ブラック企業、中国に情報、脳に悪い……快進撃のTikTokにアメリカでそろり総口撃

2022年5月10日
全体に公開

中国発のショート動画共有アプリTikTok(ティックトック)の快進撃がとまらない。

米調査会社Insider Intelligenceによると、2022年の広告収入は前年の3倍に当たる約120億ドル(約1兆5000億円)に達し、TwitterとSnapchatの合計を上回る見通しとなっている。さらに24年にはYouTubeを超えると予測される。 
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アメリカでは2020年8月、トランプ大統領(当時)が国家安全保障上の脅威だとして、TikTokを米国企業に身売りするか、米国で禁止するとの大統領令に署名した。運営会社のバイトダンスは買い手を探し、オラクルとウォルマートが候補に挙がった。

ただ、バイデン政権となってからは「TikTok禁止令」を取り消すと発表。売却話も棚上げとなった。

事態は沈静化したように見えたが、最近は広告収入でアメリカのテックをしのぐ勢いを見せているとしばらく報じられてきた。そしてここにきて、TikTokの調子が良すぎるからだろうか。露骨に口撃する報道が現地で相次いでいる。

WSJ「社員、タンポンを取りに行けずに血を流した」

5月6日にWSJ(ウオールストリートジャーナル)が報じた特集記事の見出しはこうだ。

TikTokの職場文化。不安、秘密主義、絶え間ないプレッシャー元米国人スタッフが語る 睡眠不足、週末出勤、地球の裏側にいる同僚との強制会議

記事の中身は、ローンチから間もないTikTokが、アメリカでグローバル市場を伸ばすために、過酷な労働環境で働かせているという「実態」について、従業員らの証言として紹介している。

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その中身は妙に生々しい。

元従業員は、体重の増減やストレス、感情の落ち込みが激しく、セラピーを受けたと語っています。ある社員は、TikTokでの連続したミーティングに出席しなければならないというプレッシャーを感じ、タンポンを取りに行くために席を外す代わりに、パンツから血を流してしまったと語った。

中国でテックやIT企業といえば、「996問題」が大きな話題となった。

「996」とは「朝9時から夜9時まで、週に6日間働く」(1日12時間労働、休みは週1日)という意味で、若いプログラマーたちが告発サイトを立ち上げたことで注目が集まった。

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WSJの記事は、TikTokがこれを地でいっているというトーン。「TikTokの従業員の扱われ方は、TikTokのプラットフォームが象徴するものと正反対だ」という退社したアメリカ人社員のメモで記事を締めている。

NYT「中国政府の意向に弱い。見た目以上に危険な存在」

NYタイムズが5月8日に配信したオピニオン記事は、タイトルが「TikTokは見た目以上に危険な存在かもしれない」という直球の批判だ。

わずか数年で急成長したことに触れて、TwitterやYouTube、Facebook、Googleよりも勢いがあるとした上で、「TikTokの所有者はバイトダンスという中国企業です」と切り出す。

そして、中国企業は中国政府の気まぐれや意向に弱いのです。(略)中国共産党は昨年、ハイテク産業の取り締まりに力を注いだ。特に、アリババの創業者であるジャック・マーは代表格だ。メッセージは明白だった。CEOは、党の意向に従って行動しなければ、人生を狂わされ、会社を解体されるのだ。

こうして中国企業のアメリカでの動きを警戒するべきだと主張する。

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なかでも、危険視するのは、イーロンマスクのTwitter買収でも話題となったアルゴリズムだ。スマホの画面に何をどのタイミングで表示させるかというSNS運営会社が流入や広告収入につなげる「秘伝のタレ」である。

TikTokの本当の力は、私たちのデータに対するものではありません。ユーザーが見るもの、作るものを支配しているのです。何が見られて、何が見られないかを管理する不透明なアルゴリズムの上にあるのです。

こう主張して、日頃はトランプに批判的なNYTがオピニオン記事とはいえ「これについてはトランプが正しく、バイデン政権は彼が始めたこと(大統領令)を完了させるべきだ」と意見を結んでいる。

NBC 10 NEWS「脳に与えうる意外な影響」

5月9日に配信されたNBCの記事は、ネット中毒の危険性をTikTokを例につらつらと説明している。

ここでも話題はアルゴリズムだ。

研究者たちは、よく練られたアルゴリズムが、脳とその注意散漫さを訓練する能力を持つ可能性があると考えています。
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さらに、児童・思春期精神科医が、TikTokのショート動画では「即時の満足」を得るだけでなく、アプリを閉じた数時間後に脳に影響を及ぼしているかもしれない、と指摘。

TikTokをスクロールすることで、即時の満足感や即時の報酬を得ることに慣れてしまうと、子供たちは本を読むことが難しくなるのではないかと心配です

これってTikTokに限った話ではなくて、スマホ中毒の問題では?と突っ込みたくなる内容だが、ひたすらTikTokを名指しで警鐘を鳴らしている。

これらの兆候をどう解釈するか、今後どういう展開となるか。わからないことは多い。一つだけ言えるのは、好調すぎるTikTokに、アメリカでは党派を問わず、警戒心や敵意がまたぞろ強まっていることだ。

    ◇

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