に出演しているご家族も勇気が必要だったのではないかと。出演者側も然り、製作側にとっても相当の量のリサーチやケアがあったのではないかと思います。

結局この動画のパーパスは何だったか?というと、”洗剤”だったというところも秀逸です。

「MAKING CLOTHES LIVE LONGER REALLY MATTERS」つまり、「衣服の寿命を延ばすことは本当に重要です」と伝えています。

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このようにセンシティブなテーマを短い時間で理解してもらい、企業側が伝えたいポイントを自然にうまく伝える。そして心を打つものがあり、アッシュが楽しく生活できるような社会を作っていきたいと思う。社会課題を踏まえて企業への共感を得るために計算されているコンテンツだと思いました。

アワードでもお話させていただいたのですが、あえて社会課題と掛け合わせて企業やブランドのメッセージを届ける形が多かったと思います。企業の愛や熱量を、この短い尺の中で表現するのは至難の技。難しさを通り越して感動を与えるショートムービーの役割はこれからもっと高まっていくかと。

Brandedムービーを何気なく目にする機会があると思いますが、制作の裏側を感じながらご覧いただけるとその時代に何が求められているのか、ブランディング目線としても学びがあると思います。宜しければ他のノミネート作品もご覧いただき、時代性を感じてもらえると光栄です。

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