2023年まとめ:女性活躍において重要な「女性特有の健康課題」の取り組み

2023年12月24日
全体に公開

🧑‍🏫この記事でわかること

・2023年、女性の健康課題に関する政府の取り組み

・2023年、女性の健康課題に取り組むスタートアップの事業譲渡

・2023年、女性の健康課題に関するファンド設立や海外投資

・2024年、国内フェムテック市場予測

✍️2023年国内スタートアップ資金調達まとめ

2023年国内スタートアップ資金調達まとめについて、過去に書いた記事はこちら👇

2023年国内フェムテック資金調達一覧(公開情報をもとに筆者が作成)

1.2023年女性の健康に関する政府の取り組み

 (1)「女性の健康」ナショナルセンター機能の構築(厚生労働省)

厚生労働省では、2023年3月に国立生育医療研究センターに「女性の健康に関するナショナルセンター」機能を持たせ、女性の健康に関する研究や情報提供に取り組んでいる。

女性のバイタルデータは不足している。現在は、各病院や研究機関で実施していた不妊症や更年期症状などの研究について、司令塔機能を構築することで、日本女性の健康に関するエビデンスを蓄積していく計画である。

政府の女性版骨太の方針や、こども未来戦略方針でも、女性の健康ナショナルセンターについて触れられており、2024年も政府として力を入れていく予定である。

 ア.女性版骨太の方針2023(6/13)

④「女性の健康」ナショナルセンターの創設
国立成育医療研究センターに「女性の健康」に関するナショナルセンターとしての機能をもたせるとともに、全国の研究機関等の支援のため、我が国の女性の健康に関する研究の司令塔機能を構築する。

また、「女性の健康」に関する最新のエビデンスの収集・情報提供ができる仕組みを構築する。
出典:女性版骨太の方針2023

 イ.こども未来戦略方針(6/13)

女性が、妊娠前から妊娠・出産後まで、健康で活躍できるよう、国立成育医療研究センターに、「女性の健康」に関するナショナルセンター機能を持たせ、女性の健康や疾患に特化した研究やプレコンセプションケアを含む成育医療等の提供に関する研究、相談支援等を進める。
出典:こども未来戦略方針

 ウ.経済財政運営と改革の基本方針2023(6/16)

フェムテックの利活用やナショナルセンター機能の構築を含めた女性の健康支援、WPS等により女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会を実現する。
出典:経済財政運営と改革の基本方針2023
UnsplashのHansjörg Kellerが撮影した写真   

 (2)フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金(経済産業省)

フェムテック(月経、不妊、妊娠・出産、更年期等と仕事の両立支援)等の製品・サービスを活用した、ウェルビーイング実現に向けた事業に対し、事業費の3分の2以内、上限500万円として、国が補助金を出している。

2021年度は20件、2022年度は19件、2023年度は18件の事業を採択している。

東京都でも、2023年度から助成対象と認められる経費の3分の2以内、上限2,000万円として、フェムテックの補助金事業を実施。

国や地方自治体が、フェムテック事業の推進に動き出しているが、この背景にあるのは「女性活躍推進」である。

UnsplashのHansjörg Kellerが撮影した写真   

2.2023年スタートアップの事業譲渡

 (1)生理予測・体調管理アプリ「ラルーン」を、メドレーに事業譲渡(10/24)

エイチームウェルネスが展開している女性向け生理予測・体調管理アプリ「Lalune(ラルーン)」を、オンライン診療を手がけるメドレーに売却。

日本でも月経管理アプリは、ルナルナをはじめ、ラルーン、ペアリズム、コウノトリなどが存在している。ラルーンは、独自AIによる生理・排卵日予測や、医師監修のコンテンツが充実している。

ヘルスケア企業によるFemtechスタートアップ買収は、昨年海外で多かった印象を持っており、2024年はますます日本でも増えると推測している。

 (2)オンライン漢方相談サービス「わたし漢方」が、アイセイ薬局グループに事業譲渡(12/1)

アイセイ薬局グループの100%子会社である株式会社AXISが、わたし漢方株式会社より、オンライン漢方相談サービス『わたし漢方』の事業譲受を実施。

わたし漢方は、LINEで身体の悩みを相談すると、薬剤師が一人ひとりにあった漢方薬を提案、そのまま購入・決済・配送手配までできるオンライン漢方相談サービスである。

アイゼン薬局グループは、2023年から新規事業への本格参入に向けて、複数のオープンイノベーションプログラムを実施するなど、活動を加速させている。

わたし漢方の事業譲受後は、保険薬局事業の「治療」領域に加えて、漢方処方という「未病」領域にも展開することで、既存ユーザーへの新たな製品の提案なども期待されている。

