CxO間のコラボレーションの強度は企業のパフォーマンスに大きく影響する

2024年1月30日
全体に公開

経済産業省は2024年1月17日、「第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会」を開催しました。この中から、経営基盤に関する課題と、C-suiteの進化と展望について解説したいと思います。

この四半世紀にわたり、日本企業は成長戦略として海外市場の獲得に注力してきました。特にリーマンショック以降、海外売上比率が急速に増加し、グローバルでのビジネス運営が不可欠となりました。これにより、従来の日本的経営スタイルは大きな変革を迫られています。

一方、米欧の先進グローバル企業は、1980年代から、経営の複雑性に対応するためにC-suite2.0としてCxO(C-suiteのメンバー)制度を導入してきました。これに加えて、2010年代からはCxO間のコラボレーションを重視する 「C-suite3.0」へと移行しています。

日本企業では、CxO制度を導入している企業は約50%にとどまり、多くの場合、権限委譲が進まず、縦割りの組織構造が根強く残っています。また、国内外に多くのエンティティが存在し、機能の重複も指摘されています。

特に、多くの日本企業では経営戦略を担う部署と財務戦略を担う部署が分かれており、先進グローバル企業で標準となっているFP&A(財務計画・分析)機能の導入に遅れが見られます。

さらに、企業経営の意思決定、モニタリング、分析を行うためのデータや情報を収集・活用するための経営基盤(ERPシステム、業務標準化など)の整備でも、先進企業に比べて大きな遅れが見られます。

C-suiteの進化

近年、デジタル変革や市場のダイナミズムが増す中で、C-suiteの構成や役割が大きく進化しています。

従来のC-suiteは、CEO、CFO(最高財務責任者)、COO(最高執行責任者)などの基本的な役職に限られていました。しかし、テクノロジーの進化や市場ニーズの多様化に伴い、CIO(最高情報責任者)、CTO(最高技術責任者)、CMO(最高マーケティング責任者)などの新しい役職が登場しています。

さらに、デジタルトランスフォーメーションを推進するCDO(Chief Digital Officer)、法的リスク管理を専門とするCLO(Chief Legal Officer)、従業員の福祉と組織文化を司るCHRO(Chief Human Resources Officer)、サプライチェーンの最適化を図るCSCO(Chief Supply Chain Officer)、製造業の革新を担うCMfgO(Chief Manufacturing Officer)など、特化した役割を持つC-suiteメンバーも登場しています。

それぞれのC-suiteメンバーの役割について詳しく解説しましょう。

CEO(Chief Executive Officer)
CEOは、企業の最高経営責任者であり、組織全体の戦略と方向性を決定します。企業のビジョンを設定し、企業文化の構築、主要な意思決定、外部との重要なコミュニケーションなどを担当します。また、株主や取締役会への報告責任も負います。

CIO(Chief Information Officer)
CIOは、企業の情報技術(IT)戦略とシステムの管理を統括します。データ管理、ITインフラの整備、サイバーセキュリティの強化などを担当し、ビジネスの効率化とイノベーションを支えます。

CDO(Chief Digital Officer)
CDOは、デジタルトランスフォーメーションに重点を置く役職で、デジタル技術を活用してビジネスモデルや顧客体験を変革します。企業全体のデジタル戦略を策定し、新たなデジタル機能の導入をリードします。

CLO(Chief Legal Officer)
CLOは、企業の法務責任者であり、法的リスクの管理、コンプライアンスの確保、企業ガバナンスの強化を担います。契約管理、訴訟対応、規制対応など、企業法務のあらゆる側面を統括します。

CHRO(Chief Human Resources Officer)
CHROは、人事戦略のトップであり、人材の採用、育成、評価、報酬などを含む人事管理全般を統括します。また、組織文化の醸成、従業員エンゲージメントの向上など、従業員関連の重要な施策も担当します。

CMO(Chief Marketing Officer)
CMOは、企業のマーケティング戦略の最高責任者です。ブランド管理、市場調査、製品のプロモーション、顧客関係の構築といった業務を通じて、企業の市場シェアの拡大とブランド価値の向上を目指します。

CTO(Chief Technology Officer)
CTOは、技術開発の責任者であり、新技術の研究開発、製品開発、技術戦略の策定を行います。企業の技術革新を推進し、競争優位を確立するための重要な役割を担います。

CSCO(Chief Supply Chain Officer)
CSCOは、サプライチェーンの最適化を担当する役職です。調達、生産、物流、在庫管理など、製品の供給に関連する一連のプロセスを統括します。効率性の向上とコスト削減を目指します。

CMfgO(Chief Manufacturing Officer)
CMfgOは、製造業における製造運営の責任者であり、製造プロセスの効率化、品質管理、技術革新などを統括します。製品の生産性の向上とコスト削減、持続可能な製造方法の実現を目指します。

これらのC-suiteメンバーは、それぞれの専門領域において重要な役割を担い、企業全体の成功に寄与しています。ビジネス環境が急速に変化する中、彼らの戦略的な意思決定と実行力が、企業の成長と革新を牽引する鍵となります。

コラボレーションモデルとしてのC-suite3.0へ

C-suiteの役割は、単に部門の管理や運営に留まらず、企業戦略の策定、変革の推進、そして持続可能な成長の実現に不可欠となっており、あるべき姿は時代のとともに進化しています。

各領域で責任を負うCxOに権限を委譲するC-suite 2.0モデルが続いていましたが、現在はさらなる経営の複雑化に対応するためのコラボレーションモデルとして、「C-suite3.0」に移行が進んでいます。

世界におけるCXの潮流:C-suiteの進化 / 出典:経済産業省 第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2024.1

例えば、製品開発においては、CMOの市場分析、CTOの技術開発、CMfgOの製造プロセス、CSCOのサプライチェーン管理が密接に連携する必要があります。このように、各役員が専門知識を持ち寄り、相互に協力することで、企業全体の戦略的目標を達成することができるのです。

実際に、CxO間のコラボレーションの強度は企業のパフォーマンスに大きく影響しているといいます。

EYの調査によると、CFO とCHRO のコラボレーションが促進されている企業では、EBITDAが増加し、業務の生産性が向上して社員の意欲が高まるなどのメリットがあることが報告されています。

また、Workdayの調査によると、財務部門のリーダーの68%が、「IT 部門と財務部門が同じ言葉を話していないため、CIO とCFO のコラボレーションの効果があまり上がらない」と回答しています。

C-suiteの進化は、企業の競争力を高め、新たな市場機会を生み出す源泉となっています。それぞれの専門性を活かしつつも、コレボレーションモデル 「C-suite3.0」は、組織全体としての一体感を保ち、変化に柔軟に対応する経営体制が今後ますます重要になってくるでしょう。

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