第十二回 BtoBtoCのビジネスにおける価値共創の最重要顧客接点:カスタマーサポート

2023年11月27日
全体に公開

カスタマーサポートは、最近注目を集めるカスタマーサクセスと比較して、受動的で消極的、コストセンターのように取り扱われることが多い。このことは、企業がコールセンターなどをBPOに外注することが多いことからもわかる。しかし、実際には企業にとって顧客の最前線であり、重要な接点であり、かつ顧客の声が一番に集まるカスタマーサポートを蔑ろにしている企業は成長を継続することはもはや難しくなってきている印象です。今回は、BtoBtoCの目線からtoCのカスタマーサポートの重要性を考察します。

カスタマーサポートの位置付け

組織におけるカスタマーサポート

多くの企業(特に事業会社)ではカスタマーサポートに相当する機能があるかと思います、既存顧客向けのコールセンターなどはイメージしやすいでしょうか。サプライチェーンを担うメーカーでは、カスタマーサポートは受発注関連の対応納期調整などをおこなっているケースも多いかと思います。そのため、営業チームと一緒に対顧客コミュニケーションを行う部門というイメージもB2Bビジネスでは強いかもしれません。

より一般的な目線で考えると、カスタマーサポートは顧客接点が一番多い部署であり、生の顧客の声(VoC; Voice of Customer)が集まる重要な機能になります。このVoCは企業にとって貴重な資産になり、サービスやプロダクトの改善、新規開発の源泉、upsellやcrosssellのきっかけになったりするため、VoCデータの分析と活用は企業にとっても重要課題になっています。

顧客から見たカスタマーサポート

一方で、顧客から見たカスタマーサポートはどのような立場でしょうか。困ったことが起こらなかったり、使っている製品やサービスに疑問が生じないと我々はカスタマーサポートに触れる機会は多くないかもしれません。しかし、ひとたび利用しているサービスで不具合があったり、製品にトラブルがあったときには真っ先にカスタマーサポートにコンタクトします。つまり、多くの場合で消費者にとってカスタマーサポートは負の位置から関係が始まることになります。

この観点は非常に重要になります。もし企業が「設置せざるを得ないからカスタマーサポートを置いている」という姿勢になっていると、その消極的な姿勢は簡単に顧客に見透かされ、負の顧客体験を作ってしまい、それが口コミとして広く拡散されてしまうリスクがあります。良い噂はゆっくりじわじわと浸透する反面、悪い噂は瞬く間に広がってしまうのは皆さんも目の当たりにする機会が少なくないのではないでしょうか。

コストセンター or プロフィットセンター?

もう一つのカスタマーサポートに対する目線として、コストセンタープロフィットセンターかという議論があります。筆者の肌感覚も踏まえると、今時点で日本のカスタマーサポートはコストセンター的な扱いの企業がまだまだ多いように感じられます。これは、例えばクレームゼロ運動のような働きで問い合わせを減らしたり、カスタマーサポートに従事するオペレーターの人員を減らしてサポートコストを削減する方向で目標を設置することが多いことに起因しています。また、企業文化的にもカスタマーサポート(狭義でコールセンター)をBPOに外注している企業も非常に多いことからも同様の見解が伺えます。このBPOに対する外注費用を抑えるために、企業はBPOに値踏みするケースは少なくありません。

ただし、ここ最近になってカスタマーサポートをプロフィットセンターと捉える次世代型のコンタクトセンター構想を実行している企業も増えてきています。先ほど説明した通り、カスタマーサポートは顧客に対して最前線の機能であり、VoCが集まり、顧客体験に対するインパクトが非常に大きいことを理解している企業でこのような動きは加速しています。1:5の法則と呼ばれるように、一般的には同額の売上を達成するための獲得コストが既存顧客の場合は新規顧客の1/5程度であると言われているため、リピート率を高め、サポート活動からのupsell/crosssellの強化を目指すようになると、カスタマーサポートに従事するメンバーの働き方もまた変わってきます。

