【ヨッピー】バズる企画の方程式は、広さと深さと距離感

2016/2/13
「異才の思考」第3弾は、ライターのヨッピー氏が登場する。今やウェブのコンテンツ業界で「最も数字を稼ぐ」ともいわれるヨッピー氏。2015年は、「市長って本当にシムシティが上手いの? 千葉市長とガチンコ勝負してみた」が大きな反響を呼んだことも記憶に新しい。
そこで、彼のコンテンツに対する思いや、その理論、さらにはNewsPicksのコンテンツ批評まで、「真剣」に答えてもらった。

原点にあったのは、さびしさ

──現在では面白系コンテンツから社会的なネタまで扱うヨッピーさんですが、初めにウェブライターになった経緯から伺えればと思います。
ヨッピー インターネットで文章を書きだしたのは19歳の頃からですね。今35歳で、あれから15年も経ってるわけですからわれながら「何やってるんだろう……」ってなりますね。
僕は学生時代の頃って「クラスのお調子者」みたいなポジションにいたんですね。わりと人気者だったと言いますか。
だけど、初めてインターネットにつないで「ワーイ! 世界とつながったー!」って喜んでたら、誰も僕のことを一切知らないんですよ。ただの名無しさんでしかないと言いますか。当たり前なんですけど。
それまでの世界って、中学とか高校とか地元とか、全部「顔見知り」で構成されてる世界じゃないですか。でもいざネットの世界に飛び出してみたら誰も僕のことを知らないし、僕も誰のことも知らない。
──当時は、SNSの時代でもないですからね。
今だったらリア友とフェイスブックで友達になって、みたいなところからスタートできますけど、僕が周りでネットに手を出したのが一番早かったんです。だからインターネットに居るのは本当に全部顔もわからない他人だけなんですよ。
これまで、どこに行っても「ヨッピー、ヨッピー」と呼ばれていたのに、ネットだと誰も僕のことをそう呼んでくれない。拾ったエッチな画像を解凍するパスワードがわかんないから2ちゃんねるで聞いてみたら「初心者はすっこんでろカス」とか「二度と来るな」「半年ROMれ」とかボロカスに言われるんです。
こっちはもう半泣きですよ。相手にしてもらえないし、エッチな画像も結局見れないし。
──ネットの世界では、踏んだり蹴ったりだったと。
たぶんね、ネットで変なことやりだしたのって、今思えばネットに自分の居場所がなかったのがさびしかったからなんですよね。
そこで、最初にまずどうにかして自分の居場所をつくりたいなと思ったんです。当時はブログもない時代なんで、いわゆるホームページをつくるしかないんですよね。それでYahoo!のジオシティを借りてホームページをつくったんですよ。死ぬほどダサいやつを。
で、ホームページつくったはいいけど、今度は載せるコンテンツがないんですよね。今のように動画の時代でもないし、そもそも写真ですら「重くなる」って嫌われた時代なんで。だから、何かやりたいな、と思ったら日記を書くくらいしかないんですよ。
そこで、当時のバイト先の店長が大嫌いだったんで、「空想上で店長を惨殺する日記」とかそういうのを書き始めたんですね。基本的にひどいことしか書いてません。
この日記が、なぜか、まあまあ人気があったんですよ。全部その延長線上に、今がある感じです。「インターネットにひどい事を書く」っていう意味では15年前と何にも変わってないです。ほんとに何やってるんですかね、僕は。
──リアルで人気者だったら、普通はそれだけで満足しちゃいそうですけれどね。
それが全然満足していなかったんですよ。僕は学生時代から変なことをやりたがる習性がありましてですね。
たとえば、高校生のときは、友達と一緒に「街でダサい服を探して買って、誰が一番ダサいか決めるゲーム」なんてことをしてました。僕、2014年に「10万円でダサい服を買う」みたいな企画をやったんですが、あれの原型と言いますか。ダサさで5位以内に入らないと、1日中その格好でいなきゃいけないっていうルールで。
そういう遊びが好きだったんで、友達にいろいろ提案するんですけど、だんだんエスカレートしていくにつれ、みんな渋り始めるんですよ。「カネがない」「何が楽しいんだ」って。
まあそんな感じで、「面白いことをしたいのに、一緒にやってくれる人がいない」みたいなストレスを抱えてたんですけど、ネットをのぞくと、なんか変なことをしてる変な人たちがたくさんいたんですよ。
カップラーメンにオロナミンC入れて食べるとか。援助交際してる女子高生に説教するとか。「わあ! アホがいっぱいいるー!」ってすごくテンションが上がって。それでネットで面白い日記を書く人たちとネットを通じてたくさん知り合いになったんです。
それから大学を卒業して会社に就職して、上京したことをきっかけにネットで仲良くなった人とリアルで遊ぶようになりまして。
そんな縁もあって、「オモコロ」っていう、僕が属してるクズの吹きだまりみたいなメディアに誘っていただいたんですけど、みんな、身銭を切って、手間暇かけてくだらないことをしてキャッキャ笑ってるんですよね。僕が何か提案しても「面白いじゃん。やろうやろう」ってすぐになるし。それがすごく居心地がよかったんですよ。
ヨッピー
1980年、大阪生まれ。関西学院大学を卒業後、商社で約7年勤務。退職後は“無職”のライターとして活躍。現在は「オモコロ」のほか、数多くのウェブ媒体で執筆している。

