【素材トレンド】ラグジュアリー業界でのサステナブルな製品開発

2023年12月23日
全体に公開

クリスマスはラグジュアリーブランドにとっても書き入れ時。その高級ブランドも近年は、時代の変化を受け環境を意識した製品開発を推進している。

社会の倫理意識の高まりが富裕層の消費価値観にも変化をもたらしていること、環境保護や動物愛護の話となるととりわけ贅沢品は後ろ指を指されやすいこと、などが動機として考えられる。ただ、高級ブランドの場合、心を豊かにする品質や品位が欠かせないため、サステナブルな製品開発においても感性的なこだわりが見られる。特に「素材」の扱い方がユニークで注目に値するものが多い。

目次
・フェイク〇〇からエシカル〇〇へ
・華やかなドレスに欠かせない「スパンコール」も植物性に
・「使い道のない有害な廃棄物」が高級宝飾品に生まれ変わるケースも
・持続可能でラグジュアリーな素材には、「ストーリー」も重要

フェイク〇〇からエシカル〇〇へ

今から5~6年前に「エシカルダイヤモンド」が話題になった。エシカルダイヤモンドとは人工ダイヤのことである。結婚指輪の需要が高い年齢のミレニアル世代が、過剰労働による人権侵害や環境破壊の問題を抱える本物のダイヤモンドを敬遠していることから、その評価が高まった。

その流れを受け、南アフリカ共和国発祥で英国に本社を置く世界的なダイヤモンドジュエラーDe Beers(デビアス)も、2018年に人工ダイヤモンドのブランド「LIGHTBOX」を設立した。

出典:https://lightboxjewelry.com/pages/lab-grown-diamonds

ダイヤモンドの欠片「カーボンシード」にガスと熱を加え結晶化させる製法を採っているため、識別機器なしでは天然とほぼ見分けが付かないそうだ。

こちらは本物のダイヤモンドのリング 出典:https://www.debeers.co.uk/en-gb/home

とは言え、デビアスは天然ダイヤモンド市場の約3割のシェアを占めるブランド。1970年代に「結婚指輪は給料3ヶ月分」の広告メッセージを発信し、世間に定着させた経緯もあることから、主力商品である本物のダイヤモンド製品とのカニバリゼーションを起こさないために、人工ダイヤモンドはファッションアイテムとして気軽に身に着けられる製品ラインナップで展開している。(加えて同社は昨年よりブロックチェーンを活用した原石のトレーサビリティシステムの開発を進めている)

このように近年は、フェイク〇〇と蔑まれていたものが「エシカル〇〇」と呼ばれるようになりイメージが反転している。

「毛皮」もそうだ。母親の影響を受け熱心な動物愛護主義者のステラ・マッカートニー氏(父親はポール・マッカートニー氏)の高級ファッションブランド「Stella McCartney」では、2001年の創立時から一貫して動物由来の素材を使用しておらず、フェイクファーや合成皮革で代替えしている。

出典:https://flair-magazine.com/the-fur-free-revolution/  https://www.facebook.com/stellamccartney/photos

「FUR FREE FUR」と称した同ブランドのアクリル繊維製フェイクファー商品。エシカルファー(フェイクファー)は近年、他のブランドも採用するようになり、アルマーニは2016-2017秋冬コレクション以降、動物の毛皮の使用を停止している。

華やかなドレスに欠かせない「スパンコール」も植物性に

環境に配慮すると余計な装飾を排除する方向に向かうが、高級ブランドのファッションアイテムとなるとそうはいかない。贅沢品において「華やかさ」はなくてはならない要素だからだ。

出典:https://www.radiantmatter.co/

光に反射しきらきら輝く「スパンコール」は、ドレスなどに欠かせない服飾材料だ。だが、ポリ塩化ビニルなどの石油ベースのプラスチックを用いているので環境に優しくない。さらに発がん物質を含む有毒で生体蓄積性の化学物質を生成する可能性があるため、健康被害を及ぼすリスクもある。

サステナブルな素材開発を行う英国のRadiant Matterは、2019年から木から抽出したセルロースを原料とするスパンコール「BioSequin」を開発している。セルロースの結晶形態が光を屈折させる効果を活かし、顔料、染料、金属、鉱物を必要とせずにスパンコールを自然に輝かせることを実現させたそう*¹。

出典:https://www.radiantmatter.co/  https://www.stellamccartney.com/jp/ja/radiant-matter-plastic-free-biodegradable-sequins.html
出典:https://lumeramag.com/articles/stella-mccartney-introduces-the-first-biodegradable-sequins

