部位特異的組換え系によるモノづくりのカイゼン

2024年2月23日
全体に公開

CRISPR-Cas系は、さまざまな遺伝子を非常に容易に標的とすることができるため、この分野に革命を引き起こし、2020年にノーベル化学賞の対象になり、合成生物学の最もホットなトピックになっています。

しかし、CRISPR-Cas系には、オフターゲットといった望ましくない点突然変異や構造変化を引き起こすDNA切断、一部の生物で経験される編集効率の低さ、更には大きなDNA配列の挿入や欠失の難しさなど、依然として未解決の技術的課題があります。

Creリコンビナーゼ/loxPに代表される部位特異的組換え系は、原核生物と真核生物の両方において、今日の分子生物学および遺伝子工学における主要なツールとなっています。部位特異的組換え技術は主に、特定のDNA配列を認識して組換えるリコンビナーゼに依存しており、DNA配列の大きな欠失、反転、組み込み、転座を行うことが可能です。実際、リコンビナーゼによる部位特異的組換えは、合成酵母ゲノムへの複数の組換え部位の挿入によって複雑な構造を作るために、Sc2.0プロジェクトでも利用されています。

すべての部位特異的リコンビナーゼは、セリンリコンビナーゼ (例、φC31、Bxb1) とチロシンリコンビナーゼ (例、Cre、Flp、λ) の 2 つのグループのいずれかに分類されます。 両方ともDNAの切断と再結合を可能にする認識部位の塩基配列に依存しています。しかしながら、利用できる独立した直交組換えシステムは少数しかないため、代謝工学や遺伝子回路など、より複雑なアプリケーションでの使用は制限されています。

最も一般的に使用されるシステムの1つが、バクテリオファージ P1由来のCreチロシンリコンビナーゼです。Creリコンビナーゼは、助けとなるタンパク質を必要とせずにそれだけで効率的に反応を触媒します。LoxP配列を認識し、部位特異的組換えを行うことから、一般的にはCre-LoxPシステムとして知られています。LoxP配列は、8bpの方向性のあるスペーサーに隣接する 2つの13bp逆方向反復配列で構成される34bpの配列です。

ベルギーのKULeuvenのチームが、2月7日に2報のNature Communications誌に発表した研究では、Cre-LoxPセットで、新たに16個の新しいセットを開発し、実際に酵母での物質生産の効率化にこのシステムを利用することで、アスタキサンチン生合成経路の6つの異種遺伝子の多重コンビナトリアル発現最適化を行い、生産効率を2倍にすることに成功しています。

Cautereels, C. et al. (2024) Orthogonal LoxPsym sites allow multiplexed site-specific recombination in prokaryotic and eukaryotic hosts. Nat Commun 15, 1113. https://doi.org/10.1038/s41467-024-44996-8

Cautereels, C. et al. (2024) Combinatorial optimization of gene expression through recombinase-mediated promoter and terminator shuffling in yeast. Nat Commun 15, 1112. https://doi.org/10.1038/s41467-024-44997-7

最初の論文では、チームは、63の対称LoxP 変異体を開発し、1192 のペアごとの組み合わせをテストして、Cre 活性化時の交差反応性と特異性を決定しました。 最終的に、16の直交 LoxPsymのセットを確立し、原核生物 (大腸菌) と真核生物 (S. cerevisiae および Z. Mays) の両方で利用できることを示しています(下図)。

https://doi.org/10.1038/s41467-024-44996-8

2番目の論文では、1番目の論文で開発したLoxPsym-Cre組換えによる in vivo多重遺伝子発現改変アプローチを報告しています (GEMbLeRと名付けた) 。GEMbLeR は、直交する LoxPsymサイトを利用して、別個のゲノム遺伝子座でプロモーターとターミネーターモジュールを独立してシャッフルします。

このアプローチにより、例えば、代謝経路に関わる複数の酵素遺伝子の順番を並び替え、その並び替えの最適な順番を見つけることができます。グルコースから抗酸化物質アスタキサンチンの生合成経路にGEMbLeRを適用すると、その組み合わせの中から、生産量が2倍に改善するものができたと報告しています(下図)。

https://doi.org/10.1038/s41467-024-44997-7

日本国内では、CRISPR-Cas系ですと関心を持つ方も多いですが、Cre-LoxPやその他の部位特異的組換えシステムについてはあまり関心をもたれない傾向にあります。ぜひ、異なる部位特異的組換えシステムについても関心が高まることを期待したいです。

合成生物学は新たな産業革命の鍵となるか?」担当:山形方人

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