少子化財源〜医療保険に上乗せのなぜ?

2023年11月11日
全体に公開

 こども家庭庁で大臣懇話会が開かれ、少子化対策を実施するための財源として、医療保険を活用する案が提示されました。「「社会保険の流用だ」という専門家の批判もある」などと指摘されていますが、一体、どういうことなのでしょう?

 似たような話は、医療保険制度について以前から指摘されており、「本来的には税でカバーすべきものを保険料に付け替えることが実質的に行われてきた」などと言われてきました。

まずは、こうした過去の議論を振り返ってみたいと思います。

保険における給付と負担の関係

 日本の医療制度は、イギリスのような税方式ではなく、社会保険方式をとっています。

 一般的に、「保険」は、何らかのリスクに晒されている人たちが、皆んなでリスクを分かちあい、リスクが発生した際の影響などを和らげるための仕組みです。したがって、病気などのリスクに晒された時に受ける医療(給付)と、そうした事態に備えて支払う保険料(負担)の関係が比較的明瞭です。

 また、こうした趣旨から、「リスクに応じて負担し、必要に応じて給付を受ける」ことが原則となり、病気になるリスクが高い人は、より高い保険料を支払うことになります。

税における負担と給付の関係

 こうした「給付」と「負担」の関係は、税金で賄う事業の場合には必ずしも明確ではありません。「能力に応じて負担し、必要に応じて給付を受ける」という、社会扶助的な側面がより強調される傾向にあります。

「保険」と「扶助」、両方の要素をもつ医療保険制度

 社会保障としての日本の医療は、この「保険」としての側面と、「扶助」としての側面を両方持っています。財源の面では、医療保険制度とは呼ばれるものの、医療費の4割近くは公費で賄われ、保険料で賄われているのは50%程度です。

機能と財源の関係が曖昧だという課題

 ここで、一つ、今回の少子化対策とも通じる問題があります。医療保険制度のなかで、「保険」的要素が強い部分には「保険料」を、「扶助」的要素が強い部分には「税金」を用いる、といった機能と財源の関係性が曖昧だと指摘されることがあります。

 例えば、少子化対策の支援金を議論するに当たって、保険を活用している類似の仕組みとして後期高齢者支援金が挙げられていました。この支援金は、下図のとおり、75歳以上の後期高齢者が給付(医療)を受けるために、74歳以下の人たちが支援金を負担するというものであり、「保険」という観点では、給付と負担の関係が明確ではありません。

 こうした理由から、「保険料の名を借りた租税負担である」などと批判され、法的により厳格な対応が必要なのではないかと指摘を受けたりしてきました。

今後の具体的な議論に向けて

 一般的に、「扶助」的な性格が強い場合には、給付と負担が結びついていないため、給付の拡大を求める圧力が強くなることが多く、財政的な観点からは不安定になりやすいといわれています。また、給付によって期待される機能と財源の関係が曖昧で、増税への忌避感が強い場合には、こうした財政圧力は「保険料」に向かいやすくなります。

 こういった理由から、機能と財源の関係をきちんと整理した上で、少子化対策を実行していくことが期待されています。

 今後、支援金の対象となる事業や負担と給付の透明性の確保の方法等について、法的な位置付けも含めて、具体的な検討が進められることとなっています。

 今後の議論が楽しみです。

参考文献

  • こども家庭庁「支援金制度等の具体的設計に関する大臣懇話会(第1回)」(令和5年11月9日)
  • 日経新聞「少子化財源、全世代で負担 「支援金」後期高齢者も対象」(令和5年11月9日)
  • 健康保険組合連合会医療保障総合政策調査・研究基金事業「公的医療保険の持続可能性に対応した公費のあり方に関する調査研究報告書」(令和3年10月)
  • 厚生労働省「令和3年度国民医療費の概況」(令和5年10月24日)
  • 厚生労働省医療保険部会「高齢者の保険料賦課限度額や高齢者医療制度への支援金の在り方(参考資料)」(令和4年11月17日)
  • 土居丈朗(三田学会雑誌)「医療保険・介護保険における税と保険料の役割分担」(平成25年)
  • 島崎謙治(東京大学出版会)「日本の医療 制度と政策」(平成23年)

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