カスタマーサポートとテクノロジー

カスタマーサポートのデジタルアプローチ

カスタマーサポートはヒトによる対応が強くイメージされますが、現在は多くの場面でデジタル活用が進んでいます。例えば、顧客データ管理についてはCRM(Customer Relationship Management, Salesforceのツールなどが有名)やCDP(Customer Data Platform, Treasure Dataのツールなどが有名)といった顧客データ基盤と、カスタマーフロント側(例えば電話応対ツールなど)の顧客応対プラットフォームの連動によって、タイムリーに応対記録を顧客情報に紐つけるなどが進んでいます。さらに、Web上でのチャットbotや電話でのボイスbotなどはAIの進展によって一気に利用が拡大され、さまざまなカスタマーサポートにおいて効率化を達成してきています。

カスタマーサポートのデジタル化のキーポイントは顧客データ統合にあります。顧客と自社サービスのタッチポイントを顧客起点のデータで紐つけていくことで、顧客満足の一点ではなく顧客体験を全体的に見た場合のサポートの意味を付加することになります。そのため、企業は顧客接点となるタッチポイントをできる限り1st Party Dataとして取得して(あるいは積極的に顧客からデータ提供をもらうZero Party Data)、顧客データのプラットフォーム上で統合して管理し、顧客向けのアクションに活かして、そのリアクションから真の顧客満足、NPSを収集するようになってきています。

AIとカスタマーサポート

カスタマーサポートでAIが活用される部分は広がってきています。例えば先ほどのチャットbotについては、多くの企業がAIチャットbotとして顧客対応の自動化やパーソナライゼーションの達成を提供しています。カスタマサポートの体験を作る上でパーソナライゼーションサポートの即時性が重要な指標となるため、AIチャットbotが浸透することで多くの企業のカスタマーサポートがこれらに対してアプローチしやすくなりました。

また、VoCの分析でもAIや自然言語処理のテクノロジーが活躍する場面が増えています。カスタマーサポートが収集するVoCはテキスト情報として保持されるものがほとんどですが、大量の応対テキストデータから重要なポイントを抽出したり、顧客の負につながるコールリーズンを適切にグループ分けすることは、人手では時間も掛かってしまい到底達成できません。音声解析のAIが採用されることで、電話応対の内容がそのまま書き起こしされ、そのテキストデータを自然言語処理によってリーズン分類、付与してテキストを要約したり、テキストマイニングを行った結果を可視化して、サポート部門での改善や他部門への顧客データ発信を強めたりしています。

GPTの活用

ごく最近のLLM/GPTの発展は、他の分野と同様にカスタマーサポートの存在価値を引き上げています。先ほどのAI活用がさらに進展してきたイメージです。例えばチャットbotにGPTを使った場合は、顧客が入力したインプット(GPTから見ればプロンプトに当たるもの、もしくはプロンプトの素になる生データ)に対して、より自然でパーソナライズ化された回答、アンサーを返せるようになっています。他にも、顧客がWebサイト上で困りごとを検索した際のキーワードマッチングもGPTによって検索マッチング精度が高まり、顧客の自己解決を促進する方向に進んできています。さらには、顧客へのサポートコンテンツであるFAQをGPTが自動生成できるようになってきたことで、これまで時間と労力が必要とされていたカスタマーサポートのためのコンテンツ作成についても社内あるいは部署内で内製化して、素早く顧客に提供することが可能になりました。

しかし、chatGPTを利用したことがある方はイメージできるかと思いますが、chatGPTの回答の精度にはプロンプトの入力内容が重要になるため、サポート局面で精度良く回答を返せるかはまだまだ疑問点も多いです。チャットbotなどで顧客が利用するインターフェースとしてGPTを活用していく場合には、このプロンプトに当たる部分が顧客のテキスト入力に大きく依存してしまうため、それを受け取って生成される回答やサポートコンテンツとのマッチングは顧客の困りごとの言語化力に大きく影響を受けてしまいます。過去にチャットbotに顧客が入力したテキストの実績データからGPTを学習したとしても、教師データが果たして正解データと言えるのか、精緻なデータと見做せるのかには注意が必要です。

