日本企業はファーストリテイリングの賃上げに続くのか?

2023年1月12日
全体に公開

 ユニクロを運営するファーストリテイリングが3月から国内の正社員約8,400人の賃金を引き上げると発表しました。ボーナスを含めた年収の引き上げ幅は最大40%ほどになるとの報道もあります。日本でも物価上昇に家計が苦しむなかで、岸田政権は企業に賃上げを要請していましたが、大手のファーストリテイリングが動いたということは大きな一歩となるでしょう。今回は日本企業が同社の賃上げに追随するのかを考えていきます。

40年ぶりの物価上昇

 総務省が発表した2022年12月の東京都区部消費者物価指数(中旬速報値)は総合指数が前年同月比+4.0%と1981年12月(同+4.3%)以来の高い伸びとなりました。東京都区部の消費者物価指数は全国の消費者物価指数に先駆けて公表される経済指標であるため、おそらく1週間後に発表される全国の消費者物価指数も同様に高い伸び率となるでしょう。

私はSNSで「物価オジサン」を自称して、毎月物価関連のデータをtwitterで流していますから、少しだけ物価についてマニアックな話をしましょう。消費者物価指数は全国版も東京都区部版も様々なデータが算出されています。数あるデータの中で、私たちの体感に近い物価水準を確認するためには「持家の帰属家賃を除く総合」の伸び率をみるといいと言われています。この数値、2022年12月の伸び率は同+4.9%と既に5%近い伸びを見せているのです。

5%以上の賃上げが必要?

岸田政権は今年の春闘で「物価高を超える賃上げ」を労使双方に求めていますが、これは言うほど簡単な話ではありません。仮に今年の春闘で企業が連合の求めている5%の賃上げをしたとしても、十分ではないのです。なぜかというと、賃上げ率には定期昇給分が含まれるからです。定期昇給というのは若ければ賃金が上がることを指しますが、一方では定年に伴って賃金が激減する人も多くいるので、世の中の全体でみると賃金は実質的にそれほど変わらなくなります。一般的に定期昇給分は1.8%ぐらいの上昇幅になるとされていますので、定期昇給分を除いた賃上げ、いわゆる「ベースアップ」だけで5%近い上昇が必要となります。

 厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査によると、2022年11月分の実質賃金は前年同月比-3.8%となっており、これで前年比マイナスになるのは8カ月連続となります。半年以上も賃金が物価上昇に追い付いていない状況にあり、十分な賃上げが達成されなければ家計はどんどん節約に走るようになるため、企業もいつまでも価格転嫁の値上げを続けられなくなります。

ファーストリテイリングはグローバル企業

 それでは、日本企業はファーストリテイリングの賃上げに続くのでしょうか。結論から言えば難しいでしょう。もちろん、多少の賃上げはするでしょうが、多くの日本企業、特に中小零細企業は5%以上の賃上げはしないと思います。そもそも、ファーストリテイリングはグローバル企業です。同社の2022年8月期における通期の売上収益を見てみると、国内ユニクロ事業は8,102億円。対して海外ユニクロ事業は1兆1,187億円と既に海外における売上収益の方が大きくなっています。

 グローバル企業からすれば、日本国内の事業部門の賃金をグローバルと同じ水準まで引き上げていかなければ、人材獲得などの面からも問題が生じますので、冒頭に紹介したような大幅な賃上げをしますし、そもそも価格転嫁がしやすい海外に多くの市場を持っているわけですから、賃上げするだけの体力もあります。

 一方で、価格転嫁が難しく利益率が上がりにくい国内市場が売り上げのほとんどを占めるような日本企業ではそれほど賃上げを期待することはできませんし、多くの日本人が勤めている中小零細企業にいたっては、賃上げどころか人員整理などすらも行われる可能性もあるでしょう。

 記事を書きながら、私の年収も最大40%ぐらい増えるといいなぁ、、、と思いつつも、それはなさそうで、悲しくなってきたので今回はこの辺りで筆を置きます。

写真:GettyImages

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