UnsplashのAbbe Sublettが撮影した写真   

3.2023年ファンド設立や海外投資

 (1)Sony Innovation Fundが英国Peppyに出資(1/11)

英国で従業員の福利厚生プラットフォームを展開するPeppyが、米国市場への拡大のためにシリーズBで4,500万ドルの資金調達を実施。日本のSony Innovation Fundも出資している。

Peppyは、世界ではじめて従業員の福利厚生として、更年期障害サポートを開始したことでも知られる企業である。

日本でも更年期市場は盛り上がりをみせており、今年はオンライン診療を中心に更年期のスタートアップが複数立ち上がっている。

 (2)あすかイノベーションファンド設立(4/3)

女性特有疾患などの製薬を手がけるあすか製薬がCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を設立。投資対象に「月経、不妊、更年期障害に関する課題解決を担うスタートアップ」が含まれている。

2023年は、フェムテック市場介入を志す企業へのコンサルティング薬事業務支援などを行うfermataへ投資している。

 (3)NEXTBLUEがアジア初、女性のウェルビーイングにフォーカスしたファンド設立(9/26)

日本と欧州のスタートアップへの投資と新市場展開を支援を行うNEXTBLUEが、アジア初の女性ウェルビーイングおよび女性起業家の投資を目的としたファンドを設立。

現在のヘルスケアサービスの多くは男性を基準として作られたものが中心となっており、女性のヘルスケアに割り当てられる資金は全体の2%となっている。

ESGの観点を踏まえて企業価値向上を目指す組織が増えている中、女性ヘルスケア・ウェルビーイング領域の市場は大きく成長すると言われており、今後の展開に期待したい。

 (4)DG Danwa Ventures、Allara HealthへGV(旧Google Ventures)等と合同投資(10/26)

米国を拠点に、慢性的なホルモンバランスの乱れによる疾患などに悩む女性を対象としたテレヘルスプラットフォームを展開するAllara Health。

デジタルガレージと大和証券グループが合弁で設立したベンチャーキャピタルであるDG Daiwa Venturesが、GV(旧Google Ventures)などと合同で、1,000万米ドルを合同投資した。

女性の3分の1以上がPCOS(多嚢胞卵巣症候群)、子宮内膜症、甲状腺機能低下症などの慢性疾患を抱えているにもかかわらず、慢性疾患を抱える70%の患者は、適切な診断・治療を受けられていない。

その結果、不妊、ハイリスク妊娠、肥満、糖尿病などを発症すると言われている。

Allara Healthのユーザーは、1年で5倍に増加しており、米国での女性ヘルスケア、特にテレヘルス市場の盛り上がりが伺える。

UnsplashのPrecondo CAが撮影した写真   

4.まとめ:2024年国内フェムテック市場予測

国内フェムテック市場の資金調達や政府の動きなどを振り返り、来年のフェムテック市場は、「予防」「性差医療」「中高年」がキーワードと推測している。

日本は国民皆保険もあり、「病気になったら病院へ行けばよい」という文化がある。しかし、Apple Watchなど腕時計型や指輪型のウェアラブルデバイスが、比較的安価になってきたことや技術の進化により、精度の高いデータを常時計測することができるようになった。

取得したデータについても、機械学習やディープラーニングの進化により、さまざまなデータを統合して解析することで、予測や分類が可能になっている。

その結果、以前は年1回の健康診断でしか取得しなかったバイタルデータが常時計測できるようになり、なりやすい病気の予測ができるような研究も進んでいる。

さらに、50歳以上の人口増加や、デジタルリテラシーの向上により、中高年のフェムテック市場が盛り上がると推測しており、引き続きウオッチしていく。

UnsplashのLuke Chesserが撮影した写真   

5.【お知らせ】女性のウェルネス課題デザインマップ公開

女性の健康にまつわる課題を整理した「女性のウェルネス課題デザインマップ」の作成に協力し、コメントしました。

女性の健康課題は、さまざまな課題が入り乱れており、事業立ち上げの課題整理の一助として利用いただけるとうれしいです。

女性の健康課題について、経済損失額が注目されていますが、何らかの症状があるにも関わらず、病院へ行く・薬を飲むなどの対策を取っていない女性も多いです。
その背景として、不快な症状を軽減するための方策について「教育を受けたことがない」知識の乏しさや「我慢してあたりまえ」という課題意識の乏しさがあります。

さらに「生理や更年期などの体調不良は公言すべきではない」という親世代の情報のすり込みやタブー感もある中、潜在化している課題を、顕在化していく取り組みを続けていきたいと考えています。

(木村恵、一般社団法人Femtech Community Japan)
PRTIMES プレスリリースコメント

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トップ画像:UnsplashのAmy Hirschiが撮影した写真

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