一生笑い続けられる方法を探した

──とにかく「面白いことがしたい」という価値観がベースにあったんでしょうか。
「面白いことがしたい」って言うとなんか語弊あるかもしれないですね。
ちょっと真面目な話をすると、やっぱり誰しもが人生楽しく生きたいじゃないですか。そこで、「楽しいって何なの?」って考えた時期がありまして、「なんだろうなー」って悩んでてピンときたのが「笑っていること」なんですよね。「当たり前だろ!」って怒られそうですけど、楽しく生きるっていうのはたくさん笑うっていうことと同義なのかなと。
じゃあ、「どうしたら一生笑い続けられるのか」と考えたら、「面白いやつと一緒にいることだ」と思ったんですよ。「笑える」っておカネを稼ぐことでも高い服を着ることでも高いものを食べることでもないんですよ。たっかいステーキ食べながら笑ってる人が居たら高確率で悪人ですからねそれ。黒幕みたいなやつ。
だってね、たとえば、つまんないやつと六本木のビルの上のほうで3万円のコースとか食べてもつまらないじゃないですか。でも、自分が大好きな面白い人となら上野の立ち飲み屋でも楽しく過ごせるんですよ。ねえ? 読んでる人、たぶん今めっちゃうなずいてますよ。
で、そこから、「どうしたら、面白い人たちとずっと一緒に居られるのか」って考えたら、「自分が面白くないとダメだな」って気づいたんです。面白い人って絶対面白い人と一緒に遊んでるんですよね。面白い人たちは面白い人たちで固まるようになってるんですよ。
いや別に僕なんて何にも面白くないんですよ。ただ、「面白い風」に見せるのが得意っていうだけで。どうにかこうにか自分を「面白い風」に見せかけ続けて、周囲をだますことによって「本当に面白い人たち」の輪に入れてもらってる、みたいな感じです。
──ヨッピーさんは大学卒業後、意外にも商社に入社しています。そこでは面白いと感じられなかったのでしょうか。
会社が面白くなさすぎて、びっくりしましたね。こんなに面白くないの? ウソでしょ? って。何かのドッキリなんじゃないかな? って。まあそれでも7年は働いたんですけど。
積極的に辞める理由もなかったんですけどね。給料は普通よりも高くて、そんな激務でもないし、いい人もたくさんいましたから。でも、これは一生の仕事じゃないなと思いましたね。だって、僕は楽しく人生を過ごしたいって随分前に決めたんですもん。面白い人たちの近くに行かなきゃって。
で、「転勤の辞令が出たら辞めよう」と早々に決めたんです。転勤になって東京から離れたら、入社後も、仕事の合間にずっと続けていたオモコロの活動ができなくなりますから。東京最高です。