攻めのCSとしての次世代カスタマーサポート

プロアクティブ・カスタマーサポート

これまでのカスタマーサポートは、顧客が困ったときに自分から問合せ窓口を探して電話したり、FAQを検索したりチャットbotに困りごとを入力する(顧客が困りごとを言語化する)ことがほとんどでした。そのため、カスタマーサポートのスキルやテクノロジーの進化は問合せをしてきてくれた顧客に対する応対品質の向上や、そのデータの活用(コールログのテキストマイニングなど)、FAQにおける検索性能の向上やチャットbotを用いたFAQマッチングの試みが多く見られました。

しかし、どんなに電話応対の品質に磨きをかけたとしても、顧客が本当にサポートしてほしいタイミングで電話が繋がらなかったり、繋がった先が適切なサポートチームではなく待った挙句に転送でまた待ちぼうけしてしまう経験が皆さんにもあるのではないでしょうか。カスタマーサポートプラットフォームの第一人者であるNICE社はこれらの電話に対する顧客体験の既存をレポートにまとめて報告しています。ここで見られる調査結果は、誰しもが電話で問い合わせをするとなったときに感じることかも知れません。それほど、サポートセンターへの電話は負の体験を作り出している現状があるということです。

99%もの消費者が、カスタマーサポートへの電話においてフラストレーションを感じたことがあるという調査結果、NICE 2022 DIGITAL-FIRST CUSTOMER EXPERIENCE REPORTより抜粋、https://get.nice.com/Digital-CX-Research-Report.html

この調査では、消費者はもっと自己解決手段を提供してほしいと望んでいることが提示されています。この傾向こそが、FAQやチャットbotを導入している企業のモチベーションであることは想像に難くありません。しかし、それらも本当に使い勝手が良く、顧客が使いこなせているのでしょうか。

81%の消費者がもっと自己解決手段を欲しがっているという調査回答、NICE 2022 DIGITAL-FIRST CUSTOMER EXPERIENCE REPORTより抜粋、https://get.nice.com/Digital-CX-Research-Report.html

ここ数年で多くの企業が自己解決手段の実装に投資して、顧客の利用機会もカスタマーサポート全般として増えてきている現状にありながら、興味深い調査結果も出てきています。それは、デジタルネイティブであるZ世代でさえも、自己解決手段であるサポートツールに悪い体験を感じ、いっその事、自己解決ツール自体を必要としないという姿勢を示しているというものです。

二択の質問で悪い自己解決体験と自己解決手段を持たないことのどちらを希望するかと質問した際に50%もの回答が自己解決手段を持たない方がマシだと回答している調査結果、Coveo Customer Service Relevance Report2023 Bad Self-Service Is Worse Than No Self-Serice Customers Are Ghosting Youより抜粋、https://www.enterprisetimes.co.uk/2023/06/07/coveo-report-bad-self-service-is-worse-than-no-self-service/

この調査の重要なポイントは、自己解決ツールを使って、解決できなかったり使い勝手が悪くて解決できなかった体験を多くの方が経験していることがわかったことです。つまり、企業が困っている顧客に良かれと思って投資したサポートツールが逆に悪い顧客体験を作ってしまっている可能性が高いということです。

顧客体験向上を通じたロイヤルティの向上

顧客体験はカスタマーサポートにとって非常に重要なポイントです。そして、顧客体験の向上は顧客ロイヤルティの獲得に繋がり、企業の永続的な売上貢献位つながるファンを早出します。

カスタマーサポートの世界には有名なグッドマンの法則というものがあります。ジョン・グッドマン氏は彼の指揮するアメリカのTARP社にて消費者苦情処理の調査を行った中で、消費者の感情や行動、データに裏付けされたレポートを取りまとめており、その中でも日本語版も有名である著書の顧客体験の教科書―収益を生み出すロイヤルカスタマーの作り方デジタル時代のカスタマーサービス戦略はカスタマーサポートの業界においては必読のマスターピースです。

