令和6年改定:薬価の乖離率は6.0%に!

2023年12月6日
全体に公開

 医薬品に関する価格調査の結果が報告され、保険償還価格と市場実勢価格の乖離が縮小傾向にあり、近年では最小となったことが分かりました。薬価の引き下げ財源は、診療報酬本体(医科・歯科・調剤の技術料)の財源に充てられてきた歴史があるので、各方面で注目度の高い調査です。

市場実勢価格に基づく薬価の見直し

  特定保険医療材料と異なり、薬価は毎年、市場の実勢価格に合わせた価格改定が行われます。下図のように、各品目の卸売販売価格の平均値に、一定の調整幅(2%)を加えた額が新たな償還価格となります。この調整幅は、医療機関の平均的な購入価格の保障という考え方に基づき、流通の安定のために設定されているものです。

中医協資料

薬価基準制度のあらまし

 薬価基準が設定された当初の価格改定は、バルクライン方式と呼ばれる方法で価格改定が行われました。これは、取引量を安い方から高い方に並べて、◯%の数量をカバーする一点を薬価とする方法でした。最初に実施された昭和26年は80%、昭和28年以降は90%に基準が設定され、価格の見直しが行われました。

 その後、価格の不自然なばらつきを是正し、実勢価格をより適切に反映するために、バルクライン方式を廃止し、R幅(リーズナブルゾーン)方式に変更されました。これは、薬価調査で得られた加重平均値に、一定の合理的な価値幅を加えた値として計算されました。加重平均値そのものを薬価とすることは、安定的な購入に支障を来たす懸念があったため、「実費保障」という考え方の下、取引条件の差異等による合理的な価格幅としてR幅が加えられたのです。R幅の値は、平成4年度には15%でしたが、塁次の改定で見直され、平成10年度には5%になっていました。

 最後の大規模な見直しは、平成12年に行われました。R幅方式の「実費保障」という思想に代え、「平均的な購入価格の保障」という思想で、調整幅方式が導入されました。計算方法自体は変わりませんでしたが、調整幅は2%に設定され、以降、今に至るまで変更されていません。

価格改定に向けた薬価調査(令和5年度)

 市場実勢価格を把握するための調査については、客体数が膨大で非効率になることから、医療機関ではなく、卸売業者に対して行われています(医療機関に対しては、検証用に一部、調査を行っているのみ)。診療報酬改定の前の年の9月に行われた取引について、品目ごとに販売数量・販売価格が調査され、価格改定の基礎的資料となります。

 この調査結果が12月1日に公表されました。保険による償還価格と医療機関における購入価格の平均乖離率は6.0%という結果でした。下表を見ていただくと分かるとおり、これは近年の改定では最低の数値です。

中医協

 昭和47年にとりまとめられた中医協の建議において、「薬価の引き下げによって生ずる余裕は技術料を中心に上積みする」と記載されてから、薬価の引下げ分は診療報酬本体(医科・歯科・調剤の技術料部分)の財源として活用されてきました。近年、そのような通例は変わりつつあるようですが、引き続き、薬価改定財源の活用の仕方は議論の焦点になっています。年末の改定率合意に向けて、議論が逼迫していきそうです。

文責:田村 圭

依頼・問い合わせは右記まで:health_policy@tamurak.co

参考文献:

  • 中央社会保険医療協議会協議会総会「令和5年医薬品価格調査(薬価調査)の速報値」(2023年12月1日)
  • 中央社会保険医療協議会薬価専門部会「令和6年度薬価改定について⑤」(2023年8月30日)
  • 医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会「医薬品の安定供給について②」(2023年3月17日)
  • 中央社会保険医療協議会総会「令和4年度診療報酬改定に対する二号(診療側)委員の意見」(2021年12月8日)
  • 中央社会保険医療協議会総会「令和2年度診療報酬改定に対する二号側(診療側)委員の意見」(2021年12月6日)
  • 中央社会保険医療協議会総会「医薬品価格調査(薬価本調査)の速報値について」(2019年12月4日)
  • 中央社会保険医療協議会総会「医薬品価格調査(薬価本調査)の速報値について」(2017年12月6日)
  • 中央社会保険医療協議会総会「医薬品価格調査(薬価本調査)の速報値について」(2015年12月4日)
  • 中央社会保険医療協議会総会「医薬品価格調査(薬価本調査)の速報値について」(2013年12月6日)
  • 財政制度等審議会財政制度分科会「社会保障②(平成26年度予算編成の課題等)」(2013年10月21日)
  • 中央社会保険医療協議会総会「医薬品価格調査(薬価本調査)の速報値について」(2011年12月2日)
  • 日本医師会通史(有岡二郎)(https://www.med.or.jp/jma/about/50th/

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