ヴェルディ「ナブッコ」で思考の時間軸を広げる

2024年3月21日
全体に公開

METライブビューイングオペラでヴェルディの「ナブッコ」を見ました。

舞台は紀元前のユダヤ人国家であるユダ王国。当方の強国であったバビロニアの攻撃を受けて、ユダヤ人はバビロンに連れて行かれます。すべて殺されようとするときに、バビロニアの王がユダヤ教に改宗して、ユダヤ人は助かる…。

歴史上の事実であるバビロンの捕囚をモチーフに、バビロンの王ナブッコ(ネブカドネザル2世)とユダヤ人の間の戦いが創作作品の小説として描かれます(ストーリ―自体は実話ではない)。

本作品を見て改めて、ユダヤ人から見た世界観、宗教観というものが分かると思いました。

第一に、聖書に述べられているユダヤ人の地であるカナンに対する熱い思いです。

第三幕の「行けよ我が思いよ黄金の翼に乗って」は誰も知っている名曲の場面。追われた故国への思いをこれほど見事に表現できるのはヴェルディの名曲ならではですね。

第二に、周辺の強国に対する恐怖心です。

バビロンの捕囚が起きた紀元前6世紀において、バビロンは東方にある強国でした。この地に連行されて約50年間にわたり捕囚としての生活を余儀なくされました。バビロンと現在のイランと重ね合わせるユダヤ人もいることでしょう。

第三に、偶像崇拝に対する嫌悪感と一神教の神への崇拝です。

ナブッコの舞台では、バビロンは未開の地として描かれ、邪神の像が多数出てきます。「神でないものを神として敬っている」というメッセージが伝わります。一神教の人たちが偶像崇拝をどのように見ているかが分かります。

キリスト教徒であるヴェルディにも、同じ一神教であるユダヤ教の神への崇拝に対して敬意を表したい気持ちもあるのではないかと推測します。

現在のハマスとイスラエルの戦争の源はこの時代にあると言っても過言ではありません。ハマスへの過剰攻撃や人権蹂躙は決して許されるものではありません(私自身アラビア語話者としてパレスチナ側の思いもある程度分かります)。

同時に、ユダヤ人の周辺の強国に怯えるという世界観も理解して和平を構築することも大事でしょう。

世界の数多くの演劇の中でも、ほぼ最古の時代を扱っている作品。自分の中の時間軸を広げて、歴史を俯瞰する思考と創造性を高める意味でも大変にお奨めの作品です。

※写真はエルサレムの風景(Unsplash)

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