さて、グッドマン氏の見解をまとめたグッドマンの法則は以下のようなものです。

NPO法人顧客ロイヤルティ協会HPより転載、https://www.customer-loyalty.jp/goodman/

この第一法則にはとても重要なポイントがあります。それは多くの消費者は不満を感じても苦情を申し立て得ることすらなく、無言のまま企業が気付かないうちにサービスから離反してしまっている(サイレントカスタマー)という内容です。その一方で、第一法則に記載されている通り、不満や意義を申し立てた消費者の再購入決定率が非常に高いことは興味深い結果です。つまり、サポートが顧客に届き、解決に貢献さえできれば、顧客は不満を持った時よりも製品やサービスの価値を適切に理解してくれる可能性があるということです。

NPO法人顧客ロイヤルティ協会HPより転載、https://www.customer-loyalty.jp/goodman/

これらのデータからも分かる通り、そもそも困ったことがあったり、苦情があったとしても顧客は企業に問い合わせをすることはほとんどなく、顧客接点を作ること自体に苦労しています(日々のあれこれ使っているものでちょっと困っても、皆さん問合せなんてせずにググったりSNSで探してみたり、放置したりなんてことが多くないですか?)。さらに、そのような状況でデジタル上の自己解決を促進することで、顧客の一次情報を取得する機会を逸してしまい、かえって使いにくかったり余計なフラストレーションが溜まるような顧客体験を提供してしまっていると、企業は顧客の価値実現に貢献するどころかネガティブな体験のみを顧客に残して、悪評の拡散と共にサービスから離反されて戻ってこないことになってしまいます。

顧客体験の向上のためには、顧客をよく知ることが重要です。近年のカスタマーサポートはもちろん、顧客理解を目的としたテクノロジーの活用についても進んできています。そのためには、一般的にDX(デジタルトランスフォーメーション)で説明されるようなデータ統合を顧客データに対して行い、各部署や各アクションでサイロ化された顧客データを積極的に使った顧客プロファイル(つまり本当の意味でのペルソナ)をより高解像度で把握することが重要であり、それらを扱っていくようにカスタマーサポート業務や従事する従業員の働き方をデザインしなければいけません。

カスタマーサポートこそ価値共創に重要である理由

これまでの記事でも触れた通り、価値共創は製品やサービスが顧客によって利用される中で実現していくプロセスであり、その価値の受益者は顧客です。つまり、製品やサービスが販売、契約された後の時間でいかに顧客との接点を持ち、価値実現のためのステップを伴走していくかということです。

サービスドミナントロジックで提唱されている使用価値(Value-in-use)や文脈価値(Valu-in-context)まさにカスタマーサポートが日々の顧客接点で提供している活動に直結して積み上げられるものと考えることができます。前回の記事でまとめたカスタマーサクセス同様に、また前々回の内容であるアカウントマネジメント同様に、一般的にセールス活動が「終わった後」とされる世界で交換価値のみならず、使用価値や文脈価値が形成されていくことになり、その評価として継続的な製品・サービスの利用と拡大を通じた顧客生涯価値(LTV; Life Time Value)が積み重なるものです。

これこそがカスタマーサポート機能の経営貢献であり、事業貢献につながります。そう考えると、企業としてはカスタマーサポートをコストセンターとしてコスト削減ばかり目標にした部署とすることはできなくなります。企業はカスタマーサポート機能を通じて、これまでよりも顧客を理解し、これまでよりも多くの顧客を接点を持ち(サイレントカスタマーを救済する)、これまでも高度でシームレスに統合されたカスタマー起点のデータをビジネスにフィードバックするための投資対象(つまりリターンを得るためのプロフィットセンター化)として認識されるようになってきます。

筆者による作図

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