日本語を母語としない俳優による現代日本批判劇 チェルフィッチュ『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』

2023年8月27日
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岡田利規は、今や日本よりも国際的に人気となっている演劇作家である。その最新作『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』が、彼の主宰する演劇カンパニー〈チェルフィッチュ〉で世界初演された(2023年8/4~7@東京・吉祥寺シアター)。このプロジェクトは公演前からすでに話題となっていたが、その理由は日本語を母語としない俳優と日本語劇を創作する試みだったからだ。

そもそも日本語を母語としない俳優による日本語劇を創作しようと考えたきっかけは、岡田が2016年から4シーズンにわたり、ドイツ・ミュンヘンの公立劇場ミュンヘン・カンマーシュピーレでレパートリー作品の創作に携わったことだったという。ドイツの公共劇場では、アンサンブル(劇団、舞踊団、オーケストラ、合唱団等)が劇場専属で組織されているのが基本である。所属するアーティストには国外からの難民や移民もあり、ドイツ語を母語としない俳優もいる。彼らと出会ったり、舞台を観にくる観客と接していて気づいたのは、ノン・ネイティブの俳優が話すドイツ語の流暢さではなく、本質的な演技力に対して評価がなされる環境があることだった。

※以下は、2022年7月17日(日)に行われたトークイベント「チェルフィッチュによるノン・ネイティブ日本語話者との演劇プロジェクトについて考える」のアーカイブ配信(YouTube)

翻って日本では、ノン・ネイティブの日本語話者は発音や文法が「正しくない」と批判されたり、本人の演劇的な能力とは関係なく排除される現状がある。テレビドラマや映画では日本語ネイティブの俳優が日本人役を演じるが、よりフィクショナルな演劇の舞台ではノン・ネイティブの日本語話者が配役される可能性はないのか? 日本語ネイティブの優位性が逆に日本語劇の可能性を狭めているのではないか? と考えた。

※以下は、2021年にチェルフィッチュが主催した「日本語を使った演劇ワークショップ」のレポート(note)

そこで、日本語を母語としない俳優と創作する日本語演劇を発想した。2021年に日本語を母語としない人を対象に日本語を使った演劇ワークショップを始め、ワークショップ参加者を対象にオーディションを実施して、選ばれた4名とともに新作を作品化したのだ。

宇宙SFの設定で現代日本を批判

乗組員アラシ・ナニシヲナバ(写真右:ネス・ロケ)は「宇宙の音楽」について話しはじめる ©︎前澤秀登

舞台は、宇宙船イン・ビトゥイーン号の船内。地球の言葉(日本語)を宇宙に広めるという重大なミッションを背負い、旅立った4人の乗組員たちと一体のアンドロイドがいる。彼らはワームホールを抜け、太陽系の外に出たところで、未知の地球外知的生命体と出会うのだったが……。

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