炎上はさせたくない

──そんなヨッピーさんのコンテンツは、面白さと同時に社会に訴えて反響を呼ぶものもありますよね。つくり手として、モチベーションの源泉はどこにあるのでしょうか。
「社会に訴える」みたいなタイプの記事ってそんなには書かないんですけど、そういうときはだいたい「怒り」じゃないですかね? これ、僕以外にも同じ人たくさん居ると思うんですけど。
ベビーカー論争の記事」なんて、まさにそうですよ。以前、ベビーカーを電車に乗せるのが良いか悪いのか、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論していたときに、何を言っているんだろうなと思ったんです。おまえらだって子どもだったじゃんと。実際に子育てしだしたら、そんなこと言えるわけがないと物申したかったんですよ。まあ、独身なんですけど。
でも、普通に「ベビーカーのどこが悪いんじゃい!」なんて言ったところで反対派からボッコボコに叩かれて終わりじゃないですか。なんとか説得力持たせたいな、って。
それで、「1日お母さん」をするっていう企画を立てたんです。僕がお母さんになって、朝からずっとお母さんの仕事を体験するんですよ。3歳児の面倒見ながら。カツラかぶってエプロンつけてたんで、コントに出てくるオバハンみたいな風貌でしたけど。
いざやってみると、事実として子育ては腰にくるし、体力的にもきついわけです。それを伝えたうえで、「だから、ベビーカーは必要ですよ」という結論にしたんですよね。そしたら、反論なんて全然出なかったんです。まあ、そこまでやって、体験して、それを見せたうえで言われたら、なかなか面と向かって文句言えないですよね。
──怒りがあったとしても、単純に文句を言うだけじゃダメだと。
そうですそうです。相手を説得する最善の方法は、「相手の反発を買わずに自分の意見を通す」っていうことですから。「批判を恐れずに言いたいことは言うべき」みたいな意見には賛同できないですね。
人に理解してもらう前提じゃない限り、そういう思いはただの自己満足で終わっちゃってあんまり価値ないと思いますよ。反発がある限り人は絶対に動きませんから。せっかく伝えたいことがあるならちゃんと伝わるように伝えなきゃもったいない。
批判を恐れたうえで、相手にどうやって受け入れてもらえるかを模索しないとダメなんじゃないかと思います。
炎上させたくはないんですよ。だって、ネットが楽しくなくなっちゃいますから。楽しくてネット始めたのに本末転倒になっちゃう。それでPV稼いでお金儲けたとしても、人を傷つけることの対価としての報酬ですからね。あんなもん完全に通り魔じゃないですか。
全体的に偉そうですいません。

バズるコンテンツの方程式

──ヨッピーさんは、ウェブライターの中で最も数字を稼ぐといわれることもありますが、面白いコンテンツづくりに方程式はあるんですか。
僕は3つ軸があると思うんですよ。バズるコンテンツの方程式は、「広さと深さと距離感」の3つです。これ、テストに出ますよ。受かっても誰も褒めてくれないテストに。
広さは、幅と言ってもいいんですけど、つまり「どれくらいの人たちのためのコンテンツなのか」っていうことですね。
たとえば、鳥取のおいしいラーメン屋よりも、東京のおいしいラーメン屋のほうが受け手の人口が多いので、当然広いじゃないですか。だから、まずこの「広さがどれくらいあるのか」っていうことを考えるんですね。
以前、山梨県に行って遊ぶ記事を書いたことがあるんですけど、「山梨県で遊んできました」っていう記事にすると、地元の人は喜びますけど、それだけだと対象が狭い。
じゃあどうするかっていうと「東京から1時間で行ける山梨」という構成にするんですね。そしたら山梨の人だけじゃなくて東京の人が対象に入ってくるので一気に広がりが出るんですよ。そうやって方程式を当てはめている感じです。
──企画だけでなく、構成でも受け手のボリュームを拡大させると。
そうそう。で、次の「深さ」はそのコンテンツに対して、「どれくらい思い入れがあるか」っていうことですね。仮にごく少数の人にしか興味を持たれないことでも、その人たちにとってめちゃくちゃ深く刺さると、局所的に数字が取れるんですよ。懐かしいもの、とかがわかりやすいですかね。
「Windows95でノマドする」っていう記事を書いてすごくウケたんですけど、これは「広さ」の観点からすると対象が狭いんですよ。現役で使ってた世代って30歳以上の男性とかになりますから。でも、みんな思い入れが強いから深く刺さるんですよね。
「広さ」に比べると「深さ」に関しては、結構計算できない部分もあるので難しいんですけど、やっぱり書き手の熱量とか思い入れとかが大事なのかなって思ってます。どれだけ気合いを入れてそれに関わっているかどうかで全然違ってくる。
──そして最後に、「距離感」が大事だと。
やっぱり受け手に感じさせるコンテンツの「距離感」で、感情の動きや共感の度合いがまったく変わってきます。近いと感じられたほうが関心を持ってもらえるのは当たり前なんですけど、意外と忘れられてるのかなぁって。
例として出すのはアレかもしれませんが、テロの報道なんかはそうですね。フランスのテロ事件はすごく話題になるけれど、レバノンだとそこまで大きく取り上げられない。それも距離感の問題なのかな、って。少なくとも日本人にとってはフランスのほうが心理的な距離が近いんですよね。
──コンテンツについて、非常にロジカルにつくられているんですね。
僕は理屈っぽいんですよ。キャバクラ行くときもコスパとか調べまくりますからね。地域的な相場とか。「中央線沿いが安いぞ!」みたいな。まあもともとが面白くない人間なんで理屈で取り繕わないとやってけないんです。本当に面白い人なら感覚でやっていけるんでしょうけど。
──2015年に話題を集めたシムシティで市長と対決した記事は方程式の典型かもしれません。
そうそう。あれもシムシティというネームの強さなんですよね。やっぱりスーパーファミコンでやっていた人もたくさんいるゲームなので「広さ」は十分あると。そして懐かしいっていう「深さ」もある。
あれ実際にはクライアントから新しいアプリで対戦してほしいって言われたんですけど、それだと同じシムシティでも「深さ」が取れないんですよ。見てる人の思い入れがないんで。「距離感」で言えば、千葉市長っていう、本来であればすごく偉い人が、僕みたいなインターネットのいちライターの位置まで降りてきてくれた。
ね。ちゃんと3つそろってるでしょう? 無理やりこじつけた感がないでもないですけど。

