「価格が高い」という意識はどう形成されるのか
食品・飲料・衣服など、日常生活にかかわるありとあらゆるものが、値上がりしているといっても過言ではない今の時代。皆さんは、「高くなったな」と感じるものはありますか?
個人的には、コンビニのおにぎりの値段が昔と比べて高くなったと感じることが増えました。
実際、ジーアイ・マーケティング・パートナーズ株式会社の調査によると、2020年1~6月期と2023年1~6月期を比較した際、平均で約23円ほど値上がりしているそうです(※1)。
データでみるとたった23円の差ですが、体感的には価格差以上の値上がりを感じています。
では、私たちが買い物をする際に感じる「価格が高い」「価格が安い」といった基準は、どのようにして形成されるのでしょうか?
今回のトピックスでは、こうした価格の感じ方についてご紹介します。読んでいただくと、日々の買い物でお店の見方がちょっと変わるかもしれません。
価格の価値基準
私たちは、日々の生活の買い物を通して、「〇〇は何円くらいだよね」という価値判断を形成します。
例えば、皆さんにとって、Tシャツ一枚の金額はいくらくらいが妥当というイメージでしょうか?
普段ユニクロでTシャツを買われる方は、1990円や1500円程度が妥当な金額と思われるかもしれません(※2)。
いわゆるラグジュアリーブランドでTシャツを買うことが多い方は、数万円と思う方もいらっしゃるでしょう。
このように、Tシャツ一枚にしても、「妥当だな」と思う金額は様々です。
消費者それぞれが有している「妥当だなと思う金額」のことを、専門用語で内的参照価格と言います。
価格が高い・安いといった判断基準の一つに、この内的参照価格がかかわってきます。
例えば、Tシャツ一枚1990円が妥当だと考えている消費者にとって、5000円や10000円のTシャツは心理的に敷居が高いものになります。逆に、普段30000円前後のTシャツを買っている人にとっては、20000円のTシャツすら割安に感じるでしょう。
別の例として、冒頭のコンビニのおにぎりの例を考えてみましょう。
私が中高生だった頃、多くのおにぎりは100~120円で買うことができたと記憶しています。
そのため、私にとってコンビニのおにぎりの内的参照価格は100~120円となっており、最近のおにぎりに割高感を感じてしまいます。
一方で、最近の中高生にとっては、今の値段が当然の値段という認識かもしれません。こうした人たちにとっては、コンビニのおにぎりの内的参照価格は140~160円であり、私よりも割高に感じることは少ないと思います。
このように、過去の購買経験によって、同じ製品であっても内的参照価格は異なることが一般的です。
価値基準の変動
ただし、内的参照価格は一度形成されると、永久に固定されるわけではありません。 その後の買い物経験によって変動します。
よくある内的参照価格の変動要因として、店舗によるセールが挙げられます。
スーパーマーケットでは、定期的に特売日などが設定され、様々なものが値下げされます。アイスを特売日で3割引きで買うと、特売日でないときは割高に感じ、買い控える・・・といった体験をされたことがある方も少なくないのではないでしょうか。
こうした現象は、特売によってアイスの内的参照価格が引き下がり、通常時の価格が割高に感じることから生じます。
実際に、価格プロモーションがおこなわれた際の価格は、そうでないときよりも正確に記憶されていることが研究によってわかっています(※3)。
こうしたことから、いくつかの研究において、セールは短期的には売り上げアップに繋がるものの、長期的には売り上げにネガティブな効果を与えるといった指摘もされています。
アンカリング効果
私たちはこの世のすべてのものに対して購買経験があるわけではありません。言い換えると、全てのものに対して内的参照価格を有しているわけではありません。
買ったことのない/見たこともない製品には、妥当な金額がわからないことがあります。
このことを利用して、値段表記に少し工夫をする手法の一つに、アンカリング効果をつかったものがあります。
アンカリング効果を使った値段表示の一例として、下図のようなものがあります。
このスニーカーの金額を提示したいだけであれば、15000円と表記するので十分なはずです。
しかし、30000円という価格を見え消しにすることによって、「このスニーカーの妥当な金額は30000円なのに、今は半額になっていてお得だ」と消費者に知覚させることができます。
こうした価格表示は、オンライン・オフライン問わずよく見かけます。
買い物をする際には、「お得!」と思って飛びつくのではなく、価格のマジックにかかっていないか注意しましょう。
※1:ジーアイ・マーケティング株式会社プレスリリース
※2:ユニクロのホームページより
※3:例えば、 中村博, 佐藤栄作, & 里村卓也. (1997). 消費者の価格意識 (3) 消費者の価格に対する記憶 (財団法人 [流通経済研究所] 設立 30 周年記念プロジェクト). 流通情報, (336), 4-17.など
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