第十三回:顧客価値実現に向けた「技術営業的なアプローチ」の重要性を考える

2023年12月16日
全体に公開

今回の内容は少し経験則よりで、スタートアップビジネスを意識した内容です

技術営業と聞くと、どのような働き方を想像されるでしょうか。プリセールス(プリセールスエンジニアとも呼ばれることがある)と呼ばれる職種を目にする機会もあるかと思いますが、通常のセールスパーソンと何が違うのでしょうか。

一般に、職種としての営業と技術営業の差分は提供するプロダクトやサービスの技術側面に対する関与度合いです。前者は契約や販売に関連する商談の進捗や、契約更新にオーナーシップを持つ担当者であり、後者は契約を完了に導くための技術面での顧客折衝を担当する役割であると理解されています。筆者がいた外資企業でもプリセールスに当たる専任者が各プロダクトごとに存在していて、それぞれのプロダクトを技術的な側面(どちらかというとエンジニアリングというよりはドメイン領域のスペシャリスト的な位置付けでしたが)から提案、受注に導いていました。

セールスパーソンは世に溢れるほどいますが、最近スタートアップ界隈で話をしているとよく聞く話にいいセールス人材がいないというものがあります。実は、この部分に一般的に定義される技術営業ではなく技術営業的なアプローチを今回取り上げる意味があります。

セールスパーソンがどれだけ自社のプロダクトを理解しているか?

価値共創を目指す営業活動において、価値は顧客の日々の活動の中で創造され、顧客によって認識されるものであると説明してきました。つまりセールスパーソンは自社の提案が顧客のビジネスプロセスの中だどのように価値創造の貢献が果たせるか考える必要があります。

この時に重要なポイントは自社(あるいは提案しているプロダクト)のケイパビリティを正しく理解していることです。いくつかの目線で、これらがうまくできていないケースについて考察します。

1. プロダクトの適切な機能や効果を理解していないために、価値提案が顧客に共感されない
セールスパーソンのプロダクト理解が浅い時に起こりがちなこととして、中身のない上っ面の提案になってしまうことがあります。これは、セールスパーソンが表面的にしか自社のプロダクトやケイパビリティを理解していないことから、機能訴求しかできなかったり、達成できる効果に自信を持てないことを引き起こし、買い手の意思決定を促進することができない状況です。

2. プロダクトや自社のケイパビリティを過剰に評価しすぎるために、実現可能性が低い提案をしてしまう
セールスパーソンが顧客の期待する機能要件に対してオーバーコミットしてしまい、実現のためにリソースを過剰に投下しなければいけなかったり、使い始めたところで聞いていた内容がそもそも実現できないという事態が発生します。このような状況では、買い手からのクレームに発展したり、解約や返品が発生したり、場合によっては損害賠償や以後の取引が認められない状況に発展しかねません。

3. プロダクト自体に興味や熱意が足りないことで、自分の中での情報更新が滞ってしまって顧客に誤った情報を伝達してします
特にスタートアップビジネスやSaaSプロダクトは顧客の声を取り込んで製品をアジャイルに発展させながら価値提案のカバレッジを広げていくことが多いです。その際に、プロダクト理解を継続的に更新していく興味や熱意が足りない場合、実はできるようになったことをできないと伝えてしまったり、逆に統廃合した機能をまだ使えるように説明してしまって事実と異なる情報を伝達してしまうリスクがあります。

1や2はどのビジネスでもよく聞くセールス商談の落とし穴です。これらは日頃の商談管理やセールストレーニングで一定は解消できるものもあるかと思いますが、3に関しては少し違う目線で補足します。

スタートアップマインドと技術営業的なアプローチ

先ほどの3つのうち、3の部分は特にスタートアップビジネスや新規事業を進める上で重要な営業マインドになります。

スタートアップでは一般的に、MVP(Minimum Valuable Product)と呼ばれる自社が価値訴求するための最初の小さなプロダクトを作り、それらが顧客の課題解決にfitしているか、マーケットのニーズに即しているか、市場でシェアを拡大しているプロダクトになり得るかをアジャイルに進めていきながらプロダクトを磨き上げていきます。

この過程におけるセールスパーソンの役割はプロダクトセリングに留まらず、アジャイルなプロダクト開発サイクルにおける進化の方向性を顧客の声から拾い上げて、進化した機能を伝え、フィードバックループを高速に回すための情報発信と共有という重要な役目を持ちます。

この時にセールスパーソンが売ることだけに専任したり、売るための手法に注力して思考していると、企業は重要なプロダクト進化のための羅針盤を失い、プロダクトが発展できず、セールスパーソンは売ることにフォーカスしているにも関わらず全く売れない(もしくは価値を実現しきれずすぐに解約されてしまうようなトランザクショナルな受注のみが増える)負のループ状態になってしまいます。

技術営業的アプローチはこのようなフェーズでは必要不可欠なものです。自社のプロダクトの現在地を正しく理解し、プロダクトと顧客のビジネスプロセスにおける価値ドライバーへのマッチングとギャップを把握し、価値提案と価値実現に向けたストーリーを作らなければいけません。つまり、従来からセールスパーソンが注力している顧客理解だけでは足りないのです。

また、顕在化したニーズに対してアプローチするコモディティなセールスではなく、新しい視点から顧客にインサイトを与えてビジネスモデルを変えるような価値提案を顧客に対して行うスタートアップビジネスでは、自社のユニークで革新的なテクノロジーを理解していないと顧客に対する価値訴求がそもそもできないため、日々の商談が具体化していきません。

では、セールスパーソンが価値共創に向けて技術営業的なアプローチをとるためには何が必要になるでしょうか。

自社のプロダクトやサービスに熱狂できているか

日々進化するプロダクト(自社のみならず競合や同じ課題に立ち向かうテクノロジーを含む)を正しく価値提案に活かすためには、自社のケイパビリティを理解して、自分達が提供するソリューションに自分が没頭できているかが重要です。

このためには、プロダクトに触れる、顧客のビジネスモデルにおいて自社プロダクトが価値発現できるポイントを理解する、その具体的なアプローチになるユースケースを持つ、すでに価値実現できている顧客活用事例を背景まで含めて理解する(プロダクトは何を達成できたのか)ことにリソースをしっかりかけなければいけません。

セールスパーソンの皆様が、自社のプロダクトに熱狂できているか、自社のユニークな価値訴求を適切なレベルで信じきれているか(過信は禁物)、顧客理解と同様に自社理解を深めないと、価値共創のプロセスは始めようがありません。

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