ネットメディアは、もっと頑張れ

──ヨッピーさんがコンテンツをつくるときに、この方程式と併せて心がけていることはありますか。
もうほんとに、すごくアホみたいな発言なんですけど、単純に、「頑張る」ということですね。僕、今のネットメディアが足りていないのは、そこだと思っているんですよ。労力が足りてない。
だいたい取材もせずに、「こういうことがあったらしいです。みなさんいかがでしたか?」みたいな記事ばっかりじゃないですか。あんなもん小学校の宿題で出したって「ちゃんと自分の意見を書きましょう」って先生に赤字で書かれますよ。
何でもうひと手間かけないのかなって思うんです。「こういうことがありました。だからこの人に話を聞きました」っていうチョイ足しで立派な記事になるのに、その手間を惜しんでる。
「おいしいラーメン屋さんができた」という記事を書くときに、取材に行かずに公式ホームページから画像をパクって記事つくるじゃないですか。「良い温泉あるよ」っていう記事でも公式サイトから画像引っ張ってきたり。なんで「撮影させてください」の一言が言えないのかなって思うんですよ。読者がコタツに入って読んでるのに、書いてる側もコタツに入っててどうすんだって話です。あ、今良いこと言いましたね僕。
まあ確かに頑張ると記事は量産できないんですよね。ちゃんと取材して撮影して一次ソース当たってたら。
でも、逆に言えば今量産できてる人は、その程度の記事しかつくっていないということじゃないかなぁって思ってます。

今つくるなら、こんなコンテンツ

──先ほどのシムシティをはじめ、多くの広告記事をも手がけられていますが、面白さの追求とクライアントの意向の間で闘うこともあると思うのですが、その点はいかがでしょう。
もちろん、場合によっては修正することもありますけど、こっちがへそを曲げてけんかすることもありますよ。僕、ゴネるのめちゃくちゃうまいんですよ。ゴネ王って呼ばれてますし、知り合いのクリエイターに「ヨッピーのゴネ講座」とか開いたりしてますもん。
シムシティの記事も、皆さんに褒めていただきましたけども、あのかたちになるまでに、裏側で結構ギリギリのせめぎ合いはありましたからね。
あからさまなちょうちん記事なんて書きたくない僕と、なんとかちょうちん記事にしたいクライアントの間でっていうのがわかりやすい構図ですけどね。
とは言え、僕はフリーランスでけんかしたところで誰からも怒られないので、最悪の場合は「もうやめる!」って言うんですよ。「じゃあもうやめましょう! 別におカネもいらないしかかった経費も全部自腹で払ます!」って。
でもそれぐらいの勢いで怒ると割と何とかなっちゃいますね。折れてくれると言いますか。
インタビュー中、突然「オウ! タマとったれや!」とどこかに電話して怒鳴るヨッピー氏。
──それでは、何も制限がないとしたら、今どんな広告記事をつくりたいですか。
ハンマー投げの室伏(広治)選手が、クライアントの商品をひたすら投げるっていう企画をやりたいですね。
「この商品は○○メートル飛びました」って。絶対ウケると思うんですよ。室伏すごいなーって。室伏やるじゃん、って。「室伏が投げると、飛ぶ!」っていうキャッチコピーで売り出すんですよ。「一体何のPRなんだろう……」と思われるくらいがちょうどいいのかなって。
今なら、ラグビーの五郎丸(歩)選手が、ひたすら蹴り飛ばし続けるというのもいいですね。最新式のスマホを蹴っ飛ばして何メートル飛ぶか測るっていう。「五郎丸が蹴ると飛ぶ! 最新型スマホ!」みたいな。
さっきから何の話なんですかね、これ?
後編へつづく。
(写真:福田俊介)