まだ試作段階だが、今年ステラ・マッカートニーがジャンプスーツ(上の画像)にこの素材を採用している。実用性はないが気持ちを高める効果のあるスパンコールのような装飾品にも環境性能が求められるようになったことは素材メーカーにとって大きな出来事なのではないか。ラグジュアリー市場で置き換えられるべき素材はまだまだたくさんありそうだ。

ちなみにステラ・マッカートニーは、植物性のヴィーガンレザーでも先陣を切っている。米国のバイオテック企業Bolt Threads社とパートナーシップを結び、昨年同社の”きのこ”レザー「Mylo」を使ったバッグを数量限定で販売した。

出典:https://www.stellamccartney.com/jp/ja/stellas-world/frayme-mylo-mycelium-bag.html  https://boltthreads.com/technology/mylo/

Myloはきのこの菌糸体をとうもろこしの茎に繁殖させ生成した新素材。レザーのテクスチャーを再現するので動物皮革の代替素材として注目されている。現時点では、表面コーティングに樹脂を必要とするため完全なプラスチックフリーではなく、環境性よりもヴィーガンであることの価値の方が大きい。

「使い道のない有害な廃棄物」が高級宝飾品に生まれ変わるケースも

出典:https://www.instagram.com/boucheron/?g=5

フランスの高級ジュエリーブランド「BOUCHERON(ブシュロン)」は昨年、解体工事で発生する産業廃棄物をジュエリーに変身させるという離れ業を成し遂げた。

実際には同ブランドが素材から開発したのではなく、同国のInertam社の「COFALIT」を使用している。健康被害のあるアスベストを含む解体現場の廃棄物を高温度の加熱処理で無害化しガラス固形化したもので、塊の状態だと黒曜岩のような美しい表情を持つ。ただ、粉砕して「高速道路の盛土」に使われる以外に使い道はなかった。そこで、ブシュロンはその鉱物のような素材の質感を活かし、ジュエリーへのアップサイクルを試みたのである。

出典:https://www.inertam.com/

産業廃棄物だったとは思えない美しい見た目のCOFALIT。

出典:https://www.instagram.com/boucheron/?g=5

多孔性物質であるCOFALITの表情を活かして成形。残念ながら経年劣化の有無などの品質確認が必要なため、商品化には至っていない。だが、

ゴミが高級品に生まれ変わる

という夢のような話を現実化させたことは、SDGsの制約下、ものづくりに携わる人々に希望を与える事実である。

持続可能でラグジュアリーな素材には「ストーリー」も重要

ラグジュアリー市場での環境に配慮した素材の採用は、ファッションブランドに限らず、自動車業界でも進められている。テスラは2017年に「ヴィーガンレザー」と称し、人工皮革のシート素材の選択肢を豊富に設けた。ジャガー・ランドローバーは、2018年に発売した2代目RANGE ROVER EVOQUEから、コアラが好むあのユーカリの木を原料とするファブリックをシートプションに採用している。(ユーカリテキスタイル=テンセルは、さらっとした感触の上質な生地で、製造過程での環境負荷もオーガニックコットンより低いとされる)

出典:https://www.tesla.com/
出典:https://media.landrover.com/2018/new-range-rover-evoque-responsible-luxury-its-heart

イヴォークのユーカリ生地採用は、高級車=本革シートの概念を覆す影響力があった。自動車の内装素材は高い耐久性や防火性が求められるため、サステナブル素材の採用においてファッションのような冒険はなかなか出来ないが、自動運転化に伴いインテリアの重要度が高まるにつれ、ユニークなマテリアルが登場するのではないかと予測する。

ラグジュアリーブランドには、素材が持つ「ストーリー」も重要な顧客価値となる。ファッションを中心に今回採り上げた素材も語れる物語がある。それはブランドをブランドたらしめる重要な要素であり「文化」である。環境を意識した素材開発が加速する中、もうすでにただリサイクル素材であることや植物由来の原料であることでは訴求しなくなりつつある。これは高級品に限らない。素材のユニークネス、面白さを追求するステージに突入している。今後もどのような含蓄のある素材が生み出されるのか、わたしも楽しみである。

《脚注》
*¹ 参考文献:Dezeen「Bio Iridescent Sequin made from trees responds to growing demand for greener fashion」2019.8.2

最後までお読みいただき、ありがとうございました。(o^∇^)ノ(トップ画像は、「てがきですのβ」と「イラストAC」のrabenさんのイラストを組み合わせて作成いたしました)   

追伸
TOPICSオーナーになって早半年が経ちます。
遅筆なため、毎週記事を書くのは大変でしたが、たくさんの方々にお読みいただき励みになりました。心より感謝申し上げます。
継続は力なりという格言を信じて、来年もアンテナを張ってデザインの潮流をみなさまにお届けできればと思っております。
引き続き、ご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。
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